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Transdisciplinary Designのカリキュラム紹介 #305

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Design(略称はTD)を卒業したものの、「Transdisciplinary Designとは何か?」への答えは得られないまま。とはいえ、TDでの学びをTDを知らない人に共有する機会もあり、私なりに説明しなければならない場面に遭遇します。

そこで、卒業後も「Transdisciplinary Designとは何か?」を考え続け、文章にまとめていくことにしました。今回の記事では「Transdisciplinary Designのカリキュラム紹介」と題して、教わった内容をまとめてみます。


目標:Justice and Equity

Transdisciplinary Designでは、Decolonaization(脱植民地化), Sustainability(持続可能性), Capitalism(資本主義)など多様なテーマを扱っていますが、既存の不公平さを克服していく=Justice & Equity(正義と公平)を実現させるという共通点があります。

パーソンズ美術大学があるニューヨークは先住民から土地を奪って生まれた過去があり、今は多様な人種が集まる資本主義の象徴とも言える場所。そんな場所でデザインを学んでいるということに思いをはせると、自然とJustice & Equityがテーマになるのでしょう。

ちなみに、「不公平だ」と感じるのは人間の本能なのか、それとも西洋の伝統なのかは個人的に気になっているトピックです。たとえば、動物行動学者のフランス・ドゥ・ヴァール博士は、人間以外の動物も不公平さを感じると言います。

一方、精神科医の名越康文先生はゲームさんぽという企画で「Detroit: Become Human」内のアンドロイドが人間から受ける扱いにまつわる台詞を受けて、「『不公平』って言葉が出るのってなんか西洋的な感じがしますよね」(17:35~)とおっしゃっています。日本だと同じような不遇な状況では屈辱や恥といった個人の尊厳で表現するのではないかという視点が興味深いです。

今の社会に存在する格差や不平等を生む原因を知りたい、そして現状よりもJustice & Equityが実現した社会に変容させたいというのがTransdisciplinary Designの目標です。


思考のOS:System Thinking

Justice & Equityが実現した社会に変容させるための考え方として、System Thinking(システム思考)を参考にすることが多いです。1年生秋学期の必修科目の一つの「TD Seminar」では、ドネラ・H・メドウズが著した『世界はシステムで動く』を数週間に分けて通読し、システム思考を学びました。

また、既存の価値観を疑うというのもあって、いわゆるデザイン思考にも批判的なことが多いです。たとえば、solution(解決)という言葉を使うことは好まれず、代わりにIntervention(介入)transformation(変容)という言葉を使います。「問題を解決する」という表現が暗示する、デザイナーは人助けができるといううぬぼれ感や、問題を解決すれば一件落着という短絡的な見方に批判的なのだと理解しています。この辺りは、システム思考や人類学がデザインを批判する時と似ていると思います。

ちなみに、システム思考とデザイン思考を掛け合わしたものにシステミックデザインというものもあるようです。TDではシステミックデザインという単語は使わなかったものの、似たようなマインドセットだと感じます。


インプット方法:Desing-Led Research

Transdisciplinary Designでは人類学者の先生が多いこともあってか、人類学的なリサーチを学ぶ機会が多いです。たとえば、1年生秋学期の必修科目に「Design-Led Research」があります。この授業では、デザインのためにリサーチをするのではなく、デザインを使ってリサーチをするという方針が特徴的です。私が受けた授業では、英単語の意味をリサーチするというプロジェクトを中心に進んでいきました。たとえば、私のグループは「care」という単語をテーマにリサーチを行いました。


アウトプット方法:Speculative Design

パーソンズ美術大学にはSpeculative Designの提唱者であるアンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーが在籍していることもあり、Speculative Designを学べる授業があります。Transdisciplinary Designでも、お二人の著書が参考図書としてよく紹介されます。

また、1年生春学期に「Speculative Studio」という必修科目があり、Speculative Designを実践的に学びます。私が受けた授業ではダン&レイビーの弟子であるエリオット・モンゴメリーが担当し、「20年後のタイムズスクエア」をテーマに約2ヶ月間のプロジェクトに取り組み、実際にタイムズスクエアでパフォーマンスを行いました。


アイデア創出:Curiosity-Driven

ここまでは必修科目で学ぶ内容で、Transdisciplinary Designの学生が共通して身につける内容です。しかし、ここまでの内容は人類学やデザインなど既存の領域を学んだだけとも言えます。

Transdisciplinary Designらしさが生まれてくるのは、インプット手法とアウトプット手法の間に挟まる解釈フェーズが個人ごとに異なる点だと思います。リサーチ結果から何が気になったのか、どのようなアウトプットをしていくべきだと思うのかは人によって異なるからです。この部分を自分のバックグラウンドや興味のある領域の知恵を活かしながら行います。

私の場合、社会問題としては資本主義に注目し、視点としては仏教や東洋思想を使いたいと考えていました。こうした私個人の興味を踏まえ、卒業制作ではデザインは資本主義に加担する存在であると仮定し、その変容のために禅が参考になるという提案をしました。


まとめ

Transdisciplinary Designのカリキュラムから学べるデザインプロセスは、Design-Led Researchで情報収集をし、自分の興味や専門領域を通して解釈&提案を考え、Speculative Design的なアウトプットをするという流れであるとまとめてみました。こうした手法を用いながら、Jusitice & Equityの実現を目指します。

ただし、一人ひとりの学生がそれぞれの手法を生み出すことが推奨されているため、Transdisciplinary Designではこれらを使わなければならないという縛りはありません。今回のまとめも私が2年間の留学という「フィールドワーク」を通して感じた私なりのTransdisciplinary Designのカリキュラムです。

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