サイボウズで使われる共通言語がPRっぽい話
あなたの会社には会社固有の共通言語(キーワード)は存在しているか?
異なる背景を持つ個人がなにか一つのテーマを話すときに、お互いがどう思っているかの意識合わせをすることは非常に重要で、多様な個性が集まれば集まるほどに、議論が難しくなるのは言うまでもない。
サイボウズ社内でも互いの視点を合わせるために使用される共通言語がいくつかある。具体的な例をあげると「チームワーク」「公明正大」「コンセプト」「説明責任と質問責任」「事実と解釈」「モヤモヤ」などだ。
これらを聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。これらキーワードへの共通理解が実にPRっぽかったので、紹介したい。
そもそも企業理念からPRっぽい
サイボウズの企業理念は存在意義(Purpose)と、存在意義の基盤となる4つの文化(Culture)で構成されている。
「チームワークあふれる社会を創る」
これは一見すると、チームに所属している人だけの話でしょ?と思うかもしれないが、サイボウズが考えるチームワークはもっとずっとハードルが低い。ある目標に向かって集まった組織体=チームと定義づけられるが、職場やスポーツチームみたいな、割と誰もが想像つくチームはもちろんのこと、自治体やコミュニティ、家族やパートナーまでと、人と人が2人以上関わり合っているもの全てが「チームワーク」をあふれさせたい対象だ。
こうして聞いてみれば、幼少期は一人で生きていくことが困難ゆえに、誰もが人生で一度はチームを経験している。この考え方に整理すると、「社会との良好な関係を構築する」というパブリック・リレーションズの原理とほぼ同じことを言っているのではないだろうか?とまず感じる。
公明正大
公(おおやけ)に明るみに出ても、正しいと声を大にして言える状態。をまとめ、これを大切にしたい文化としている。
不正を是としない、誰かが悪意を持って不利益を産まない、PR以前に道徳的な考え方ではあるが、これもハッキリとパブリック・リレーションズにおいては重要な精神性だと感じる。
サイボウズの社長が殺し文句のように説いているフレーズだ。
よく出てくるわかりやすい例として、寝坊はいいけど、それを隠蔽したり、言い訳をするなというような逸話がある。
リスクコミュニケーションの教科書で解説される原理原則と考え方が似ている。不祥事が起きたとき、それを隠す・矮小化することが最も企業の評判を落とす。具体事例を思い起こせる人は多いだろう。
誰もが知ってるワードもPRっぽく使われる
コンセプト
「コンセプト」と聞いて、どんな表現を思い浮かべるか。
直訳すると「概念」であるが、広告業界ではコンセプトが優れている、コンセプトから考え直そう、というような会話もたくさん出てくる。
「この美術館のコンセプトは、『大都市の中心地にいながら美しく清らかに、大自然を感じながら整える。』です。」
という紹介文を聞いて、なんとなくのイメージはできるかもしれないが、
と感じるような感覚を覚えたことはないだろうか。
厳密に言えば、それはコンセプトが伝わっていないということなのかもしれない。
サイボウズにおける「コンセプト」の用法は、①「誰に」②「何と言ってもらいたいか」と定義づけている。いわばパーセプションチェンジや究極言えばビヘイビアチェンジをゴールに据えている。
PRのゴールもビヘイビアチェンジだといわれる。どれだけ多くメディア露出したって、「ほーん、それで?」と言われ受け流されたら、パブリック・リレーションズとしては失敗だ。
先の例文で考えると、「誰に」が抜け、一方的に「何と言う」で押し切っている。コンセプトとしては失敗で、それはただコンセプトのお面をかぶったポエムだ。
コンセプトメイキングが得意な企画者やクリエーターのセンスが良い場合、「お、まさにそれを言って欲しかったんだよ!めっちゃ刺さるわ!」と、対象者が勝手に好意を示してくれる場合ももちろんある。
そういった反応が得られる仕事を実現するのは、針の穴に糸を通す作業であるし、ごく一部のプロフェッショナルが習得したビジネススキルだ。
だからサイボウズでは、まずは誰でも「コンセプト」を操れるように、「誰に」「何と言ってほしいか」と、ターゲットと行動を想像し、それを明文化させること=コンセプトと表現していると理解した。
例文を見て覚える違和感の正体は、「誰に」の矛先は私ではなかったし、なんと言ってほしいかの部分でもズレが生じた結果だろう。
また、パブリシティにしても、ニュースには必ず主語がある。〇〇が〜〜した。という最小単位がニュースになる。それをニュースにするメディアも、視聴者や読者に〇〇と思ってほしい!という、サイボウズ式のコンセプトの定義と近い考え方を備えている。
サイボウズが日々使っているこの「コンセプト」の考え方は、一般的に流通している概念よりも、はるかにPR視点で使われている。
説明責任と質問責任
