写真と人 rumica kaji-013 2024/06/26
ただいまインタビューをしている梶さん、東京で個展開催中です!
7/27まで! みなさまぜひご参加ください、
私qbcも行きます!
今回はひさしぶりに、イベント関連ではなく、撮影のお話。
まえがき:qbc(無名人インタビュー主催・作家)
「写真と人」インタビューとは?
作品を作りあげようとする人の心を継続して言葉に残してゆくインタビューシリーズです。
SNSで募集した無名の人たちを撮影するプロジェクトをしているカメラマンのRuluさんへの連続インタビューです。だいたい月に1回、インタビューしています。並行して、一人の人を撮影し続けるプロジェクトも開始しました。
被写体募集はこちらの記事からどうぞ。
これまでの「写真と人」
1回目は2023/8/2に行われた。
実際に行われたプロジェクトの撮影の様子を聞きつつ、撮影者と被写体の間に「ゆらぎ」があることを発見した。
ゆらぎとは、撮影者が撮影に没頭し、それまで意識していた被写体である他人という存在を忘れ、ただシャッターを押し続ける状態のことを意味した。
2回目は2023/8/16に行われた。
実際に行われた撮影の様子を聞きつつ、引き続き、撮影者と被写体の間の「ゆらぎ」について聞いた。
プロジェクトの始まったきっかけも聞いた。
3回目は2023/8/30に行われた。
実際に行われた新宿歌舞伎町の激しい撮影の様子を聞きつつ、Ruluさんの過去についてすこしふれた。
4回目は2023/9/13に行われた。
実際に行われた撮影の様子を聞いた。部屋での撮影だった。「ゆらぎ」が発生したかどうかについて聞いた。
Ruluさんが過去に精神科に通院し、自由連想法のように言葉を紡いだ経験があることを聞いた。“単語がバラバラになって、文字がバラバラになって、洗濯機みたいになって、頭の中でぐるぐる回ってるみたいな感覚”
5回目は2023/9/26に行われた。
実際に行われたプロジェクトの撮影の様子を聞いた。1回目の被写体と同じ被写体だった。撮影者と被写体について、詳しく聞いた。
6回目は2023/10/25に行われた。
実際に行われた撮影の様子を聞いた。今回も部屋での撮影だった。
Ruluさんが、「顔が写ってないんですよね」と言った。その他、窓や鏡といったモチーフの写真についても考察した。
7回目は2023/11/29に行われた。写真集を作るためのダミーブック(手作りの試作本)作成について聞いた。過去の撮影を、カメラマンとは違う視点で見返し、新たな物語の再構築をした。
8回目は2023/12/20に行われた。一人の人を継続して追いかけるフォトプロジェクトを開始したことについて聞いた。
9回目は、2024/1/24に行われた。ダミーブックの進捗と、zoomでのリモート撮影について聞いた。
10回目は、2024/3/27に行われた。個展に向けての「コラージュ」試作と、塩竃フォトフェスティバルについて聞いた。
11回目は、2024/4/23に行われた。グループ展について聞いた。
12回目は、2024/5/29に行われた。2回目のグループ展とKYOTOGRAPHIEについて聞いた。
今回は13回目で、6/26に行われた。
海での撮影 - 新たな挑戦と発見
qbc:
今回の撮影はいかがでしたかね?
