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小説「無名人インタビュー物語 ――聞き手たちの冒険」第二部後編

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第一部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n7948dce6dd6f
第一部後編:https://note.com/unknowninterview/n/nec3e4c4ce1ff
第二部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n2848dd7b8de3
第二部後編:この記事です。
第三部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n8be14df5411f
第三部後編:https://note.com/unknowninterview/n/n331ba20fb5dd


第二部後編:静かなる成長

"Quiet but curious"

鷹匠麗子は、モニターに映る自分の姿を見つめながら、ため息をついた。画面の向こうで、qbcが彼女を見つめている。鷹匠とqbcは、オンラインでミーティングをしていた。

「葵さんへのインタビュー、聞きました。あなたの聞く姿勢は評価できます。しかし...質問が強すぎる」qbcは穏やかな口調で続けた。「特に、『もしも鋼のメンタルを手に入れたら』という質問は、インタビュー参加者を追い詰めすぎです。私たちの目的は、質問をナイフみたいに扱って、自分が欲しいと思った相手の部分をえぐりとることではありません。強引さは不要です」

鷹匠は頭を下げた。「申し訳ありません。私の未熟さゆえに...」

「いや、そうじゃないです」qbcの声のトーンは変わらない。「あなたが感じていたのは、葵さんへの共感です。それを出しすぎた。鷹匠さんは葵さんに昔の自分と似た部分を感じていたんでしょう。自分に似た人を救いたいと思った。それで気が逸って、強い言葉を使ってしまった」

鷹匠には返す言葉もなかった。

「だからこそ」qbcは言った。「もっと繊細になってほしい。"Quiet but curious"。静かでありながら好奇心旺盛であること。それがインタビュアーの真髄です」

鷹匠はうなずいた。qbcの言葉の一つ一つが、彼女の心に深く刻まれていく。

「次のインタビューでは、もっと柔らかなアプローチを心がけましょう。人生は長い。人がその間に、何度も何度もインタビューを受けて、自己理解を深め、幸福の質を上げていく世界を作りあげることが私たちの使命です。今日の失敗はひとつの通過点。私たちは、成功するまで失敗する」qbcは最後にそう付け加えた。

「はい」鷹匠はうなずいた。正直、今すぐに通話を終えて、椅子に深く身を沈めたい気持ちだった。qbcの口調はやわらかだが、自分の気持ちをぽんぽん言い当てられば落ち着かない。qbcは、普段とインタビューの時とではだいぶ雰囲気が違う。

「それで、鷹匠さん」qbcは話題を変えた「銀座のカフェオーナーの、葉山さんからの問い合わせ、どう思いましたか?」

鷹匠は深呼吸をして答えた。「はい、とても興味深い取り組みだと思います。『多視点インタビューナイト』というコンセプトが素晴らしいです」

qbcはうなずいた。「そうそう。人々の物語が交差し、新たな物語が生まれる場所...私の書いた記事とインタビューがヒントにはなってるけど、葉山さんはリアルでそれを実行したんだからね。これこそ、私たちが実現しなければならなかったものなんだろうなと」

「はい」鷹匠は熱心に続けた。「葉山さんのやられたことは、私たちのインタビュー手法にとって、新しい風になると思います。その場の空気が手伝ってくれるんでしょう、参加者同士が互いの物語に影響し合う速度が、オンラインよりも早い点が興味深いですね」

「そうだね、オンラインよりもリアルのほうが影響し合いやすいというのは、考えたら当たり前のようにも思うけど。コロナ禍にオンラインで始まった無名人インタビューだったから、リアルに手をつけるのが遅くなってたんだな」qbcは少し考えこんだ様子で言った。「鷹匠さん、この『多視点インタビューナイト』のコンセプト、次のプロジェクトに取りいれられないかな」

鷹匠の目が輝いた。「そうですね...例えば、クルーズ船でのインタビュー企画はどうでしょうか?」

「クルーズ船?」qbcは興味を示した。

「はい」鷹匠は熱心に説明を始めた。「クルーズ船という閉じられた空間で、数日間にわたって参加者たちが互いの物語を共有し、影響し合う。葉山さんのカフェでの取り組みを、より大きなスケールで実現できるのではないでしょうか」

qbcはゆっくりと頷いた。「いいね。クルーズ船という非日常的な空間が、人々の心を開かせる触媒にになるかもしれない」

「そうです」鷹匠は続けた。「私たちのインタビュー技術と葉山さんのアプローチを組み合わせることで、より深い自己理解と相互理解を促すことができるはずです」

qbcは満足げに微笑んだ。「良いアイデアだね。では、このクルーズインタビュー企画の具体的な計画を立ててみてほしい。そして、葉山さんにも協力を依頼してみましょう」

鷹匠は嬉しそうに頷いた。「はい、わかりました。早速取り掛かります」

「それと、鷹匠さん」qbcは真剣な表情で付け加えた。「この企画は、あなたが中心となって関わってほしい。葉山さんの手法から学び、あなた自身のインタビュースキルも向上させてください」

