小説書いてもらってみる006:生徒Aさん4稿目(最後まで書けた!)
こなだい上野の西洋美術館にいったらゴヤの展示やってました。ゴヤって、「子を喰らうサトゥルヌス」とかグロいのとか優美な肖像画が有名ですが、本領は版画だなあと思ってるのですよね。「妄」とかね。
昔ゴヤ見て、小説書きました。これ。うんうん。
美術館の話で、実はゴヤ自体は関係ないんだけど、でもこれゴヤ見てた時なんですよね。
という余談はさておき。
さあ小説を書いてもらってみるシリーズです!!!!!
Aさんの3稿目(というか書き出し)
手紙を書きだした。でも書けない。私は人間に向けて手紙を書いたことはあるが、それ以外の生き物に書いたことは人生で一度もない。だから、毎朝通勤途中に見かける猫に向けて、手紙を書くというのは至難の業だ。でも、この街を去る前に、あの猫にどうしても感謝の気持ちを伝えたい。
「手紙を書きたいんだったら、まずは封筒と便箋を本気で選ぶところからだね。それから机に向かう。頭の中で書きたい相手をイメージする。そしたら勝手に言葉が浮かぶから。簡単でしょ?」
そうやって友人はアドバイスしてきたが、それが適応されるのは人間に宛てたもののみである。結局は自分でなんとか書ききるしかないというわけだ。
ですです。
で、ここから実は1か月うんうんAさんは悩んでたんですね。
ちなみに小説を書くお題はこちら!
Aさんは書くのが初めて。
小説を書きたいと思ってるけど、どうやって書いたらいいの状態だったんですね。まー確かに。
書き方の本あります、書き方セミナーあります。
でもその人の人生をインタビューしてから書き方を教えるっていうか伴走するってないものな(Aさんには無名人インタビューしたことあるんですね、そしてその流れで小説書くお手伝いをしたと)。
で、ともあれ書く気になって、なんとか書き出すこともできたと。
でも、書けない。
まあ、難しいですよ。これでいいのかな? ってのがわからないですからね創作は。世の中には「漢字が多い」「主人公が男だ」「共感できない」といった目線で評価されたりもします。
てか評価ってそんなもんです。人の好き好きなので。
でも、そういう評価の目にさらされてると、なかなか「書く」「書くことによって得られる自己理解」が得られないよなって。
芸術って他人がいないと成立しないと思ってますよ。
でもね、芸術以前に、自分を自分たらしめるための自己表現、創作の楽しみってあるもの。
っていうことで、書くの楽しみをより多くの人に、ってことでなんとなく始めたのがこの「小説書いてもらってみる」って企画だったのですけど。
これ、思ったよりも楽しくて。ちょっと公開募集することにしたのでこの記事の最後、ぜひ見てくださいませね!
ででで、今回、書きあぐねるAさんのために、一緒にアドバイス+一緒に各作業に付き添う、ということをしてみました!!!!!
そのアドバイス内容がこちら。
アドバイス:主人公の状態
まず、どんな主人公なのかAさんに聞いてみました。
そもそも男? 女? とか。
出てこないのかな? と思っていたら、ずるずる出てくる出てくる。
まとめるとこんな感じでした。AI要約なんでちょっと硬くてすみません。
主人公のシチュエーションが決まってくると、ある程度、どういうストーリーなのかが見えてくるんですよね。
なぜ見えてくるのか? 書きなれてくると、ストーリーのテンプレートを持ってるんですよ(この場合、私が持ってる)。それを、あ、こういう主人公だったらこういうストーリーかな、って。
今回の目的は上手に書くとかそういう以前に、自分が思ったことを小説として表現する、ということが大事なので、まずは書きやすいテンプレートを提案します(今回、結局ちょっと難しいものになりましたが)。
アドバイス:主人公の心理をどうやって物語表現にするか
で、次はその主人公を、どうやって物語にしていくか、というところ。
細かくは、具体的にこの後お見せする本文を見ていただけたらいいのですが、こんな感じですね。
初稿で出た猫と対話するという物語ですね。
で、見立てとして、猫と対話というギミックを使うと。
(こういう物語を作る感覚も、一緒に説明してます!)
