9月19日の手紙 遅延した電車の中から
拝啓
今日は電車の中で、手紙を書いています。
電車が止まっています。
踏切の点検か何かのようです。
はっきりとは説明されませんでした。
ひどく、急いでいるわけでは、ないけれどモヤモヤします。
動き出すのだろうか、と少し不安になります。
おっと、放送が入りました。
放送では、しばらくすると動くとのことですがいっこうその気配はたりません。
待つことは、時に何かをしているよりもずっと大変です。そしで、ずっと疲れます。
動かない電車は退屈です。車窓の外も変わらないし、振動もありません。
電車の醍醐味がほとんどないと言って良いでしょう。
とはいえ、電気は通っているので、エアコンは効いており、ライトがついています。まだまだ暑さが厳しいので、涼しいのはありがたいことです。
今のところは、乗務員に詰め寄っている乗客はおらず、デッキで電話をかけている人がいます。向かう先に遅延の連絡をしているようです。
出先へ向けて、メールを打って、状況を伝えます。
イライラしても仕方ありません。この時間を楽しむ方が良さそうです。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を聞く時間が増えたと思うことにします。
ロッキーの健気さが心にきます。いいヤツだな、ロッキーもグレースも、としみじみ思います。「三体」や伊藤計劃の作品でなかったので、凶悪な気持ちにはならずにすみます。
電車が止まっている時に、あまり深刻な作品を聴かない方が良いでしょう。
おや、段々と車内が不穏な空気になってきました。イライラした通話の声が聞こえます。
日本人が電車の遅延に我慢できる時間はさほど長くないようです。
電車の扉が閉まりました。
ゆるゆると電車が動き始めました。
さあ、どれくらいの時間遅延して、目的地に辿り着くでしょうか。
軽快に進んでいたと思ったら、田んぼの中で急停車です。田んぼの稲はすでにかられ、水も抜かれています。
ここのお米は何の品種でしょうか。
個人的に、1番美味しいと思っている米の品種は「ゆめぴりか」です。
「ゆめぴりか」は北海道で栽培される米なので、このあたりでは栽培されていないことでしょう。
「ゆめぴりか」の素晴らしいところは、冷めても美味しいところです。
冷やご飯を憎むものとしては、冷めた時に少しでも美味しい品種がありがたいのです。
じっくりと刈り取られた後の稲の株を眺めます。
何の品種かはちっとも分かりません。農家の人なら分かるのでしょうか。
急に、汽笛が聞こえます。何の合図かは分かりませんが、高らかな汽笛はこの電車から上がったようです。
走り出せた歓声のように聞こえます。
止まったり、動いたりしながら、電車は進んでいます。車内は先ほどよりはおだやかな雰囲気になってきました。
少しでも進んでいると気分が殺伐としないのかもしれません。
遅刻している割にのほほんとした気持ちで、車窓を眺めていると、
通路を濃紺の制服をきた人が歩いています。背中には「POLICE」と書いてあります。
おやおや、警察官です。
この電車には、制服の警察官が乗っているのです。プラスチックバックのようなものを持っていて、隣の車両へ移っていきました。
これで、子どもの姿をした高校生名探偵が乗車していれば、完全に事件が発生するフラグです。
不謹慎ながら、少しドキドキしていましたが、目的地の駅まで、名探偵が飛び出してくることも、大立ち回りもありませんでした。
到着は、40分程遅れています。
時間を確認して、電車を出ると、警察官が降りてきました。見かけた1人だけではなく、険しい顔の男女1人ずつの2人組です。
この地で事件があるのだろうか、何があるのだろう?と気になりましたが、ずいぶん遅刻しているので先を急ぎました。
日常の中にも事件はあるし、
電車の遅延でも、文章に書こうとすれば面白く感じるですね。ちっとも退屈しませんでした。
よく見ることは文章の練習にはかなり有益だと感じました。目の前にあるもの、起きたことをどう描写するのか、どう意味付けるのか、どこを詳細に書き、どこを削るのか。
これをどう書こうか、そして、これはどんな物語の1ページになるだろうかと考え続けていると電車の遅延にもイライラせずにすみました。イライラしている暇などない、というのが真実かもしれません。
書くことは何にもなく、そして同時に山ほどあるのです。
何を書きたいかはもちろんですが、何なら書けるのかを増やしていきたいと思います。
では、また。