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PR会社社員とフリーランスPRパーソンの限界と可能性ー前編

私は大手PR会社を2022年6月末に卒業し、事業会社の広報をやりながら個人事業主としてフリーのPRパーソンとして活動していますが、活動しながら「あぁ、こういう局面だとPR会社強いな・・・とか、PR会社にいたらできないなぁ」という感想を持つことがあったので、私見ですが双方にどんな特徴や利点・欠点があるというのをまとめたいと思います。なお、思いの外長くなりそうなので前編と後編に分けます。

ちなみに前提として前職のPR会社は、営業機能を持ったPRコンサルタント/が案件ごとにアサインされ、メディアプロモートやイベントなど実働は社内の別チームが動くという体制でPRサービスを提供する形式だったので、1クライアントに専任でPRコンサルティングからメディアプロモートなどアクションまで一気通貫でサービス提供するタイプではなかったことをお伝えしておきます。

大手PR会社の担当イメージ


◎大手PR会社について(依頼側の視点)

依頼できるのは金銭的に体力のある企業がほとんど

大手PR会社に仕事依頼するという選択肢を選ぶということは、ある程度企業として広報PR活動やマーケティング活動に余裕がある状態の企業(をクライアントに持つ広告代理店含む)であることが予想されます。PR会社との契約形態はリテーナー契約やスポット契約など、色々な形で仕事を依頼することにはなると思いますが、広告は高いけどPRは格安(PRは無料)という発想で付き合おうとすると、最初からボタンが合いません

とはいえ、提案時点で「提案料」として初回からチャージが発生する海外のPR会社に比べると、国内の大手PR会社であれば提案まではある程度付き合ってくれるので良心的です。発注のボタンを押すまでに意思の疎通がしっかりとできるのか、自社のことをよくわかってくれているのか、など力量を測ることもできます。

一つ依頼すると、期待以上の提案を貰えることもある

もし、PRのこと正直よくわからないんだよなぁ・・・という状態であれば、PRがなぜ重要なのか、PRによってどのような良いことがあるのか、体系的な知識として自社内(上層部)を説得できるような材料を用意してくれたりもします。

さらに、提案できる幅が広いというのもメリットの一つです。新商品の発表会をお願いしたい、くらいの気持ちで扉を叩いてみると、企業ブランドが生活者からどう見られているのか、チャンスはどこにあるのか、発表会は果たして正しい戦略なのか。などしっかりと分析をしたうえで戦略を組み立ててくれることがあります。

もし自社のリスクが顕在化、あるいは深刻なクライシスが発生した場合でも、PR会社の中には「その道の第一人者でやっています。」というようなコンサルタントを抱えていることも多いので、手厚い対応を受けることができるでしょう。

攻めも守りも色々とできるのが、言わずもがな大手PR会社の強みの一つです。

PR会社の社員に課せられた思いミッション・約束

ただし、やはり大手PR会社は安心だよねー。と早合点してはいけません。企業として取り組む以上、PR会社も営利企業ですし、クライアント数が多い故の問題もあります。

まず、仮にリテーナー契約を結んだとして、月額のフィーに見合った分の活動までしかしてくれない。と、制限されることが多いです。当たり前ですが、PR会社も会社から通達された半期・通期の利益を確保しなくてはいけない。というのが社員のファーストミッションです。

そうなると、年間でも数千万円という大金を預けてがっちりホールドしない限り、100%コミットメントを要求するのは難しいです。そのため、コンサル/ソリューション分割型のPR会社でも、一気通貫サービス提供型のPR会社でも、クライアントは複数社を同時進行で担当する場合がほとんどになります。

このような状況に直面している以上、彼らは多忙です。面倒なことは後回しになりがちです。
・どんどん新しい提案を一緒に実現できている。
・経営層にガッツリ食い込むことを許容している。
など、金銭的なメリット以上の関係を築けていると、そのPRパーソンはPR会社内での評価やポジションも上がるため、コミットメントを深めてくることもありますが、そのような関係を築くのは簡単なようで難しい。というのが実情です。

できる仕事の制限が生まれる。担当者とのマッチングは運ゲー。

そして、クライアントの数が多い故に出てくる問題が「競合企業」の存在です。

優秀なPRパーソンは、より資金力があり、より経営層と近く、より新しいアクションを実行できる企業の担当を持っているケースが多いです。

仮にそれが競合企業だった場合、自社にその担当がアサインされるのはおそらく数年後のことになってしまいます。もう、その時にはその人も、自分もいなくなっているかもしれません(笑)

