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侮蔑

2023/11/21

時刻25:00。
夜中に出発したバスはカイセリ市街を越え、灯りも疎らな地域をひた走る。

そして向かうはトルコ南東部、シリアと国境を接する街マルディンだ。


日本外務省が
渡航危険レベル最大の“4”と指定する
退避勧告地域である


なぜ此処に行くのか



それはタイ東北部のノーンカーイ〜バンコクを共に過ごしたセイマ君からの情報だった。
彼は今年の9月中旬にこの街を訪れている。
それを聞いた私はこの地を調べ、トルコでありながら全く違う趣の景色、そして住民の生活に興味を持ち、実際に見たくなったのだ。



しかし今は10月7日に勃発した
【2023年パレスチナ・イスラエル戦争】
その真っ只中



正直、悩んだ。
しかしセイマ君からのアドバイス、そして自分なりに調べた結果



まぁ
たぶん大丈夫だろう…


そんな根拠に乏しい
謎の自信を頼りに現地へと向かっている


明け方

この辺りが最も危険とされる地域らしい


感想としては

特に危険は感じない


時刻9:00

マルディン・バスターミナルに到着

いかにも辺境といった、のどかな景色。
ピリピリした緊張感は無い。

目的地の旧市街までは徒歩約40分。
バスもあるがチェックインまで時間があったので、ゆっくり歩いて向かう。





パンッ!


パンッ!パンッ!




えっ?




パンパンッ!
パンパンパンパンッ!!




発砲音メチャクチャ鳴ってんじゃん…



道端で人に聞くと、その男性はライフルを構えるジェスチャーを見せた。
「あの山でやっているんだ」と…。

あの山


まぁ…とはいえ相当に遠いので被弾する事は無いだろう。

気を取り直し、再び旧市街へ向け歩き出す。

ひたすら上り坂
ひたすら…


重いバックパックを背負いながら、少し息を切らし始めた頃、正面に子供が見えた。

年の頃10歳くらいの少年達3人。

笑顔で「ハロー!」と言って近づいて来る。
私も笑顔で「ハロー!」と返す。
そしてすれ違いざまに握手を求められ、その手を握り返し、2人目の子と握手をしようとした。
が、その少年はスッと手を引いたかと思うと



私の目を見て大笑いしながら
中指を立てた



『おぉっ、元気だな』

イタズラだと思った私は“元気いいね!”という意味を込めてグッドサインを返す。
そして笑顔ですれ違い、少し歩いた辺りで




ゴロンッ!




……は?




ゴロンッ!



まさか…

離れた場所から石を投げつけてきたのだ



石といっても、ピンポン玉より少し大きい程の“小岩”だ。
距離は十分に私を捉え、30センチほど横をかすめる。
こんな物が頭に直撃でもしたら、冗談抜きに大怪我どころか、死んでもおかしくない。



あのクソガキがっ!


そう思ったのは気持ちの2割ほど

実のところ
あまりの意外さ、唐突さに
感情の整理と理解が追いつかなかった

少しの悲しさと
なぜ石を投げつけてきたのかという疑問

しかし今
そんな事を考えている余裕は無い

とにかく
振り向かずに、立ち止まらずに歩き続け
その場を去る

それが最適解だと思った




しかし

アレがもし直撃してたら俺

どうしてただろうな



いやマジで



何はともあれ

マルディン旧市街へ

入り組んだ旧市街の脇道に少し苦労したが、まずは無事にチェックイン。

洞窟のような部屋

この街にドミトリーは無さそうなので
個室を取った


早速荷物を置き、市街地を歩く。

Zinciriye Medresesi
(ジンシリエ  マドラサ)

マルディン観光名所の一つ
教育や礼拝所として使用され
その後、刑務所になったらしい
眼下に広がる
北シリアの平原
この街は岩山の上という立地から
戦略上の要地とされている
昼食

いつもの最安パン、唐辛子ペースト
焼きプリンの様なデザート
アイランという名の飲むヨーグルト

合計60TL(約311円)


しばらく歩き、何となく様子が掴めてきた。
この街にも親切で好意的な人はいる。

一方で、明らかに侮蔑の色を示す者もいる。

ほとんどが未成年だ。
しかし、その子供達に根本的な問題があるとは思わない。
家庭の躾なのか、人種差別が土地に根付いているのか、はたまた…。
そのどれか、または複数の原因があるのかもしれないが、とにかく子供は隠さずに態度を見せているだけで、一部の大人にも同じ感情があるのだと推測される。
ある時、すれ違い様に見たその表情は明白だった。





おい、お前
今聞こえたぞ




ハッキリ言って、私は馬鹿にされる事にあまり抵抗が無い。
不細工な顔は自覚しているし、むしろ“売り”にしてきて感謝さえしている。

そしていつか、こういった差別的な扱いを受ける日が必ずくる事はわかっていた。
遅いとさえ思う。

『なるほど、これが噂に聞いていたものか』

まぁ、そんな具合だ。
流石にあれほど大きな石を投げてくるとは思わなかったとしても…。


何より、これまで旅をしてきた中では圧倒的に優しい人が多かったので、今さら何人かに馬鹿にされようと気にするものではない。
それが霞むほど沢山の親切を受けてきた。
また、全員に好かれるなど不可能だという事も当然わかっている。



それにしても

あのニヤニヤした目つき
鼻で笑い、片方だけ上げた口角



他人を心から侮蔑する時
人はああいう顔になるんだな…



初めて見たわ…


観光客が通らない
地元向けのマーケット




一旦、宿にて休憩
隣のカフェ


再び外出

高台から望む夜景と日没
そして北シリアの平原
帰り道
奥の山上に光るはマルディン城

今はNATO兵士の軍事施設として使用され
立ち入る事はできない



実際に来てみても、やはり今までのトルコとは全く違うアラブ風の街並みが新鮮だ。
土色の岩山斜面に広がる石造りの家々。

人種も違うようで、顔立ちが異なる。
ムスリムの人達もいるが、名産としてアルコール(マルディン・ワイン)が盛んに売られていたりと、やはり独特な場所だ。

これらを経験できた事は良い収穫だった。




しかし
やはり今朝の石を投げてきた子供達…



もしかしたら
私にも失礼があったのかもしれない

心当たりはグッドサイン
日本や諸外国では良しとされるも
親指を立てる通称“サムズアップ”は
中東やブラジルを除く南米では侮蔑のサイン

今までのトルコ各都市では問題無く
ヒッチハイクもこのポーズでしてきたので
油断していた

だが、アラブにより近いこの地域では
非常にマズかったのかも知れない

それは大いに反省し
今後、気をつけなければならない




だけど…
それはそれとして

最初に示された
ファック・ユー・サイン




あれはどう考えても駄目だよなぁ…



2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。