鷹匠は深く頭を下げた。「ありがとうございます。必ず良い結果を出します」

会議が終わり、鷹匠はオフィスを出た。彼女の頭の中では、すでにクルーズインタビューのアイデアが次々と湧いてきていた。葉山の「多視点インタビューナイト」から生まれたこの新しいプロジェクトが、人々の人生にどのような影響を与えるのか。その可能性に、鷹匠の心は高鳴っていた。

はい、承知いたしました。この展開を踏まえて、プロットに沿って第2章を書き直していきます。鷹匠の成長と、クルーズインタビュー企画の立案、そして葵の参加に焦点を当てて進めていきます。

クエスチョンデザイナー

鷹匠麗子は、クルーズインタビュー企画の計画書を見つめながら、目頭を押さえた。qbcとの会話から数日が経っていたが、その言葉の重みはまだ彼女の心に残っていた。

「"Quiet but curious"...」鷹匠は小さく呟いた。

彼女の目は、計画書の一項目に留まった。「アシスタント兼クエスチョンデザイナー」という役職名の横に、まだ空白の名前欄があった。クエスチョンデザイナーとは、これも今回のクルーズで初めて取り入れられたqbcのアイデアで、ひたすら質問を考え出すという役割を担っている。

(誰にしよう? 好奇心をもって、ひたすら質問を考えぬくことができる人材...)

鷹匠は、これまでインタビューに関わった人々の顔を次々と思い浮かべた。経験豊富なベテランインタビュアー、新進気鋭のジャーナリスト、感性豊かな作家たち。しかし、どの顔を思い浮かべても、何かが足りないような気がしていた。

その瞬間、携帯電話が鳴った。画面には「クルーズインタビューショー企画会議」という文字が浮かんでいる。

深呼吸をして、鷹匠は電話に出た。「はい、鷹匠です」

会議室には、「無名人インタビュー」のスタッフが集まっていた。鷹匠は少し緊張した面持ちで立ち上がった。

「では、クエスチョンデザイナーの人選について、皆さんのご意見をお聞かせください」qbcが口火を切った。

「経験豊富な方がいいのではないでしょうか」あるスタッフが提案した。「例えば、tokiさんはどうでしょう? 彼女は長年インタビュアーとして活躍していますし」

「いや、むしろ新しい視点を持った若手がいいんじゃないか」別のスタッフが反論した。「ミミハムココロ君なんかどうだ? 彼は常に斬新な質問を考えてくるからな」

議論が白熱する中、鷹匠はずっと黙っていた。そして、ふと彼女の脳裏に一つの顔が浮かんだ。

「私は、萩原葵さんをアシスタント兼クエスチョンデザイナーとして起用したいと思います」鷹匠は静かに、しかし確信を持って言った。

部屋に静寂が広がった。誰もが驚いた表情を浮かべている。

「葵さんは...インタビューを受けた方ですよね?」プロデューサーの一人が尋ねた。「まだ、インタビューを受けたことがあるだけの」

鷹匠は頷いた。「はい。確かにインタビューの経験はありません。しかし、彼女にはHSPとしての繊細な感性があります。それに、彼女自身がインタビューを受けた経験から、相手の気持ちを深く理解できるはずです」

「でも、経験のない人を起用するのは危険すぎませんか?」別のスタッフが懸念を示した。

「いいえ、むしろそれが強みになると思います」鷹匠は熱心に説明を続けた。「葵さんは、インタビューを受ける側の気持ちを熟知しています。だからこそ、相手の心に寄り添った質問を考えられるはずです」

qbcはじっと鷹匠を見つめていた。その目には、興味の光が宿っている。

「面白い提案だね」qbcはゆっくりと言った。「でも、彼女に自信はあるのでしょうか?」

鷹匠は一瞬躊躇したが、すぐに気持ちを立て直した。「はい。葵さんには、まだ自覚されていない大きな可能性があります。私が責任を持って指導し、その才能を引き出します」

会議室に再び沈黙が訪れた。スタッフたちは互いに顔を見合わせている。

最後に、qbcが口を開いた。「わかりました。鷹匠さんの判断を信じましょう。葵さんを起用してみましょう」

鷹匠は深く頭を下げた。「ありがとうございます。必ず良い結果を出します」

会議が終わり、鷹匠は急いでスマホを取りだした。葵のアカウントを検索する指が、少し震えている。

(葵さん、あなたの新しい旅が、ここから始まるのよ)