経営者と投資家の間では、アカウンタビリティという考え方が一般的で、企業が利害関係者に説明を果たす義務がある。
説明責任は一般的によく使われるが、サイボウズでは大事にしている文化の「自立と議論」から派生して、質問責任というキーワードが流通する。
何がわからないかがわからないと説明のしようがない。という当たり前の話から使われるようになった言葉ではあるが、チームメンバーの私にも質問責任が生じている。
詳しくは解説記事を読めば理解できるが、PRで大事な双方向性がここにも担保されている。
経営者はステークホルダーである従業員たる私たちとも、双方向のコミュニケーションを最低条件にしている。さらに、株主にも、パートナーにも同様に機会は開放されているし、責任を求め続けている。
PRと共通する考えが多すぎてお腹がいっぱいになりそうだ。
事実と解釈
理想があるから問題があり、問題を解決するために現在地を確認し、どうすれば理想に向かえるかという課題を設定する。という問題解決メソッドがある。
認識を共通化させるために、問題を事実と解釈にわける。部屋の温度を下げたいときに、「暑くなったら冷房をつけてください。」と指示したところで、暑いには人それぞれ解釈が異なる。「28度を超えたら冷房をつけてください。」だと間違いはない。
つまり、PRでいうところの「数値は?」「ファクトは?」「エビデンスは?」だ。
我々PRパーソンは、第三者が確固たる自信を持ってその話を持ち出せる下準備として、発信する情報の何が正しい情報なのかを本当に真剣に考えている。
広告クリエイティブが右脳・感情に訴える中でも、我々は常に冷静に左脳で判断する。
フィクションや誇張表現しか使えないプレスリリースは、ゴミ箱に捨てられるチラシだ。
モヤモヤ
もうここまで来たら同じことを何度も繰り返しにはなるが、自分がモヤモヤする感情を抱いたとき、まずは質問責任を心に浮かべ、「私は○○にモヤモヤをいだきます」と多くの社員が公明正大に意見を表明する。
つづいて、そのモヤモヤの原因を事実と解釈に整理する。すると、事実が問題に直結しているのか、解釈が問題なのかハッキリする。
ここまで個人の感情が因数分解されると、自ずとそのモヤモヤが解消される道筋はできあがるし、それを助けてくれる「チームワーク」がそこに生まれている。
サイボウズでは、この「モヤモヤ」を出発点にすることは多い。会社課題・家庭課題・私生活課題とそのサイズ感は非常に小さいが、n=1の悩みが会社の大きな意思決定を動かすことも目にする。
世の中をよくするPRのアイデアも、この社会の「モヤモヤ」を見極め、社会課題=イシューとしてアジェンダを設定することが出発点のひとつだ。
サイボウズにおいては居酒屋での愚痴は絶滅危惧種かもしれないが、世の中大半のミレニアル以上のビジネスパーソンは、居酒屋で同僚と話す愚痴が解決への糸口が見えない「モヤモヤ」の心理的負担を軽減するツールになっていたことだろう。
時代の変化、世代の価値観変化により、それらの愚痴や不満はSNSに現れやすい。匿名をいいことにヘイトスピーチもあとを絶たない。
しかし、そうした不満を誰かがこっそり解消してくれたら・・・
いうまでもなく、その誰かに好意を抱くことになるだろう。PRの出番だ。
電通PRコンサルティングではここに着目し、7つの鬱憤の頭文字をまとめ「WARPATH」と命名している。
この視点に問題解決メソッドの基礎編を応用して、7つの鬱憤をその倍数以上の事実と解釈に切り分けることができたら、、より高精度なプランニングができるだろう。
さいごに
おさらい
五月雨式に登場したサイボウズ内に流通する共通言語として、各キーワードの用法と、私なりの解釈を改めて整理してみた↓
チームワークあふれる社会 → 「世の中との良好な関係構築」
公明正大 → 「事実を矮小化しない」★ アホはいいけどウソは駄目
コンセプト → 「パーセプションチェンジ」★ ①誰に②何と言ってほしいか
説明責任/質問責任 → 「情報の双方向性」
事実と解釈 → 「ファクト・エビデンスとフィクション」ex 問題解決メソッド
モヤモヤ → 「社会課題(イシュー)」「7つの鬱憤」
まとめ
ここで紹介したサイボウズで使われるPRっぽい共通言語とその裏に隠れる視点や考え方などは、まだまだ習熟できたわけではなく、日々の業務の中で学んでいる最中だ。しかし、どのキーワードも優れた価値観やメソッドを内包していることは間違いない。
PRは、①世の中のありとあらゆるステークホルダーに②私たちがやっていることが好きだ・応援したい(する)と言ってもらいたい。ということがコンセプトだと解釈している。
その理想に向けた課題の設定を「イシューを解決するアイデア」に置いているところが好きなポイントだ。
これからも社会全体にチームワークをあふれさせるために、学んだことは発信していきたいと思う。
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