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詩ことばの森(52)「夕暮の岸で」

夕暮の岸で

ぼくたちは川岸で
夕暮をながめていた
時が過ぎていくのを
だまってみているのが
なんだかもったいないほど
きれいな空だった

言葉が思いつかないでいる
ぼくの横で
きみは  また不安になったのだろうか
独り言のように
「まあ  たくさんの鳥」
たしかに  無数の鳥影が
薄墨色の空に舞っている

一日の終焉を演じて
かれらは羽ばたいているわけではない
長い夜のはじまりを祝す
蝙蝠たちの狂宴なのだから

ぼくは黙って
ふたたび夕焼けを見つめた
ぼくたちの帰るべき街は
懐かしいほどに
赤く染まっている

病院からもらった薬が
今は自分に合っていると
きみは僕に教えてくれた
そのあと  ぼくたちは
駅でさようならをした

ホームから見ると
暗い川面には無数の
街の灯りが  ぼんやりと
浮かびつづけていた





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