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2024年7月26日「人間はどこまで家畜かーー現代人の精神構造」感想


早川書房 熊代亨 著、「人間はどこまで家畜かーー現代人の精神構造」をAudibleで読了したので、その感想です。
SNSで感想を見かけて、面白そうだなぁと思っていたのですが、書店では見かけず…。 
先日、Audibleのおすすめに出てきたので大喜びしてダウンロードしました。
弊Audibleにおいては、今後もこのように、おすすめ機能を頑張っていただきたいものです。
ミステリと歴史や科学ノンフィクションがずらっと並ぶようになってきて学習しているなぁと感心しています。
今年読んだ本はハズレが少なく、当たりが多いのですが、この本も当たりです。
沢山の知的な好奇心とほんの少しの恐怖が沸き起こった感想です。


読み手はデジタルボイス


何と、今作は読み手が声優さんではなく、デジタルボイスです。
若い男性のように聞こえるデジタルボイスでした。
内容が内容(人類の家畜化、人類の未来の明るくない展望についても検討する)だけにすごく皮肉です。
しかし、これが、とても聞き取りやすいのです。
発音で気になる部分も少しはありましたが、おおむね、問題がなく、むしろ、はっきり聞き取れ、頭に入りやすいのです。
人間の読み手と違って呼吸音があまり入らないからだと思うのですが、
人間で息をしている生き物の自分が「呼吸音が少ない方が聞き取りやすい!」「一定のペース、トーンで読み上げてくれるから集中しやすい」とかいう感想を持っているのがすでにおかしな話です。
もはや、ディストピアに足を突っ込んでいます。
デジタルボイスの方が安く、そして早くAudible化できるのだろうか、だとしたら、声優さんたちの仕事が減ってしまうのでは…と心配になってしまいました。

多彩な資料と著者の仕事が交錯する現代論


著者は精神科医であり、現代社会についていけず、精神的な不調を被ってしまった患者を診察しているようです。
その一方、生物学や歴史学(アナール学派)の研究にも興味を持っておられます。
本作は、その2つが交錯した部分、著者がいくつかの分野の知識を合わせて、人間について論考したものです。
こう書くと非常に難しそうですが、
著者は、精神科での臨床体験やさまざまな学問の研究をわかりやすく説明、そして引用してくれるので、かなりとっつきやすい文章となっています。
難しい言葉や語句については、必ず丁寧な説明がありますので、心配は無用です。
著者の論にぐいぐいと引き込まれていきます。

人間は自己家畜化している?!
ソ連で行われたというギンギツネの実験から、アナール学派の研究、最近の暴力件数の減少まで、さまざまな資料・観点から、人間が自己家畜化し、それによって、安全で清潔な社会を作ってきたということが説明されます。
個人的には、「鎌倉殿の13人」や「光る君へ」などの大河ドラマを想起しました。
大河ドラマには、現代向けに脚色されているとはいえ、現代を生きる私たちにとって、驚くほど、残忍で衝動的で、暴力的な展開が多々あります。
人はすぐ死にますし、すぐつがいます。
死も愛もあっという間です。
そんな理由で?ということでも、殺し合いが起こります。
歴史的には正しくないと揶揄されることも多い大河ドラマですが、完全に歴史考証通りに作られたら、その素暴さ、残酷さに視聴者はつかないだろうと思うのです。
「人間は、ギンギツネ同様、種を保存するのにその方が都合が良いと判断して、自己家畜化(より非暴力的に、よりおとなしく、より中性的に)を進めているのかもしれない」という著者の主張には納得できるところがあります。

自己家畜化のデメリット


「自己家畜化」がなされることで、
(このワード、字面が激しいですね…)
人間の社会は、より穏やかに、より安全に、より文化的になったわけです。
しかし、
一方で、その社会に適応できない人々が精神疾患を訴えて、病院受診・服薬する、
出生率が低下する、などのデメリットも現れてきている、と著者は指摘します。
確かに…と考えさせられます。
出生率の低下は金銭的な補助だけで、改善するようなものではないのかもしれません。
人間の、進化ゆえの…病と言いますか…。
後半で、著者は自分の考えから導き出された2つの未来を考えて、提示します。
この未来がとても衝撃的なので、ぜひ直接読むか、聞いて欲しいと思います。
ディストピアSFがお好きな方は、感じいるところがあると思います。
しかも、全くありえない未来ではなさそうな気がします。

人間の動物としての部分も尊重される社会へ

最後の章では、現代の社会が、「エリートの男性」にとって生きやすい社会であり、
妊娠・出産をする身体をもつ女性には厳しい社会であることも指摘されます。
その上で、生殖も含めた人間の動物としての部分も尊重される社会が必要なのでは…という著者の提言がなされます。
最後の章で、こういう話になるのはとても驚きました。
著者はおそらく男性、そして医師なのです…!!
女性の肉体を持ち、普通の仕事をしている私の方が、
こういう視点を持たず、現代の社会に何とかして馴染もうとしていることに驚かされます。

未来について皆で考えるきっかけになる本


この本を読んで解決法がわかるとか、浮かぶわけではありませんが、
未来について皆で考えるきっかけ、
自分の中にある、思い込みを解除するきっかけになる本です。
お盆などで、少し時間がある時に、人類の未来について考えてみませんか?


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