競合の担当ではなかったとしても、優秀なPRパーソンほど売れっ子になるのは仕方がないので、ワークシェアの問題で自社のPRを助けてくれるとは限りません。

運よく担当してもらっていたPRパーソンとの相性が抜群だったとして、もしPR会社内で社内異動が発生すると「来月から担当を外れることになりました。」ということにもなりかねません。

つまり、「この人と仕事がしたい!」というマッチングは運なのです。なんか歯車が合わないなぁという人と仕事をしないといけない可能性があります。

クライアントには権利がありますから、よほどのことがあれば担当を替えてもらうということもありますが、そのようなギスギスした状態を積み重ねていってしまうとサステナブルな関係にはなり得ないので、早晩関係は白紙になるでしょう。

多くのPR会社が取引を失う理由の一つに、マッチングの問題はあると思います。しかし、これは構造的に仕方のないことだと思います。

◎大手PR会社について(受託側の視点)

給料をもらいながら体系的なPRを学ぶことができる

やはり総合力がある分、PRのAtoZを間近に見ることができる点は大きな魅力だと思います。もし、広報やPRに可能性を感じていたら、どんな職種にいてもその領域から外れない範囲の仕事しか存在していない。というのは何よりも魅力かもしれません。

メンバーシップ型の会社に入り、配属ガチャの煽りを受け、石の上にも3年と思ってやりたくない仕事を続け、わずかな可能性に欠けてマーケティング系の仕事がしたい!と思い続けるよりは、賢い選択かもしれません。

時代は移ろいつつありますが、ジョブ型の雇用がより一般的になった時に、あるいはPRのスキルセットが今よりさらに重宝されるようになった時にメリットが大きいかもしれません。何よりも、広報やPRの可能性を信じているなら、PR会社で学べる仕事は全てが超有料級の経験です。

ひとしきりを経験することなく辞めるのはちょっと勿体無い

PRの世界は奥が深く、マーケティングもコーポレートも、ブランディングも危機管理も全方向に放射線状に拡がっていると思いますが、どれか1ルートだけを極めて満足して辞めるのは結構勿体無いと思います。あらゆる作業をある程度自分で回すことができる状況まで持っていくのがコスパが良いと感じます。(自戒を込めて・・・)

ただし、ひとしきりを経験するのもちょっと運です。たまたま先輩から引き継いだ案件がかなりクライアントに食い込めていたりすると、次から次へと新たな課題が発生し、チャレンジングな提案、思考も体力も総動員して圧倒的な成長をすることもあります。一方、なかなか巡り合わせが悪く、ルーティーン作業で1年〜2年が過ぎ去っていく、という場合もありますので要注意です。

成長の音が止まったら潮時という判断も悪い選択ではありません。最も悪手は、コンフォートゾーンに停滞し、危機感を抱いていない状態です。ひとしきりを経験して飛び出すと、世の中の90%のビジネスパーソンよりもPRに詳しい人というポジションが作れますが、これはある種のボーナスなのかもしれません。

会社の後ろ盾があることの強さ・迫力

腐っても会社員です。広報PRの仕事は属人的なスキルや見解も求められるので、ミスや問題はつきものです。リリースの送付タイミングをミスった。書いてはいけない情報を書いた。クライアントの主張とメディアの主張の板挟みにあった。一瞬一瞬に向き合っていてもミスや問題は発生します。

こうした時に、責任の逃げ場所が法人にあることの強さは感じます。正直、個人事業主でこれらの責任を真正面から受け取るのは不可能です。仮に担当を外れたとしても、また別のクライアントとお仕事をするチャンスもあります。大手のPR会社が関与しているという安心は、自分だけでなく、関わるプレイヤー全員の安心を作っている側面もあるかもしれません。

受発注双方、責任はなるべく取りたくないですからね。

限界点。社会のためのPRが、自社の利益のために変換されるジレンマ

あらゆるステークホルダーとの良好な関係を構築するというPRの崇高な概念に惹かれてPRを生業としているのに、今自分がやっているこの仕事は世の中のため人のために、社会課題を解決しているのだろうか。という思考の落とし穴にハマることがあります。

PR会社の社員でいる以上、これを落とし穴と思わずそっと蓋をする胆力が求められます。自らのポリシーよりも、資本主義社会でのルールが適用されます。深いことを考えずに、PRという手法やアイデアを純粋に楽しめる人は強いですが、そうなれない人もいます。もしそうなれなかったらそこが限界だと思って概ね間違いはないと思います。

深くは語りません。つづく。

次回はフリーランスPRについて

フリーランサーのような身軽な立場のPRパーソンに依頼することのメリット・デメリットと、フリーランスPRの可能性と限界について書きます。


2022年2月19日(日)後編を公開しました↓




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