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パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week1 Day1 #231

「パーソンズ美術大学留学記」は基本的に毎週更新なのですが、Week1は「TD Convening」という集中講義週間で内容が豊富なので、とりあえず初日の出来事を速報として書いておきます。

再会と邂逅

去年はZoomと対面のハイブリッドで始まった記憶がありますが、今年は全てのイベントが実際にキャンパスに集まって行われることになりました。ただ、Transdisciplinary Designの教室(TD Studio)は1年生と2年生の全員(約60人)が集まるには少し狭いので、今週はTD Studioではなく別の大教室で授業が行われることになっています。

教室に入ると、椅子が「フルーツバスケット」のように円形に配置されていました。2年生は円の中心で立ち話をしていて、1年生は間を開けながら気まずそうに着席していました。

同級生にすぐさま見つかった私は、そのまま吸い込まれるように円の中心へ。「久しぶり」と一人ずつハグをしていきました。1年前に初めて顔を合わせた時は初対面だったり某ウイルスの影響がまだあったりとスキンシップがはばかられていましたが、1年が経ちハグができるようになっていました。

ただ、挨拶でハグをするなんて初めてだったので、きっとぎこちなかったと思います(どれぐらいの力ですればいいの? とりあえず、相手と同じ力加減にしようとコンマ数秒の間で考えていました)が、久しぶりに会えた嬉しさを共有し合いました。

きっと各々が充実した夏休みを過ごしたはずです。みんながどんな夏休みを過ごしたのかを詳しく聞いてみたかったのですが、そこまでの時間はありませんでした。焦る必要はないので、それも少しずつ聞いていくことにしましょう。


午前の部:Transdisciplinary Designの説明と他己紹介

まずは、学部長からのお話です。先週の「Orientation Gathering」と同様に、ニューヨークという土地がコロニアリズムの歴史の上にあることに思いを馳せる言葉から始まりました。その後、Transdisciplinary Designで学ぶ上での心構えを教わったのですが、この話はまたいずれどこかで。

続いて、お互いを少しでも理解し合うために他己紹介をしました。15分程度で初対面の人とペアになって自己紹介をし合って、その後1分でみんなにペアの他己紹介をするというものでした。他己紹介は最低でも一人とは必ず仲良くなれるので、アイスブレイクには有効な手段かもしれませんね。


お昼休み:キャンパス周辺のベーグルショップへ

1年生と2年生が一緒にランチに行くことが推奨されていたので、2学年混合のグループでランチにいくことに。キャンパスの近くにあるベーグルストアでベーグルサンドを買って、店先にあるテーブルで食べることにしました。といっても、午前の部が長引いたため、のんびりおしゃべりする余裕はありませんでした。

午後の部の開始時間が気になるので、とりあえずアメリカサイズの大きめのベーグルサンドを半分だけ食べて、そそくさと教室に戻りました。が、帰ってみるとほとんどの人がまだ戻っていませんでした。

こうした時間に厳密でないのもアメリカらしさ、Transdisciplinary Designらしさかもしれません。きっと一年前の私なら「なんで時間を守らないんだ」とイライラしていた気もしますが、今の自分は時間通りであることにこだわらなくなっているみたいです。これも一つの異文化理解。


午後の部:World Cafe

午後はWorld Cafe形式で、今学期で中心的に扱うことになるNarratives、Relationships、Community Wealthという3つの単語について話し合いました。ここでは議論の全てを紹介できないので、私が会話を通して考えたことを書いておきます。

Narratives

Narrativesは、日本語で物語です。くしくも、私が夏休みの間に考えていた「脱物語のデザイン」と関係しそうな単語でした。日本人の私としては、NarrativesとStoriesのニュアンスの違いが知りたいところです。

誰かに物語を伝える時、その方法は口伝と文字があります。約700万年に及ぶ人類の長い歴史では、情報を口頭で伝えるしかありませんでした。そんな状況では、形に残らない音や情報を記憶しやすいように物語という形式が活用されたことでしょう。