アドバイス:物語表現上の注意
で、表現上の注意と。
で、出来上がったのがこちら!!!!!
Aさんの4稿目(最後まで!)
手紙を書きだした。でも書けない。もちろん人間に向けて手紙を書いたことはある。しかし人間以外に書いたことはない。今、毎朝通勤途中に見かける猫に手紙を書いている。実に難しい。でも、あの猫にどうしても感謝の気持ちを伝えたい。私はもう少しで、この街を去ってしまうから。
友人に相談したらこんなアドバイスをもらった。
「手紙を書きたいんだったら、まずは封筒と便箋を本気で選ぶところからだね。それから机に向かう。頭の中で書きたい相手をイメージする。そしたら勝手に言葉が浮かぶから。簡単でしょ?」
簡単だろうね。相手が人間なら。でも私は猫に書くんだよ。結局は、自分でなんとか書ききるしかないというわけだ。今私の手元には便箋とペンがある。しかし猫は私の書いた文字が読めないかもしれない。そうか。やさしい言葉で書いていかなきゃいけないんだな。
とりあえず、寝る前のコーヒーだけ入れておこう。
私は、猫への手紙を書き始めた。
「イヌちゃん(今私がつけてあげました。今日からあなたは猫だけどイヌちゃんです)、私は明日、ここから引っ越すよ。引っ越しってわかる? もう、私と会えなくなるってことなんだよ。もう、公園のベンチの下にいても、私がイヌちゃんのあごを撫でてあげることはできないからね、我慢してください。我慢は大事なんです。私のお母さんも言っていたからね。
イヌちゃんは首輪をつけているから、きっと誰かの飼い猫なんでしょう。あたたかで、ぐーたらしていたらご飯を出してくれる屋根付きの我が家があるんでしょう。なのに、野良猫風の雰囲気を出しては、飼い主の方がかわいそう。決められたことは忠実に守らなきゃ。
私はちゃんと「とりあえず3年は今の会社で頑張る」っていうのも守ったんだよ。「人には向き不向きがあるからなぁ」って上司が言ってたのにもちゃんと従って、会社もやめることにしたんだよ。自分の企画書を見ながら、そんなことを言う上司を見た時の気持ちが、イヌちゃんには分かる?分からないと思うけど。私は社会のルールをちゃんと守ってるんだからね。イヌちゃんみたいに、自由気ままにベンチの下でいつものんびりしてるわけじゃないんだよ。私はイヌちゃんのことが心底羨ましいのだよ。平日も休日も祝日もベンチの下にいられるし。私がこんなにイヌちゃんって呼んでも、「いや、私はネコだから」って顔してられるし。私だってイヌちゃんみたいになりたいよ。イヌちゃんみたいになって、高校受験も、大学受験も、就職も、なんなら小学校の遠足のお菓子選びも、やり直したいな。こんなことを思ったのは、人生ではじめてなんだよ。こんなことあんまり言いたくないけど、イヌちゃんのおかげ。だから私はイヌちゃんを見習うことにしたからね。人生のやり直しなんて出来ないけどさ。この街を離れて、イヌちゃんみたいに生きることに決めたから。毎日背中にある黒いハート柄の模様を触らせてくれて、ありがとうね。それじゃ、元気でね。」
手紙は何とか書き終えることができた。もぬけの殻になったコーヒーカップには、頑固な茶渋だけが残っている。あたたかさのかけらもないコーヒーカップ。あんなに並々と注がれたコーヒーを飲み終えたのに。粉の量にふさわしくない量のお湯を注いだのに。随分と時間がかかった。体内には大量のカフェインがいきわたっているはずだが、眠い。今日はいい夢を見れそうな気がする。いつもは使い捨てホットアイマスクがないと目を閉じられないのに、今日はまぶたを外界にさらした状態で眠りに落ちた。
