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Vol.1 「わかめを原料にした商品開発」

一次産業の生産時に出てくる廃棄物を日用品に変化させ、自然と人とが寄り添った暮らしをつくる。

そんな想いで立ち上げられたライフスタイルブランド「ura」で、最初の商品づくりが始まりました。

つくられているのは、シャンプーとコンディショナー。岩手県陸前高田市産の廃棄されるわかめの根元部分の茎のエキスを原料にした商品です。

この連載「ura 制作ストーリー『ura shampoo・ura conditioner』」では ura が取り組む商品開発の様子をご紹介します。
Vol.1の今回は ura の三浦尚子さんにシャンプーとコンディショナーがつくられることになった背景と商品開発に向けた想いをお聞きしました。

三浦 尚子(みうら ひさこ)
わかめ生産者 / 編集者
1991年生まれ。神奈川県出身。岩手県陸前高田市在住。玉川大学文学部比較文化学科卒。大学卒業時に陸前高田市で約1ヶ月間の漁業アルバイトを経験した後、2014年5月に同市に移住。マルテン水産で牡蠣やわかめの養殖作業に携わり、2020年にわかめ生産者として独立。"ura"の屋号でわかめ養殖作業のほか、SNS発信やWebメディアの運営サポートを行う


商品開発のはじまり

岩手県陸前高田市の「マルテン水産」で牡蠣やわかめの養殖作業に携わりながら、2020年10月にわかめの生産者として独立した三浦さん。わかめを使った商品づくりは、独立の準備を始めた時期から考えていたことだったといいます。

「『自分で製品をつくるなら、まずは自分がほしいものを』と考えて思いついたのがわかめを使ったヘアケア製品。この仕事に携わり始めた時期は何も知らなかったので、気にせずに作業していたんですが、漁師をしていると肌荒れや髪の痛みがひどくなるんです。紫外線と潮風を浴びながら、海水に触るのが日常なのでそれが当たり前ですよね。だから今は日焼け止めを塗ったり、髪や肌の保湿には気を遣っていて。そうした仕事柄もあって、ヘアケアに関わるものをつくろうと考えました」

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食べ物としてのイメージが強いわかめを、ヘアケア製品の原料とすることを考えた三浦さん。「食」以外の加工品をつくることには、一次産業に携わる人達に向けた想いがあります。

「一次産業の生産者が加工品をつくる時は、缶詰などの食品にすることが多いイメージがあるのですが、単純に他の人と違うことをしたら面白いんじゃないかと思ったんです。でも、理由はそれだけじゃなくて。『これまでとは違う視点で考える』ということを意識しました」

「そこで考えたのが、食品以外の加工ができることを他の一次産業に携わっている人たちに知ってもらいたいということ。もちろん生産者自身が加工までするのは大変で、すごくハードルが高いことだというのはわかっています。それでも、今までとは違う方法を知れると『自分にもできるかもしれない』と考える人もきっといると思うんです。私がつくる商品を通して、一次産業に関わる人たちにそうした気づきや何かをはじめるきっかけをつくれたらなとも思っています」

商品を通して、一次産業に携わる生産者が新しい事業や取り組みを始めるきっかけをつくれるように。ura が行う商品開発は単純にいいものをつくるだけでなく、他の生産者や社会のことまでが意識されています。


「春の海」をイメージしたシャンプー・コンディショナー

シャンプーとコンディショナーの開発に向けて、プロジェクトが本格化したのは2020年11月。三浦さんが知り合いづてに株式会社ファーメンステーションの渡辺 麻貴さんと出会ったことがきっかけ。ファーメンステーションは独自の発酵・蒸留技術でエタノールやサステナブルな化粧品原料などを開発・製造している企業で、これらの原料を使ったアップサイクル製品のOEM事業も行っています。

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「一度、岩手県奥州市にあるラボに行かせてもらう機会があって。そこでわかめを使った製品をつくりたいという話をしたら、すごく興味を持っていただいたんです。麻貴さんと話をしながら盛り上がって、ファーメンステーションさんと一緒に商品をつくることが決まりました」

三浦さんはファーメンステーションと打ち合わせを重ねながら、わかめを使ったヘアケア製品としてシャンプーとコンディショナーをつくることに。

原料には、三浦さんが独立して初めて収穫したわかめのうち、普段は廃棄されている根元部分の茎のエキスが使われることになりました。

「わかめの根本部分の茎は、海で刈り取ってそのまま廃棄されているものなんです。それがずっともったいないなと思っていたので、未利用資源を活用して製品をつくれることがわかった時はすごく嬉しかったです」

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2021年3月から4月に刈り取りを終えると、そこで収穫されたわかめの茎の根本部分を使って、6月から原料開発がスタート。

廃棄されるわかめの茎の根本部分のエキスを使うこと。自然由来の成分のみでつくること。三浦さんがシャンプー、コンディショナーをつくる上で大切にしていることは様々ありますが、天然精油を使った香りにすることもその重要な要素のひとつ。

「わかめの刈り取りを行うのは毎年3月から4月の早朝。原料が生産される場所の空気や雰囲気を感じてもらえるような香りを目指しています」

「春は生き物の動きが活発になって、植物が芽吹く時期。その『目覚め』の印象からさわやかな柑橘系の香りをもたせることにしました。また、早朝に太陽が昇って夜が明けていく風景を香りのグラデーションでイメージできるように、匂いが徐々に変化するシダーウッドを使うことにしました」

さわやかさと光のグラデーションを持つ、春の海のように。すでに何度も試作を重ね、イメージに近い香りができあがっているそうです。

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そして春の海をイメージした表現はボトルデザインにも。

「ブランドとしての考え方の整理やボトルデザインは、盛岡市のgrams design officeの山内稜平さんに依頼しています。『春の海』をイメージしながら ura のロゴやステートメントのモチーフである『水』を表現したデザインにしていただきました。私が普段接している海と山や川、空での水を起点にした自然の循環のイメージや水の表面や深さがわかるような色合いを検討しています」

「また、ボトル自体も環境への配慮を意識して、再生可能なバイオマスペットボトルを使用します。多くの人が自然の循環や環境を考えるきっかけになるブランドや商品づくりをしていたいと考えているので、どんな素材を使うかということもしっかり意識して決めたことのひとつです」

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現在はシャンプー・コンディショナーの使い心地や香りの調整、ボトルデザイン作業も終えて、販売開始に向けたプロジェクトは徐々に佳境を迎えています。

「まずは『この商品を知ってほしい』という想いが強いです。何かひとつのものを知って、選んで、買うという行為はすごく大切なこと。多くの人が『自分で考えて選択する』ことが、ura が目指す多様性のはじまりだと思っているんです」

「ura がつくるシャンプー・コンディショナーにはいろんな背景や想いが込められています。それに共感して買うのもいいし、いいと思っても買わないという選択肢ももちろんある。大事なのは『自分自身で選択すること』だと思うので、この商品を通してまずはちゃんと何かについて知ること、そして自分で考えて選択することの大切さに多くの人が気づくきっかけをつくれたらいいなと思っています」

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Vol.1はここまで。
次回は、シャンプーとコンディショナーの原料としているわかめの生産現場についてご紹介します。次回もぜひお楽しみに。

ura shampoo・ura conditionerは、公益財団法人さんりく基金の助成を受け製作しています。

(文:宮本拓海)

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