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余寒の怪談手帖 リライト集

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怪談手帖が大好きすぎて〈未満〉も含め、色々な方のリライトをまとめてしまいました。 原作者・余寒様の制作された書籍、「禍話叢書・壱 余寒の怪談帖」「禍話叢書・弐 余寒の怪談帖 二」…
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2023年6月の記事一覧

草舟屋敷【禍話リライト】

Yくんが一人暮らしをしている商店街には、「名物婆さん」がいた。 毎日夕方に、その婆さんはどこからともなく現れる。 その婆さんは、大きな箱を背負って、ブツブツと何かを喋りながら、商店街と交差する細い路地を、「そんな歳の人がそんなスピードで?」と驚くような速さで駆け抜けていくのだ。 「まあ、言うなれば、時計代わりよ。哲学者のカントの散歩の時間に合わせて時計の針を合わせる…みたいなさ。だからさぁ、あの婆さん見ると、そろそろ黄昏時だなあって思うわけよ」 歳が近く、仲の良い文房具

禍話リライト【怪談手帖〈未満〉「ウズラトンネル」】

小学校教員を長く務めたEさんには忘れられない奇妙な体験があるという。 それは彼女が、低学年のクラスを担当していた時のことだ。 当時、生徒たちは毎日日記帳を先生に提出する決まりになっていた。 その中に、Kさんという女生徒が提出した日記があった。 〚きのう、かっているウズラにおかしなことが起きました。〛 なんでもKさんの家では、ウズラたちを入れているケージがある部屋は他と別にしてペットシートを敷き詰めているそうだ。昨日の夕方、帰宅したKさんはその部屋に、朝は無かった妙な物が置

禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

ある日の夕方、Iさんは運動がてら家の近所からもう少し足を延ばして目的地もなく散歩していた。 涼しくなった風に秋の訪れを感じつつ、足元ばかりを見てあれこれと考え事をしていたせいだろうか。 ふと気が付くと、大通りから離れて普段通らない道に入り込んでいた。 人通りは無い。隣町に近い、住宅と空地の点在する一画である。 日も暮れつつある中、秋らしい虫の声だけが聴こえてきて、物寂しさを掻き立てられる。 (そろそろ戻ろうか…) 踵を返しかけたところで、微かな違和感を覚えた。 (なんだ

禍話リライト 怪談手帖〈未満〉『蛸』

会社員のBさん(女性)が小学校低学年だった頃の話。 「その頃『遺伝子組み換え』って言葉が流行ってたんだよね。だからかなぁ……」 小学校の近所に、お金持ちの中年夫婦の住む大きな住宅があって、いつからか子供たちの間で、 『あの家では遺伝子組み換え動物を飼っている』 という噂が立った。 その生き物は秘密の実験で作られ、足がたくさんあって、普通よりずっと身体が大きい。 そして今は持て余されていて、子供を食べたりする……。 問題の家には大きな庭があり、そこに大型犬らしい犬小屋が

禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

Cさんの旅先での体験。 シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。 通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗くと、入ってすぐのところに小学生くらいの男の子がいて、半泣きの顔で店の壁を見上げて 「お父さん…お父さん…」 と繰り返している。 父親らしき人は見当たらない。 迷子かな、と思いつつその子の視線を追う。 ペナントやキーホルダーが並ぶなか、妙に浮いたデザインの人形があった。 スーツ姿の男性を模した小さな人形だった。 そ

禍話リライト【怪談手帖〈未満〉「海を臨む家」】

Aさんの一族の持ち山に、普段は顧みられない廃屋があった。 緑の間から張り出すように建てられていて、遠目に辛うじて海が見えるロケーションだ。 一族の羽振りが良かった昭和の頃、遠縁の人々を住まわせるのに使われていた家らしく、その人たちが出て行ってからは管理が面倒で長いこと放置されていたのだという。 ある時、Aさんとお兄さん、従兄弟の3人は「その家を見分し直す」と言って、父方の叔父に駆り出された。 大雑把な一族には珍しく、神経質でがめつかった叔父は、家一軒の地所を遊ばせておくくら