「もしもし、萩原さん...」鷹匠は深呼吸をして続けた。「あなたに、お願いしたいことがあるのです」

葵は、鷹匠の言葉を聞いて息を飲んだ。

「ア...アシスタント兼クエスチョンデザイナーですか?」葵の声には、驚きと不安が混じっていた。

鷹匠は優しく説明を続けた。「はい。あなたのHSPとしての感性を、インタビューに活かしてほしいのです。相手の気持ちを深く理解し、適切な質問を設計する。それがクエスチョンデザイナーの役割です」

葵は黙っていた。頭の中では、様々な思いが渦巻いている。

(私に...できるのかな...)

「萩原さん」鷹匠の声が、葵の思考を中断させた。「あなたにしかできないことがあるはずです。一緒に新しいインタビューの形を作りあげませんか?」

葵は深く息を吐いた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「わかりました。挑戦してみます」

電話を切った後、葵はデスクに向かい、メモを取り始めた。不安と期待が入り混じる中、彼女の心には小さな決意の火が灯っていた。

(私にしかできないこと...きっと、見つけられるはず)

葵の指が、ペンを走らせる。そこには、彼女なりのインタビューへの思いが、一行一行と綴られていった。

インタビュークルーズ

クルーズ船「オーシャンドリーム号」の甲板に、柔らかな海風が吹き抜けていた。葵は手すりに寄りかかり、広大な海を眺めながら深呼吸をした。

「緊張していますか?」

背後から鷹匠の声がした。葵はゆっくりと振り向いた。

「はい、少し...」葵は正直に答えた。「でも、不思議と落ち着いているんです」

鷹匠は微笑んだ。「それはきっと、あなたの特性のおかげですよ。このクルーズの雰囲気を敏感に感じ取っているんでしょう」

葵は小さく頷いた。確かに、船の揺れや潮の香り、遠くに聞こえる乗客たちの笑い声。それらすべてが彼女の感覚を刺激し、同時に心を落ち着かせていた。

葵は遠く東京のオフィスを思い浮かべた。このクルーズに参加するため、彼女は上司との粘り強い交渉の末、特別休暇を取得していた。「萩原、君の成長のためなら」と、最後は田中部長が意外な理解を示してくれたのだ。それでも、仕事から完全に離れられているわけではない。スマートフォンには、同僚からの心配メールや、対応すべき業務の通知がちらほら届いていた。

「仕事のこと、気になっているの?」鷹匠が葵の表情の変化を察して尋ねた。

葵は少し困ったように笑った。「少しです。でも...今はここに集中したいんです。きっと、この経験が仕事にも活かせると信じて」

鷹匠は優しく頷いた。「その通りよ。さあ、新しい冒険の始まりです。さて、準備はいいですか? 最初の個別インタビューが始まります」

葵は深呼吸をして答えた。「はい、頑張ります」

二人は船内のインタビュールームへと向かった。そこには既に、最初のゲストが待っていた。

鷹匠がインタビューを始めると、葵は静かに観察を始めた。ゲストの表情の微妙な変化、声のトーンの揺れ、体の動き。HSPである葵には、それらのディテールが鮮明に伝わってくる。

(この方、何か隠しているみたい...)

葵はメモを取りながら、次の質問案を考えていた。ゲストは50代の男性で、成功した実業家だった。しかし、彼の目には何か深い悲しみが潜んでいるように見えた。

「鷹匠さん」葵は小さな声で呼びかけた。「こんな質問はどうでしょうか...『成功を収めた今、あなたが最も大切にしているものは何ですか?そして、それはなぜですか?』」

鷹匠は葵の提案を聞き、微かに目を見開いた。それは、ゲストの心の奥深くに触れる可能性を秘めた質問だった。

「素晴らしいです」鷹匠は小声で返した。「では、その質問をしてみましょう」

鷹匠がその質問を投げかけると、ゲストの表情が一瞬凍りついた。そして、少しの沈黙の後、彼は静かに語り始めた。

「実は...今、私が最も大切にしているのは、家族との時間です」ゲストの声には、これまでにない感情がこめられていた。「かつて私は仕事一筋で、家族をないがしろにしていました。でも、妻の病気をきっかけに、本当に大切なものに気づいたんです」

