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『ストーリーとしての競争戦略』を読む。 #220

『ストーリーとしての競争戦略』を読みました。実際の企業の例が数多く紹介されていて518ページとかなり骨太な経営学の本です。読み返すのも骨が折れるので、この記事では要点だけをピックアップしてみました。

言葉の定義から

早速ですが、本書の結論が書いてあります。

この本のメッセージを一言でいえば、優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ、ということです。

Kindle位置No. 23

本書の主張は題名にもなっている『ストーリーとしての競争戦略』ですが、まずはストーリーと戦略が何を表しているのかを明確にしておきましょう。

戦略とは?

「違いをつくって、つなげる」、一言でいうとこれが戦略の本質です。

Kindle位置No. 522

違いとは独自性であり、差別化を図ることで競争を事実上避けるという外部との関係性の視点です。つながりとは一貫性であり、自社が下していく決断が一つの明確な目標・ビジョンの実現に近づくようにするという内部の視点です。つまり、独自性と一貫性を両立させることが戦略であるようです。

ストーリーとしての競争戦略とは?

戦略をストーリーとして語るということは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を説明するということです。

Kindle位置No. 633

従来の戦略論ではいかに差別化を図るかに焦点を当てていますが、本書はむしろ自社の一貫性(ストーリー)を意識することを勧めています。筆者はこの戦略ストーリーを、ビジネスモデル、ビジネスシステム、アーキテクチャなどとも近い概念であるとしているので、自分にしっくりくる単語に置き換えて大丈夫でしょう。


ストーリーとしての競争戦略のポイント

「ストーリーとしての競争戦略」の意味を明確にしたところで、具体的な内容を見ていきます。企業の目的は利益を上げること。では、どうすれば利益が上がるのかと言えば、前述したように独自性と一貫性が必要になります。以下ではそれぞれの生み出し方について詳しく見ていきましょう。

一貫性のつくりかた

一貫性を持たせるためには、コンセプトが明確である必要があります。グレッグ・マキューンによる『エッセンシャル思考』でも、完全に明確な本質目標を設定すべしという同様の話がありますね。

本書での例で言えば、スターバックスの「第三の場所」、サウスウエスト航空の「空飛ぶバス」。その企業が実現したい目標を一言で言い表すキャッチコピーが一貫性をもたらします。

すると、社内の全員が同じ目標に向かって決断・行動できるようになり、ヒト・モノ・カネなどの資源を有効活用できまるようになります。一度コンセプトを設定してその会社の世界観が明確になれば、社員も「二次創作」しやすくなるものです。


独自性のつくりかた

独自性とは他社との違いであり、他社との違いを打ち出すことで競争を優位に進めることができます。この差別化には大きく2つの方法があります。それはポジショニングという質的な差別化と、組織能力という量的な差別化です。

たとえば、タピオカミルクティーにおいて抹茶味を出すのは質的な差別化、タピオカ増量が量的な差別化といったところでしょうか? 単純化しすぎなような気がしますが、差別化による競争優位の生み出し方のイメージは掴めると思います。

ただし、こうした差別化は他社に真似されやすいというデメリットがあります。そこで、登場するのがクリティカル・コアです。


クリティカル・コアで一挙両得

明確なコンセプトによる一貫性と質的or量的な差別化による独自性とによって競争を優位にするという方法を見てきましたが、一貫性と独自性を同時に実現する秘策として紹介されているのがクリティカル・コアです。

クリティカル・コアとは、部分的には不合理に思えるけれど、全体(コンセプト)を踏まえると合理的である要素を指しています。たとえば、「背水の陣」という逸話があります。戦場において自陣の後ろに川を背負うのは、逃げ道がなくなるため非合理的に思えます。しかし、それが自軍が覚悟を持って敵に挑むようにするという点、ひいては戦で勝利を収めるという点では合理的であったということになります。戦に勝つためという目標が明確であれば、その目標に適った手段に一貫性が生まれるということです。

映画やドラマ、アニメでも主人公が「おい、そんなことしたら負けてしまうぞ」という行動をした後に、それが実は相手を打ち破る秘策だったと明かされると盛り上がりますよね。この秘策こそがクリティカル・コアであり、こうした場面はたしかに「思わず人に話したくなるような面白いストーリー」になります。

また、クリティカル・コアは一貫性だけでなく、独自性にも貢献します。なぜなら、クリティカル・コアの表層・やり方だけを他社が真似しても、全体(コンセプト)との関係性を無視していれば機能しないからです。このように、クリティカル・コアを用意することで一貫性と独自性を同時に実現することができるのです。


まとめ

一見すると非合理だけど、ストーリー全体としては合理的であるクリティカル・コアを用意することがいかに重要であるかがわかる一冊でした。実際の企業の例で詳しく学びたい方は、実際に読んでみてください(長いけど)。

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