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余寒の怪談手帖 リライト集

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怪談手帖が大好きすぎて〈未満〉も含め、色々な方のリライトをまとめてしまいました。 原作者・余寒様の制作された書籍、「禍話叢書・壱 余寒の怪談帖」「禍話叢書・弐 余寒の怪談帖 二」…
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記事一覧

禍話リライト「猫仙人」【怪談手帖】

つい先ごろまで、高齢者の見守りや支援の仕事に携わっていたというBさんは、いろいろと奇妙な体験をしている。 その中でもとりわけ特異で、できれば思い出したくない一件があるという。 近隣の住民からの相談で、とある男性の一人住まいが俎上に載せられた。 「俗にいう『猫屋敷』ですね、ご本人も軽度の認知症を患っていて、管理できているとは言えない状況だったようです」 少なく見積もっても、30匹程度の猫が出入りしているとのことで、鳴き声や糞尿への苦情が上がっていた。 「高齢化社会の流れ

【禍話リライト】『怪談手帖』より「魑(すだま)」

「ホントは私の頭がおかしかったということにしてしまえばいいんです」 投資家だという50代の男性Bさんは、そのように切り出した。 それを見たことを証明出来るものが、自分以外にいないのだからと。 「もう随分昔、息子がまだ小学校に通っていた頃。妻が趣味の登山中に亡くなりまして」 余りに突然のことで虚脱感、無力感もひとかたならず、更には詳細は伏せるが、非常に無為なことで妻の側の親族と揉め、絶縁したこともあって、鬱に近い状態になってしまった。 Bさん自身母子家庭で、老母は長年の無理

禍話リライト 怪談手帖『とっくに……』

以前、とある集まりで怖い話が話題となったことがある。 突発的だったこともあってタネはすぐに尽き、いわゆるブラック企業の怖い話が主役となってしまった。 僕(怪談手帖の収集者、余寒さん)は聞き役に徹していたのだが、座の終わり頃になってお鉢が回ってきた。 結局、自分の知るその系統での怖い話。『つ』というひらがな一文字にまつわる怖い話を語ってみたものの、そこは語り慣れない素人の悲しさ。怖がってもらうどころか話の要点すら上手く伝わらず、何とも今一つな反応で終わってしまった。 (※禍話

禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

20代のAさんが、社会人になってから何年かぶりで実家に帰省した時の話。 「仕事でいろいろあって…ちょっとだけ逃げたくなったんです……」 両親との会話もほどほどに、シャワーだけを済ませ自分の部屋のベッドへと倒れこんだ。 ずっと拭えない全身の倦怠感と、頭に纏わりつくモヤモヤとした感覚。 「体力には自信あったんですけどね、ずっと運動部だったし」 社会で必要なのは、体力だけではなかった。 同僚や上司とのちょっとした衝突や行き違いの会話が、いつまでも頭の中をぐるぐると巡る。

禍話リライト 怪談手帳【あみだかぶり】

Dさんのお父さんが、お爺さんから聞かされたという体験談。  「うちの親父がね、小さいころに聞かされてトラウマになった、っていうんですよ。 で、俺も親父から繰り返し聞かされているうちに話をすっかり覚えちゃって。 そんなもの受け継がないでほしいんですけどねぇ。 ま、実際なんていうのかな。 お化けなのかな、何だろう、って感じでよくわかんないんだけど……。 でも、やっぱり俺もめちゃくちゃ怖かったから、話しますね」  それはDさんのお爺さんが学生だった頃、地元で目撃された子供につい

禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

諸事情で実家との縁を切って久しいというDさんは、ほんの数年前までひどく捨て鉢な生活をしていた。 そんな時代の彼が、安さだけが取り柄のような、とある川沿いの集合住宅に住んでいた頃のことだ。 深夜に起きた仲間内の厄介事からようやくの思いで抜け出した彼は、隣の区から歩きとおして夜明け前に家へ帰ってきた。 心身ともに擦り切れて、道路横の欄干に肘を掛ける。 帰宅前に一息つきながら、彼はその川を眺めていた。 普段ろくに見やることのない、名前も憶えていないような川だった。 なにかそれなり

【禍話リライト】『怪談手帖』より「星泥棒」

「余寒さんの集めたお話って、片親の話がかなり多いですよね?」 聞き取りの席で、F君はいきなりそう言った。 面食らったが、言われてみればその通りである。 僕自身(怪談手帖の筆者 余寒氏)、母子家庭で育ったから、知らず共感して採用が多くなってしまうものか。 或いは、怪異の出現に心理的な不安状態が関係しているとすれば、ある程度は必然的な傾向であるかもしれない。 そんなことを小難しく並び立てていると、F君が苦笑しながら、 「かく言う僕もそうなんですよ。余寒さんと違って一人っ子で

禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

「少年自然の家」ではなかったはずだという。 当時Eさんの所属していた子ども会では、前年度まで合宿で使用していた施設が老朽化による建て直しのため借りられなくなったため、その年からの新たな宿泊先を検討していた。 その時に、会員の一人が人伝に探してきてくれたのが、”K”という施設だった。 あまり新しくはないものの、去年までの場所に比べると非常に安価で利用できる、という点が決め手だったそうだ。 「その時点でちょっと怪しいでしょ?今ならもう少しちゃんと調べると思うんだけど…私たちの

禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

Bさんという男性の方から頂いた体験談である。 彼は10代のころ、家族や教師と折り合いが悪く、事あるごとに学校をサボったり家を飛び出したりしていた。 そんな時によく逃げ込んでいたのが、隣町の低い山の中ほどにある、父方の親戚の家だったのだという。 「〇〇(地名)の叔父さん、叔母さん」と呼んではいたが、父の兄弟という訳ではなく、どちらかといえば祖父母に歳の近い遠縁の老夫婦だった。 彼らは所謂”本家”とはあまり関係が良くなかったようで、親戚の集まりなどにも顔を出すことなく、隠遁じみ

【禍話リライト】『怪談手帖』より「きつねの宴席」

職場の先輩で今は定年退職されたAさんが故郷で聞いた話。 彼が生まれた町には、かつてやんごとない御方も逗留したという、由緒正しい旅館があり、そこの女将さんというのが彼の母方の叔母だった。 この叔母さんが話していたのが、きつねに化かされた話だという。 ある時その旅館は新聞社からの紹介で、作家や画家を含めた集団のお客を迎えた。 お得意様からの紹介ということで一階と二階、それぞれで一番いい部屋を開けておき、客に選んでもらう形にしたのだが、一階の間に着いて「以前やんごとのない御一行

禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

「今でもまだ怖いんだよ、ずっと。考える度にドツボに嵌る気がして…本当は考えない方がいいんだろうけど……」 話者であるAさんは、今の職業や年齢については明示しないで欲しいと言ってこの話を切り出した。 彼が大学生の頃、曰くつきの家で目撃してしまったモノの話。 それは地元では有名な、とある事件の舞台となった一戸建てだった。 報道ではぼかされていたものの、被害者である女性が異様な状態で見つかったというのが半ば公然となっており、それでいてどういう状態だったのかについてはてんでばらば

禍話リライト 怪談手帳【化かされ上手】

 この話を語ってくれた人の、ひいおばあさんの体験談。    昭和のごく初めごろ、「化かされ上手」と呼ばれていた、彼女の大叔父の話だという。  彼は独り身の、いわゆる【ガラクタ道楽】であり、方々で色んな中古品を買い漁っていた。年を取ってから目覚めた趣味のせいか、裕福でありながら別に目利きなわけでは無い。要するに非常にいいカモということで、粗悪な品や贋作などを掴まされ放題であった。  では、化かされ上手とは……。  そんな彼のありさまをただ揶揄したものかと言えば、もっと直接

禍話リライト 怪談手帳【蛹男】

 「いやなァ、やっぱり飲みすぎはダメだよ! ウン、酒はダメ! ダメだよ飲まれちゃ!」  そう言って己が禿げ頭をぴしゃぴしゃと叩く、還暦すぎのAさん。  元消防隊員だという彼は、少し前までしこたまお酒を飲んだ後、夜の地元を徘徊するのを趣味としていた。  「季節の変わり目にパーッと飲んで歩き回るのが気持ち良かったンだ。 我ながら、迷惑なジイさんだよなァ」    少し涼しくなってきた、とある晩夏の深夜だったという。  いつものように火照った頬を冷まそうと緩やかな夜風を受けながら歩

【禍話リライト】『怪談手帖』より「ホトケサリ」

一人暮らしをしながら、クラブで働く20代のB君から聞いた話。 10代の頃、知り合いの伝手で古くて大きい日本家屋をタダ同然で譲り受け、一家四人で住んでいたのだという。 本当に古くて、ボロボロの家で、要するにリフォーム前提の譲渡であったそうだ。 「でもねぇ、リフォームしなかったんすよぉ」 独特な口調でB君が語るところによると、彼を含めて家族はみな大変ズボラな質で、半壊しているような箇所にも手を入れず、譲られた時のままであったそうだ。 「家なんか寝起きできるスペースがあれ