葵は、ゲストの言葉に深く頷きながら、次の質問を考えた。「では、その気づきは、あなたの仕事や人生観にどのような影響を与えましたか?」

ゲストは、この質問に答えながら、徐々に心を開いていった。彼の語る言葉一つ一つに、人生の転換点での葛藤や、新たな価値観の発見がこめられていた。

インタビューが進むにつれ、葵は自分の役割にだんだんと自信を持ち始めていた。彼女の繊細な感性が、インタビューに新たな深みを与えていることを感じ取っていた。

そして、ゲストが去った後、鷹匠は葵に向かって微笑んだ。「素晴らしかったわ、葵さん。あなたの質問が、ゲストの本当の思いを引き出したわ」

葵は照れくさそうに頷いた。「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことがたくさんあります」

「そうね。でも、あなたは確実に成長している」鷹匠は優しく葵の肩に手を置いた。「これからが楽しみよ」

夜、船の大ホールで行われたインタビューショー。葵は鷹匠の隣で、緊張しながらもしっかりとした態度で立っていた。

「今日は特別なゲストをお迎えしています」鷹匠が観客に向かって言った。「クルーズ船の船長、風間海斗さんです」

会場から拍手が沸き起こる。葵は船長の表情を観察した。

(船長さん、少し疲れているみたい...でも、誇りを持って立っている)

鷹匠がインタビューを進める中、葵は時折質問案をささやいた。そのたびに、インタビューは新たな展開を見せる。

「船長という仕事の中で、最も心に残っている瞬間は何ですか?」葵が提案した質問だった。

船長は少し考え込んだ後、静かに語り始めた。「それは、嵐の中で乗客全員の命を守り切った時です...」

会場は船長の言葉に引き込まれていった。葵は、自分の質問が人々の心を動かす瞬間を目の当たりにして、胸が高鳴るのを感じた。

インタビューショーが終わると、観客から大きな拍手が沸き起こった。鷹匠は葵に向かって微笑んだ。

「素晴らしかったわ、葵さん」鷹匠の声には、心からの賞賛がこめられていた。「あなたの感性が、このインタビューを特別なものにしたわ」

葵は照れくさそうに頷いた。「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことがたくさんあります」

鷹匠は優しく葵の肩に手を置いた。「そうね。でも、あなたは確実に成長している。これからが楽しみよ」

その夜、葵は自室のベッドに横たわりながら、今日一日を振り返っていた。

(私のHSP特性...それが、インタビューに役立っているなんて)

彼女は、自分の中に眠っていた可能性に気づき始めていた。繊細さは、時に生きづらさの原因になることもある。しかし今、それが他者の心を理解し、深い対話を生み出す力になっていた。

葵はスマートフォンを取り出し、noteに新しい記事を書き始めた。

言葉を綴りながら、葵の心には新たな決意が芽生えていた。これからも、自分の特性を活かしながら、人々の物語を丁寧に紡いでいこう。
そして、自分自身の物語も、少しずつ、でも確実に書き進めていこう。

葵は深呼吸をして、目を閉じた。耳に届く波の音が、彼女を穏やかな眠りへと誘っていった。

明日もまた、新たな物語が始まる。そう思いながら、葵は静かに微笑んだ。

フェノメノン

早朝、葵は自室のベッドに横たわりながら、スマートフォンで「無名人インタビュー」の記事を読んでいた。特に、学生インタビュアーたちの経験談に引き込まれていった。

『インタビューをすることで、大人との1対1の会話に強くなった感じはありますね。』

という一文に、葵は強く共感した。自分も、鷹匠さんとの会話で少しずつ自信がついてきていることを実感していた。

さらに読み進めると、

『沈黙についても変わりました。普段は会話をしてて、相手が喋らなくなって何かを考えているときに「ああやばい、間ができた」「相手に考えさせちゃった」って思ってたんです。でもインタビューをするようになってからは、沈黙は待つ時間なんだって感じ。』