夕方には引っ越し業者が来てしまう。早く公園に行ってイヌちゃんに別れの挨拶をしなきゃ。変なこと書いてないか怖いから、見直して必要があれば書き直そうと思ったのだけれど。そんな時間もないし、やっぱり昨日の自分が書いた文章を見るのが怖い。一度閉じたものは開かないほうが良いときもある。糊とセロハンテープとお気に入りのイヌのマスキングテープで厳重に封をされた手紙。手に持って公園へ向かう。
やっぱりいた。相変わらずベンチの下にいる。でも今日はなぜか寝ている。近づいて背中のハート柄の模様をぷすぷす押しても起きる気配がない。致し方あるまい。話しかけよう。2メートル先あたりで、はないちもんめをしている小学生たちがいるから、ほんのちょっとだけ恥ずかしいのだけれど。
「起きてくれない?今日最後の日だからさ。手紙、書いてきたんだよ。だからあげる。」
全く起きない。っていうか息してるのか?一応確認してみると、上下に規則正しく背中が動いているのが見える。どうやらちゃんと息はしているようだ。「おーい。あとちょっとで引っ越し業者来ちゃうからさ。これだけでも受け取ってよ。」胴体の下に隠れている前足を何とか抜き出して、手紙をその手に渡らせようとした。次の瞬間、イヌちゃんの目がカッと開いた。
「いらない。」
えっ?今喋ったのは誰?イヌちゃんが、喋った?喋ったよね。どういうこと?何が起きているの?混乱しているうちに、イヌちゃんがふらーっとどこかへ行った。そのへんに落ちていた銀杏を持ってきた。
「『これは新潟県産のとちおとめというリンゴです』って言われたら、あんたははいそうですか、って言って受け入れるのか?違うだろ。臭いって迷惑がられても、こいつは立派な銀杏なんだよ。」
あぁ。ついに言われてしまった。イヌちゃんは全部わかっていたんだね。ぼーっとしているように見えて、私よりずーっとちゃんとしてるよ。それから私は泣いた。子供みたいに、いや、それこそイヌみたいにワンワン泣いた。小学生たちはこっちを見ている。はないちもんめどころじゃないだろう。大の大人が、ネコを前にして泣いているんだから。でも今は、泣いている姿を見られたってこれっぽちも恥ずかしくない。私はどうにか泣いている時特有のひくひくを鎮めて、小学生たちに笑顔で教えてあげたんだ。
「大人だって、泣くときもあるんだよ!!」
彼らはお互いに目配せしたあとにくすっと笑ってた。でもすぐに何も無かったかのように大きな声ではないちもんめを再開してた。私はイヌちゃんと握手をした。というより、無理やり前足を持ち上げたようなものだけれど。前足を右手から地面にそっとおろして、名残惜しいながらも離す。
イヌちゃんは私の右手にある、ほんの少しだけ目立つほくろの部分に猫パンチした。
そして颯爽と姿を消してしまった。
「あのパンチはイヌじゃなくてネコだなぁ」
そうつぶやいたあと私はあのネコとは逆の方向に向かって歩き始めた。
初めて小説を書いた!!!!!
いやーすばらしい。初めての一歩にしては、かなり大きな一歩ですね。
初めてにしては「猫を喋らせる」という仕掛けにチャレンジしていますが(こういうメルヘンは描写力が足りないと嘘くさくなるんですよ)、描写の積み重ねがあったり、おそらくAさんご本人の持ってる内面をしっかり吐きだすことができたのではないかなと。
良かった良かった。
良かった良かった。
そして、さらにここからAさんは推敲を重ねていく、って決めるんですね。
すばらしい!!!!!
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