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映画【個人的発掘良品】『牛泥棒』

The Ox-Bow Incident
1942年 アメリカ
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
製作:ラマー・トロッティ
原作:ウォルター・ヴァン・ティルバーグ・クラーク
脚本:ラマー・トロッティ
撮影:アーサー・C・ミラー
編集:アレン・マクニール
美術:ジェームズ・バセヴィ/リチャード・デイ
音楽:シリル・モックリッジ
出演:ヘンリー・フォンダ/ダナ・アンドリュース/メアリー・ベス・ヒューズ 
 
この映画、数ある西部劇映画の中でも上映時間は75分と短めです。そしてこれはよくあるような、悪人が出てきて、正義漢がガンプレイで対決する、といったような作品ではなかった。所謂異色西部劇の一作、といったところです。2人の男が町にたどり着くと、その町の住民たちはどこか殺気立っている。ある牧場主が殺され、牛たちが盗まれる事件があったらしい。犯人は南へ移動した痕跡を残していたため、住民たちは捜索隊を募って追いかけることに。結構な人数でした。馬に乗って、銃を手に、大移動していくところ。西部劇の見どころのひとつですね。荒野や砂漠、山道や谷を馬で走って追いかけるところ。

 やがて捜索隊はオックスボウに到達すると、荒野の片隅に休んでいた3人の男たちを発見し、追い詰めます。「これは何だ。どういうことだ」「我々は人殺しと牛泥棒の絞首刑が見たいだけだ」「何のことだ。人違いだぞ」 ということで、ここからこの映画はどんどん神経質になっていく。捜索隊は男たちを縄で縛り、素性を問い詰める。やはり疑わしい。法はのろまで間違いも多い。俺たちで制裁しよう。いや、誰でも裁判を受ける権利があるはずだ。犯人かはまだ判らない。これでは拷問だ。住民たちや、同行していた主人公との間でも悶着が起こる。さあここからどうなっていくか。段々とこの映画のテーマが出てきます。正義のありか。権利。私刑。集団の心理。最後まで観ると、人々の取り決めだとか、人間の良心、思慮深くあることの大切さ、怒りや勇み足は不幸な人を増やすのだという教訓があります。この映画のエンドマークは、そういうことを伝えました。映画は人生の教科書でした。

 ウィリアム・A・ウェルマンはアメリカの名監督のひとりですね。元空軍の戦闘機パイロットで、第一次世界大戦中に勲章を受けるほどでした。少年期はなかなか問題児だったようで、高校を退学になったり、警察のお世話になったりでしたが、働き出してからはホッケー選手としても活躍を始めます。ダグラス・フェアバンクスに見出されて、映画界に入ったようですが、俳優の仕事は好きではなかったようです。裏方仕事へ回り、助監督、第二班監督を経て、1920年、24歳で監督デビュー。低予算映画を10作以上手掛けてから、1927年に自身の経験を活かした航空映画『つばさ』が第1回アカデミー賞の最優秀作品賞を初受賞したわけですね。1975年、79歳で亡くなりましたが、多岐に渡るアメリカ映画を発表し、国内外で偉大さが語り継がれる映画監督であります。

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