という部分に目が留まった。

(そうか、沈黙も大切な時間なんだ...)葵は深く考え込んだ。

記事の最後に近づくと、

『インタビューする相手は年上がどうしても多いので、失礼のないようにって考えてはいますが。』

という言葉に出会った。葵は自分も同じ思いを抱えていることに気づき、少し安心した。

読み終えた後、葵はしばらく天井を見つめていた。今日のインタビューに、この記事で学んだことを活かそうと決意した。

朝食後、甲板で鷹匠と話している時、葵は今朝読んだ記事のことを思い出した。

「鷹匠さん」葵は少し躊躇いながらも口を開いた。「昨日のインタビューで気づいたことがあります」

「何かしら?」鷹匠は興味深そうに葵を見た。

「クルーズ船という特殊な環境が、インタビューに影響を与えているように感じたんです」葵は慎重に言葉を選びながら続けた。「日常から離れた場所だからこそ、ゲストの方々がより率直に話してくれているような...それに、私自身も、普段の自分とは違う視点で物事を見られているような気がします」

葵は一瞬躊躇したが、今朝の記事を思い出し、さらに続けた。「それと...インタビューの中での沈黙も、大切な時間だと気づきました。相手が考えを整理する時間として、待つことの重要性を感じています」

鷹匠の目が輝いた。「素晴らしい気づきね、葵さん。その視点を今日のインタビューに活かしてみましょう」

葵は深く頷いた。記事から学んだことを実践に移せる機会に、胸が高鳴るのを感じた。

「今日は、もっと深く相手の心に寄り添えるよう頑張ります」葵は決意をこめて言った。

鷹匠は満足げに頷いた。「素晴らしいわ。では、午前の個別インタビューに向かいましょう」

二人は、朝日に輝く海を背に、船内へと歩き始めた。葵の心の中には、これから出会う人々の物語への期待と、自分自身の新たな可能性への興奮が満ちていた。
朝日が海面を黄金色に染める中、葵は甲板で深呼吸をしていた。昨日の経験を経て、彼女の中に小さな自信が芽生えていた。

午前中の個別インタビューでは、葵のアイデアを取り入れた質問が次々と展開された。

「この船旅で、あなたの中で何か変化はありましたか?」
「海を見ていると、どんな気持ちになりますか?」
「日常を離れて、新たに気づいたことはありますか?」

これらの質問は、ゲストたちの心の奥深くにある思いを引き出すきっかけとなった。ある中年の男性は、長年の仕事のストレスから解放された気持ちを語り、若い女性カップルは、この旅で自分たちの関係を見つめ直す機会を得たと打ち明けた。

しかし、葵はまだ何かが足りないと感じていた。ゲストたちの答えは興味深いものの、彼らの本質的な部分にまで迫れていないような気がしたのだ。

休憩時間、葵は甲板に出て海を眺めながら考え込んでいた。広大な海原が目の前に広がり、その青さと深さに圧倒されながら、彼女は自分のインタビューを振り返っていた。

(何か足りない...もっと深く、相手の本質に迫れるはずなのに...)

そんな思いに駆られていた時、ふと、以前鷹匠が彼女に投げかけた質問が脳裏をよぎった。

「もしも鋼のメンタルを手に入れたら、何をしますか?」

その瞬間、葵の中で何かが閃いた。

(そうか...「もしも」の質問には特別な力があるんだ)

葵は急いでポケットからメモ帳を取り出し、ペンを走らせ始めた。彼女の手は興奮で少し震えていたが、アイデアは次々と湧き上がってきた。

「自分を動物に例えたら?」

葵は少し考え込んだ。(この質問なら、相手の自己イメージを引き出せるかも...)

「朝起きて虫になっていたらどうする?」

(非日常的な状況を想像することで、日常では気づかない自分の価値観が見えてくるかもしれない)

「5年後の自分に何て言う?」

(未来の自分を想像することで、今の自分の本当の願いが分かるかも...)

書き進めるうちに、葵は自分の中に眠っていた創造性が目覚めていくのを感じた。HSPとしての繊細な感性が、これらの質問を生み出す源になっていることに気づいた。

(私の特性...それは弱点じゃない。むしろ、人の心の奥底に触れる力になるんだ)

葵は深呼吸をした。海からの風が頬を撫で、彼女の中に新たな自信が芽生えるのを感じた。

(これらの質問...そうだ、"フェノメノン"と呼ぼう。現象、つまり、人の内面に起こる小さな変化や気づきを引き出す質問)

興奮と期待に胸を躍らせながら、葵は鷹匠のもとへ駆け寄った。彼女の目には、新たな決意の光が宿っていた。

「鷹匠さん、新しい質問の方法を思いついたんです!」

葵の声には、これまでにない自信と熱意がこめられていた。それは、まるで彼女自身が生まれ変わったかのようだった。

これらの質問を見つめながら、葵は心の中でつぶやいた。

(この類の質問を...そうだ、"フェノメノン"と呼ぼう)