約5000年前に文字が発明されてからは、人々の知識は物質的にも保存できるようになりました。これにより、現代の日本人が古代ギリシャの考えでさえも知ることができるようになったのです。文字の発明によって、情報は時間的・空間的制約から解放されたとも言えるでしょう。

話し言葉と書き言葉。パロールとエクリチュール。人間が二種類の表現方法で言葉を使っていることをどう考えればいいのかというのは、現代思想でも中心的なテーマです。

Relationships

私が思い出したのは、キルケゴールの記した『死に至る病』で何度も「関係」という言葉が繰り返されていることでした。

人間は精神である。しかし、精神とは何であるか? 精神とは自己である。しかし、自己とは何であるか? 自己とは、ひとつの関係、その関係それ自身に関係する関係である。あるいは、その関係において、その関係がそれ自身に関係するということ、そのことである。自己とは関係そのものではなくして、関係がそれ自身に関係するということなのである。

『死に至る病』 19ページ

関係というと、二人以上の間に生じる「関係」が一番に思い浮かびますが、キルケゴールに言わせれば、自己という存在自体が関係であるということになります。「関係の入れ子構造にこそ自己が現れる」というアイデアも、今後の議論のどこかで引用してみようかしら。

あと、学部長からはという言葉も紹介されました(日本語で「ma」ということをご存知でした)。英語だと「Space」と訳されるようですが、間というのは空間的にも時間的にも使われる面白い概念だと思います。日本などの東洋思想は、こうした関係性や縁起を重んじる印象があります。

Community Wealth

Community Wealthは、日本語で「コミュニティの富」と訳せるでしょうか。資本主義社会ではWealth(富)といえばお金を想起しますが、それ以外の富・豊かさを考えてみようという提案のようです。

コミュニティの富という言葉を聞いた時、私は「知識の蓄積」を思い浮かべました。地球上の生物の中で、他人の経験を受け継ぐことができるのは人間だけでしょう。ニュートンが引用したことで有名なベルナールの言葉である「巨人の肩の上に立つ」という言葉を思い出します。また、『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』という本を読んだ時に、現代社会は先人たちが生み出した知恵のおかげで成り立っていると感じたことも思い出しました。

人間は一人では生きていけません。だからこそ、過去の人々の知恵と同じ時代に生きている人を頼りに生きていき、未来のために何ができるかを考えるのでしょう。その連綿と続いていく営みにデザインは何ができるのかを考えていくことになりそうです。


ちなみに、私はWorld Cafeがあまり得意ではありません。というのも、私は聞くのと考えるのを同時にできないので、どうしても聞くことだけに専念してしまい、自分のアイデアをシェアできないのです。後になって「あの人の言ってたことにこう言えばよかったなぁ」などと反省することがほとんどです。

即興が得意な人もいれば、じっくり考えるのが得意な人もいるものです。ラップでもフリースタイルが得意な人と、じっくり作詞をするのが得意な人もいるそうです。「ラッパーといえば即興ラップ」というわけではないように、「デザイナーといえばWorld Cafe」というわけではないと言い訳をしつつも、アドリブで自分のアイデアを英語で話せるようにもなりたいと思います。


まとめ

初日から情報量の多い(Juicyな)一日でした。私にとってTransdisciplinary Designでの学びは2年目で、なんとなくの流れが分かっているし新しく覚える名前は新入生だけということもあり、消耗しきらずに一日を乗り切れました。きっと1年生にとってはOverwhelming 圧倒されるような一日だったことでしょう。英語のシャワーに耐えきれなかった1年前が懐かしい。

ちなみに、クラスメートにも少しずつ私のnoteの読者が増えているみたいです。嬉しいような恥ずかしいような。こうして日本語で書いているのに翻訳ソフトを使って読んでくれている人もいます。私の母語は日本語なのでどうしても日本語で書いてしまうのですが、いずれは英語でも共有できるようにしていきたいものです。

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