運河の片隅、国境を越え

札幌を離れ、小樽に着く頃にはすっかり暗くなり、辺りは街灯に照らされ賑やかな装いになっていた。

駅前のホテルにチェックインし、荷物も置かずにまた外に出る。
この日は相当歩いたので休みたかったのだが、その前に買っておきたい物があった。

ホワイトボードである。
これを使って世界各地でヒッチハイクしようと思っているのだ。

と、その前にこの小樽から再び札幌までチャレンジしようと考えていた。
近くのドン・キホーテに立ち寄り、持ち運びやすさよりも目立ちやすさを優先し、予定より大きいボードを購入した。

『これを掲げて世界中の路上に立つのか…!』
鼓動が微かに早くなる。
不安も無いことはないが、それよりも楽しみの方が大きかった。

意気揚々とホテルに持ち帰り、黒のマーカーで大きく「札幌」その下に少し小さい赤文字で「世界一周」と書いた。
その方が興味を引いて車が止まってくれるんじゃないかと思ったのだ。

その日の夜は興奮して眠れなかった。

翌朝、用意したホワイトボードを持って小樽運河の片隅に立ち、走り抜ける車に親指を向けた。
4日振り、人生2回目だ。 

郊外とはいえ常に車が行き交い、そこかしこに観光客が歩いている。

『いやぁなに、初回の地元ヒッチハイクに比べれば恥ずかしくない』

そう思っていたのだが、どうにも視線が痛い。
皆がニヤニヤとこっちを見ながら連れと何やら話している。
少なくとも私にはそう感じられた。

『これはっ…恥ずかしいぞっ…!』

しかし、別に笑われる筋合いも気にする必要も無いのだ。
笑いのネタにされてる事には気にも留めず、淡々とサムズアップを取る。
気にしない。
30分経過…。車は止まってくれない。親子連れの子供がこちらを見て何か言っている。
気にしない…!
50分経過…車は通過するばかり。カップルが嬉々として何やら話している。
気にしないっ…!
1時間経過…。若い高校生がこっちを見て…
気にし…

「気になるわっっ!!」

その間に気付いた。
おそらくヒッチハイク自体がそこまで物珍しいわけではなく「世界一周」の赤文字が注目されてるのだと。
消した、迷わず消した。「札幌」オンリーだ。そして再びサムズアップ。

すると、不思議と視線が気にならなくなった。自分の気の持ちようなのかもしれないが、とにかくリラックス出来たのだ。
と、それが転機となったのか、その後すぐ一台の車が止まってくれた。

乗せてくれたその方はFaizさんというパキスタン人の方で、自国の風習や文化、国民性、美味しい食べ物など色々と話してくれた。
とても親切で、彼なら文字を消さずとも止まってくれた気がする。
国際交流の時間はあっという間に過ぎ、最後に御礼のご挨拶と握手をしてお別れをした。

いずれ訪れるパキスタンの地で彼と共にした1時間の出来事を思い、私の経験と思い出を持ち帰った後、またお会いしたいなと思う。

Hello,Mr Faiz.
Thank you for last time.

I will go Pakistan some day.
I really want to eat biryani there so bad.
and I want to experience your hometown.

Take care and see you again!!
Thx!!
With gratitude.

Masaaki Tamura

2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。