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【感想】小説『ムシカ 鎮虫譜』感想(ネタバレあり)_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0003

童話のような伝説。
人を襲う虫たち。
音楽で鎮める巫女ーー
いったい、この島は、なんなんだ。
(表紙より引用)

ミステリー小説でもあり、冒険小説でもあり、青春小説でもある。
まさにエンターテインメントと呼ばれるに相応しい小説だ。

著者の井上真偽さんのことは『その可能性はすでに考えた』で知り、この一冊だけですっかりハマってしまった。
『探偵が早すぎる』がドラマ化されたこともあり、普段あまり読書をされない方でも知っている人は多いかもしれない。

そんな井上さんの『ムシカ 鎮虫譜』、今作もとても面白かった。
まず、伝奇物と音楽が題材になっており、両方が好きな私はそれだけでページを捲る手が止まらなかった。

瀬戸内海に浮かぶ笛島、そこに棲むムシは人間を襲うが、特定の音や演奏方法で鎮めることができる。
そこで、7年おき、および13年おきに祭りをひらき、巫女たちが演奏することで鎮めることにしていた。
だが、それが暫く上手くいっておらず、ムシたちが獰猛になっているところで上陸をしてしまったのが、音大生の優一たち主人公一行だ。

なぜムシを鎮めるのが上手くいっていないのか、そもそもなぜムシを鎮めるようになったのか。
主人公たちが島を冒険、探索しながら少しずつ解き明かされていくのが楽しい。
島の雰囲気やムシたちの描写には気色悪さが漂っており、一気に物語の世界へと引き込まれる。

今回の探偵役はフリーピアニストの奏だが、彼女が出突っ張りで推理をするわけではない。
もちろん要所要所でキレのある推理が行われるが、主人公たちの音楽家としての成長も今作の見所の一つだろう。

それぞれが今後どう生きるか悩んでいる中で巻き込まれた騒動。
解決するためには音楽的に乗り越えなければならない困難な問題があったが、彼らがそれを乗り越えていく様は鮮やかに描写されており、青春モノとしても楽しめる。
その解決にあたっては当然ながら音楽的な説明も必要なのだが、そこまで難しいものではなく、むしろ音楽モノとして読んでも面白いように書かれているため、音楽の知識がなくても問題はない。

全てが解決された後、島で行われていたことは、少女の崇高な願いが発端だったと明かされる。
読後に「良いもの読んだなあ」という満足感があるラストの書き方にも、井上さんらしさを感じる。

ミステリー、冒険、青春のオーケストラを、是非味わってもらいたい。

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