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映画【個人的発掘良品】『ミュート・ウィットネス 殺しの撮影現場』

MUTE WITNESS
1995年 アメリカ
監督:アンソニー・ウォラー
製作:アンソニー・ウォラー/アレクサンダー・ブックマン/ノルバート・ソエントゲン/グレゴリー・リアツスキー/アレキサンダー・アタネスジャン
製作総指揮:リチャード・クラウス
脚本:アンソニー・ウォラー
撮影:エゴン・ウェルディン
編集:ピーター・R・アダム
美術:マティアス・カマーメイヤー/バーバラ・ベッカー
セット:タマラ・ガランク/ヴァレリー・ゴリコフ/ヴァレリー・セミューノフ
衣装:スヴェトラーナ・イワノーワ
メイクアップ:アリーナ・モロゾワ/マリア・スミルノーワ
特殊効果:ヴィクトル・オルロフ/パヴェル・タルコフ
視覚効果:クリスチャン・ブルグドルフ
音楽:ウィルバート・ヒルシュ
音響編集:マヌエル・ラヴァル/エミール・マクラフリン
助監督:ボリス・ブランク/マラット・ラフィコフ
キャスティング:ノエル・デイヴィス/エレナ・デニソヴァ/ニーナ・ソコル・マツクスタントコーディネーター:セルゲイ・ヴォロビョーフ
出演:マリナ・スディナ/フェイ・リプリー/オレグ・ヤンコフスキー/エヴァン・リチャーズ/イゴール・ヴォルコフ/セルゲイ・カルレンコフ/アレック・ギネス/アレクサンドル・ピアトコフ/ニコライ・パツコフ

 これはスリリングで面白いサスペンスです。60年から80年代を経て、1990年以降、ジャーロ映画や惨殺サスペンス、スプラッターホラーの製作や観客受けの流行は終息し、各国で映画の残酷趣味はおとなしくなっていきました。ところがこの映画はそんななかで製作された秀作スリラーの一本で、ファーストシーンから痛み、苦しみ、流血、ショックを開放して見せました。ヒッチコック、マリオ・バーヴァ、アルジェント、カーペンターの如く、鋭利でショッキングな感覚を研ぎ澄ませて、ハラハラの極致へ誘い込む狙いです。

 これはアメリカからモスクワに渡り、ある残酷映画を撮影している若いスタッフたちの話です。主人公は特殊効果・メイク担当の女性で、口が聞けない娘さん。周りと巧くコミュニケーションをとりながら仕事をしています。撮影所に残っていた彼女は、偶然、本当の暴行と殺人を記録する撮影現場を目撃し、撮影者に存在を感づかれながらも逃げ出す。叫び声もあがらず、助けも呼べない。犠牲者の最期の表情が脳裏にこびり付く。あれは撮影?殺人?演技?どういうことなのか。どんどん生々しい危険を感じていくサスペンス。

 残酷映画といえば、特殊メイク。特殊効果。特殊撮影というものが、着々と発達していき、もはや造型と思わせないようなリアルな場面を描画するのに欠かせない技術となりました。この映画はそれをアイディアに、サスペンス・スリルへと取り入れて磨いていきました。そこが怖い、面白いところです。さらに異国の土地を舞台に「殺される、ああ殺される」という身の危険から走り回るという、ギリアットというか、ヒッチコックというか、アルジェントというか、いかにも映画的。脚本、製作、監督を兼任したアンソニー・ウォラーはこれが長編映画デビューになりました。イギリス出身の、相当熱心な映画ファンですね。それでいて、じわじわとサスペンスを盛り上げて、ショックを叩き込むセンスに富んでいます。ナイフや機材、懐中電灯といった小道具の扱いや見せ方も工夫を入れていて、面白い。役者の表情も重視していて、その苦悶は演技か、リアルかという揺らめきはストーリーにも入れ込んでいます。

 ということで、殺しの撮影現場に居合わせた主人公の証言で警察も介入します。ところが、容疑者は演技だったと主張し、証拠品もトリック撮影であることを示して、作り物なのか、本当の犯罪なのか、曖昧になっていきます。腑に落ちないものの、何やらポルノ・スナッフ・フィルムや人を騙した殺人撮影は実際にあるのだという不穏な気配が浮上してきます。いよいよ本当に口封じの殺意が迫ってくる。主人公と助けになる同僚スタッフはどうなるか。これは残酷趣味の流行と特殊技術の発達を逆手に取った映画撮影サスペンスです。巧い造りでしたね。

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