葵は興奮して鷹匠のもとへ駆け寄った。

「鷹匠さん、新しい質問の方法を思いついたんです!」

葵は自分のアイデアを熱心に説明した。鷹匠は興味深そうに聞いていたが、少し躊躇いの色も見せた。

「面白い発想ね、葵さん。でも、そういった非日常的な質問が、このクルーズインタビューの趣旨に合うかどうか...」

葵は少し落胆したが、諦める気はなかった。彼女の目に、新たな決意の光が宿った。

「少し相談したい人がいるんです。お時間をいただけますか?」

鷹匠は葵の真剣な表情を見て、静かに頷いた。

葵は急いで自室に戻り、深呼吸をして心を落ち着けた。そして、qbcから教えてもらっていた葉山のコンタクト先に電話をかけた。ダイヤル音が鳴る間、葵の心臓は早鐘を打っていた。

「もしもし、葉山誠です」

温かみのある声が聞こえた瞬間、葵は少し緊張が解けるのを感じた。同時に、この声の主が「木漏れ日」のオーナーであり、無名人インタビューの重要な協力者だという事実に、改めて身が引き締まる思いがした。

「あの、葉山さん、初めまして。クルーズインタビューで今インタビュアーをしております、萩原葵と申します」葵は丁寧に自己紹介した。「qbcさんからお話を伺っておりまして...少しご相談があってお電話させていただきました」

「ああ、萩原さんですね」葉山の声には親しみが感じられた。「qbcから聞いていますよ。HSPの特性を持つ新人インタビュアーとして、素晴らしい活躍をされているそうですね」

葵は思わず頬が熱くなるのを感じた。「はい...まだまだ未熟者ですが、精一杯頑張っています」

「謙遜する必要はありませんよ」葉山は優しく言った。「私も葵さんと同じように、人々の物語を聴くことに魅了された一人です。お互い、人の心の奥底にある物語を引き出す仕事をしている仲間として、気軽に話し合えればと思います」

葉山の言葉に、葵は心が温かくなるのを感じた。初対面の緊張が徐々に解けていく。

「ありがとうございます」葵は感謝の気持ちをこめて答えた。「実は今、新しいインタビューの手法について思いついたことがあって...」

「おや、それは興味深いですね」葉山の声には好奇心が感じられた。「どんなアイデアなのか、ぜひ聞かせてください」

葵は深呼吸をして、自分のアイデアを説明し始めた。言葉を選びながら、フェノメノンという概念と、それをインタビューに活用する方法について語った。話しながら、自分の考えがより明確になっていくのを感じた。

葉山は熱心に耳を傾け、時折質問を投げかけた。「なるほど、その質問で相手はどう反応すると予想している?」「そのアイデアはどこから生まれたの?」

葵は一つ一つの質問に丁寧に答えていった。そうすることで、自分のアイデアの強みと弱点がより鮮明に見えてきた。

「なるほど、フェノメノンか。面白い着眼点だね」葉山の声には温かみがあった。「実は、私の『多視点インタビューナイト』でも似たようなことを試みていたんだ」

葉山は、非日常的な質問が人々の内面を引き出す力を持つこと、そして日常から離れた空間だからこそ、そういった質問が効果を発揮することを説明した。葵は熱心に聞き入った。葉山の言葉一つ一つが、彼女の中で新たな気づきを生んでいった。

「葵さん、君のアイデアは素晴らしいよ」葉山は優しく言った。「ただし、使い方には注意が必要だ。相手を混乱させるのではなく、新しい視点を提供することが目的だからね」

葵は熱心にメモを取りながら、葉山のアドバイスに耳を傾けた。彼女の頭の中で、アイデアが整理され、より洗練されていくのを感じた。

「それから、葵さん」葉山は続けた。「君自身のHSPとしての特性も、このフェノメノンの強みになると思う。相手の微妙な反応を感じ取れる君だからこそ、適切なタイミングで適切な質問ができるはずだ」

その言葉に、葵の目が輝いた。自分の特性が、弱点ではなく強みになる。その実感が、彼女の心に深く刻まれた。

電話を切る頃には、葵の中に新たな自信が芽生えていた。

「ありがとうございました、葉山さん。このアイデアを活かして、もっと深いインタビューができるよう頑張ります」

葵の声には、新たな決意と期待がこめられていた。

電話を切った葵は、すぐに鷹匠のもとへ向かった。廊下を歩きながら、彼女の頭の中では葉山との会話が反芻されていた。葉山との対話を通じて得た insights が、彼女の中でより確かな形を取り始めていた。

鷹匠の前に立った葵は、背筋を伸ばし、目を輝かせて語り始めた。フェノメノンの概念、その効果、そして注意点について、葉山から学んだことを織り交ぜながら説明した。

鷹匠は黙って聞いていたが、その目には次第に興味の色が浮かんでいった。葵が説明を終えると、鷹匠はゆっくりと頷いた。

「葵さん、あなたの成長には目を見張るものがあるわ」鷹匠の声には、驚きと喜びが混じっていた。「このアイデアを、午後のワークショップで試してみましょう」

葵の顔に、安堵と期待の表情が広がった。彼女の新しい挑戦が、ここから始まろうとしていた。

午後のワークショップは、葵の新しいアプローチによって、これまでにない深みを持つものとなった。参加者たちは、フェノメノンの質問に戸惑いながらも、徐々に心を開いていった。

「自分が海の生き物だとしたら、何になりますか?そしてそれはなぜですか?」
「もし今の自分に会えたら、どんなアドバイスをしますか?」
「人生という本の著者だとしたら、次の章のタイトルは何にしますか?」

これらの質問は、参加者たちに新しい視点を提供し、自己理解を深める機会となった。葵は、人々の表情が変化していく様子を見て、自分のアイデアが効果を発揮していることを実感した。

ワークショップが終わると、鷹匠は葵に向かって微笑んだ。

「素晴らしかったわ、葵さん。あなたのフェノメノン質問が、参加者たちの心を開いていったわ」

葵は照れくさそうに頷いた。「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことがたくさんあります」

「そうね。でも、あなたは確実に成長している」鷹匠は優しく葵の肩に手を置いた。「さあ、夜のインタビューショーの準備をしましょう」

夜のインタビューショーは、クルーズ最後の夜を飾るメインイベントだった。大ホールは、期待に胸を膨らませた観客で埋め尽くされていた。

鷹匠が開会の挨拶を述べた後、葵が前に出た。少し緊張した様子だったが、目には決意の光が宿っていた。

「今夜のゲストは、この5日間のクルーズで最も印象的な変化を遂げた方々です」葵は落ち着いた声で言った。「彼らの物語を通じて、私たちも何か新しい気づきを得られればと思います」

インタビューが始まると、葵は鷹匠と息の合ったやりとりを展開した。彼女の繊細な質問と、新たに考案したフェノメノン質問は、ゲストたちの心の奥底にある思いを引き出していく。

ある60代の女性は涙ながらに語った。「このクルーズで、長年忘れていた自分の夢を思いだしたんです。まだ、私にも新しい挑戦ができるかもしれない...」

葵は優しく微笑んで尋ねた。「もし今の自分が、夢を忘れていた頃の自分に会えたら、どんな言葉をかけますか?」

女性は少し考え込んだ後、静かに答えた。「大丈夫よ、あなたの人生はまだまだ続くわ。夢を諦めないで」

若い起業家は、海を見ながら得た新しい事業アイデアについて熱く語った。葵は彼に「あなたの事業を動物に例えるとしたら、どんな動物になりますか?」と尋ねた。

起業家は笑いながら答えた。「きっとイルカですね。自由に泳ぎ回りながら、仲間と協力して大きな目標に向かって進んでいく...そんなイメージです」

そして最後に、風間船長が再び登場。彼は、このクルーズで出会った人々から得た勇気について語った。

葵は船長に向かって、最後のフェノメノン質問を投げかけた。「もし、あなたの人生という船の航海日誌を書くとしたら、この5日間のクルーズはどんなタイトルになりますか?」

風間船長は深く考え込んだ後、ゆっくりと答えた。「『新たな航路の発見 - 勇気という風を受けて』にしましょう!」

インタビューが終わると、会場は大きな拍手に包まれた。多くの観客の目には涙が光っていた。

静かなる成長

ショーの後、鷹匠は葵を抱きしめた。「私たちは素晴らしいものを作り上げたわ」

その瞬間、葵の中で何かが崩れるように感じた。これまで抑えていた感情が、一気に溢れ出してきたのだ。

「ありがとうございます、鷹匠さん」葵の声は震えていた。「私...私...」

言葉にならないまま、葵は泣き崩れた。それは単なる喜びの涙ではなかった。これまでの人生で感じてきた不安、孤独感、そして自分の特性に対する戸惑い。それらすべてが、この瞬間に解放されたかのようだった。

鷹匠は黙って葵を抱きしめ続けた。周りのスタッフたちも、静かに見守っていた。

葵の涙は止まらなかった。それは、まるで長い日照りの後に降り出した雨のようだった。彼女の中の何かが、洗い流されていくのを感じた。

「私...私、ずっと自分が変だと思ってたんです」葵は涙ながらに話し始めた。「周りと違う感じ方をして...でも、ここで...ここで初めて...」

鷹匠は優しく葵の背中をさすった。「あなたの特別な感性が、多くの人の心を動かしたのよ」

葵はさらに激しく泣いた。それは喜びと安堵の涙だった。自分の存在が認められた、自分の特性が価値あるものだと認められた、そんな感覚に圧倒されていた。

「私...私、これからも...」葵は言葉を詰まらせながらも、必死に伝えようとした。「もっと多くの人の物語を...聴きたいです。そして...自分の物語も...紡いでいきたいです」

鷹匠は葵の顔を優しく両手で包み、目を見つめた。「あなたならできるわ。これはあなたの新しい旅の始まりなのよ」

葵は深く、深く頷いた。涙で曇った目を通して、周りのスタッフたちの温かい笑顔が見えた。

その夜、葵は自室に戻ると、すぐにnoteを開いた。手は少し震えていたが、心は晴れやかだった。
今の思いを、丁寧にnoteの記事にする。

葵は深呼吸をして、目を閉じた。耳に届く波の音が、彼女を穏やかな眠りへと誘っていった。

明日、船は港に戻る。しかし、葵の新しい旅は、ここから始まるのだ。

人々の物語を聴き、そして自分自身の物語を紡いでいく。その旅は、きっと終わりのない、美しい冒険になるだろう。

そう思いながら、葵は静かに微笑んだ。彼女の頬には、まだ涙の跡が残っていたが、その目は希望に満ちていた。

(私は、私のままで大丈夫なんだ)

それは、HSPとして生きてきた彼女への、最大の贈り物だった。

葵の新たな冒険は、ここからが本番。彼女の成長と、それによって変わっていく周囲の人々の物語は、まだまだ続いていく。

そんな思いに浸っていた時、突然、急いだ足音とともにドアをノックする音が聞こえた。

「葵さん、起きてる?」鷹匠の声だった。声のトーンに urgency が感じられ、葵は慌てて起き上がった。

「はい、どうしました?」葵がドアを開けると、鷹匠の顔には深刻な表情が浮かんでいた。

「大変なの」鷹匠は息を切らせながら言った。「qbcさんが...qbcさんが東京で倒れたって連絡があったの」

葵は息を呑んだ。「え? どういうことですか?」

「詳しいことはまだわからないの。でも、急性の...」鷹匠の声が途切れた。「とにかく、病院に運ばれたそうよ。私たちにできることは限られているけど...」

葵は言葉を失った。つい先ほどまで希望に満ちていた彼女の心に、不安の影が差し込んだ。

「私たち...何かできることはありますか?」葵は震える声で言った。

「今はただ、無事を祈ることしかできないわ」鷹匠の声には悔しさが滲んでいた。「明日港に着いたら、すぐに状況を確認しましょう」

鷹匠が去った後、葵はベッドに座り込んだ。彼女の頭の中は、qbcとの思い出でいっぱいだった。qbcがいなければ、彼女はこのクルーズに参加することもなく、自分の新たな可能性を見出すこともなかっただろう。

(qbcさん、大丈夫だと言ってください)

人生は、時に予期せぬ方向に進む。しかし、それもまた、避けられない物語の一部なのかもしれない。

葵は祈るような気持ちで目を閉じた。明日の朝を待つしかない。彼女の冒険は、まだ始まったばかり。そして今、その冒険は新たな局面を迎えようとしていた。

船は静かに夜の海を進んでいった。葵の心は揺れていたが、それでも彼女は知っていた。この経験もまた、彼女を成長させる一部になるのだと。

(第二部後編:静かなる成長 終)

各話URL

第一部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n7948dce6dd6f
第一部後編:https://note.com/unknowninterview/n/nec3e4c4ce1ff
第二部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n2848dd7b8de3
第二部後編:この記事です。
第三部前編:https://note.com/unknowninterview/n/n8be14df5411f
第三部後編:https://note.com/unknowninterview/n/n331ba20fb5dd

この物語は、「無名人インタビュー」をテーマに書かれました。
執筆:Claude 3.5 Sonnet by Anthropic
監修:qbc(無名人インタビュー主催・作家)

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