Kaji Rumica:
もうこれがいつだっけな6月。6月14日に撮影して、モデルになってくださったのは空風ナギさん。「演劇と人」インタビューに出られてる方で、4月に初めてお会いして、そのときに撮影をしたので、今回2回目の撮影ということになります。1回目は、割と彼女のパーソナルな場所で撮影をして、自宅だったりとか。その後で、海でも撮りたいっていう申し出があったので、2回目の撮影をすることになって。
6月だからそんなに暑くないだろうと思ってたんですけど、お昼の時点で30℃近くまで上がるようなすごい暑い日で。だから撮影が昼にかかるとちょっと死んじゃうねっていうことになって、もう午前10時の時点で、28-29℃とかの予報だったので、朝7時に待ち合わせて、10時までに撮影終わるような感じで二人で早起きを頑張りました。
今回はカラーとモノクロがあって。基本的にモノクロでしか撮らないんですけど。あっても、色が見たくなった時2、3枚カラーに戻す程度かな。事前にqbcさんにお送りした写真資料では、8割ぐらいカラーかな。これには理由があって、今回カメラが違うんですね。海撮影なんですが、カメラに水とか砂とか大敵で。普段使ってるカメラの場合、例えばナギさんが水の中に入って、私が陸地とか平地とか離れたとこで撮るとかだと、普段と同じカメラでモノクロで撮ればいいんですけどね。
自分も一緒に水に浸かってとか、砂浜に彼女が寝転ぶんであれば自分も寝転んで、時々波をかぶりながら撮ろうとか思ったら、別のカメラを用意する必要があって。今回ちょっとお試しで実験的にっていう感じなんですけど。
オリンパスのデジカメ?コンデジ?を使いました。TG-6という機種で、防水機能があったり、防塵防滴機能付き、水に濡れても大丈夫だし、ほこりとか塵の多いようなところでも使えますよっていう触れ込みの、工事現場の撮影とかでも使われるようなデジタルカメラなのかな。2泊3日でレンタルをして持って行っていきました。普段持っているカメラは最初からモノクロになる設定をしていますし、ファインダーが付いて無いカメラだから、撮影中に見ている背面液晶のプレビュー画面もずーっとモノクロでしか。でも今回は普段と違うカメラで勝手が違う。届いて電源入れそのままの設定でまず撮ってみました。モノクロで撮る理由も個人的には自分の中であって、カラーだと嫌なんですよね。だけど初期設置のカラーでそのまま撮ってみて、小さな後ろの液晶画面で確認した時に悪く無いなと思えたので、そのままのカラーの設定で撮ってて。なので結構、今までの写真とは違う感じで撮れて面白かったかなっていうのが一番最近の撮影です。
qbc:
Kajiさんはどんな状態で撮影してたんですか?一緒に海に入ってたんですか?
Kaji Rumica:
そうですそうです。一緒にもちろん海に入って。
qbc:
体のどのぐらいまで入ったんですか?
Kaji Rumica:
全身です。髪の毛の中からもパンツの中からも砂が出てくるぐらいには、全身海水と砂だらけになりましたね。
qbc:
それは想定していた?
Kaji Rumica:
そうです。全部着替えを持っていきました。
qbc:
撮影自体はどんな感じで進行していったんですか?定例ですけど、待ち合わせから教えていただけると。
Kaji Rumica:
駅で待ち合わせをして、海の最寄りの駅で待ち合わせをしました。で、電車に乗って行って、乗り換えて車内に入ったら、「Kajiさん」って声かけられて、なんかつばの大きい帽子にサングラスかけた女の子に声かけられて。あれって言ってそこで待ち合わせよりも先に車内で会って合流して。すごいたくさんの大きい荷物を、2泊3日ぐらいの旅行に行くような大荷物で、彼女と合流して車内で合流をして。
聞くとすごいお肌が弱いらしいんですね。やっぱり海辺だし、汚れるし夏の日差しが強かったりとかするから、日焼け、紫外線を防ぐ対策だったりとか、あとなんでしょう、抗酸化作用のあるトマトジュースとかいろんなものがとにかく入っていて。そのまま駅に着いて、コンビニにも寄って。
海辺のコンビニ、すごい品揃えが全然違って、なんか海パンとかビーサンとか、お土産とかが売っててちょっと面白かったんです。そのまま海辺に降りて。朝早朝で7時なので、人は犬の散歩をしているぐらいの人しかいなくて少なくて。
撮影の拠点になる場所に荷物を置いたりとか、拠点になる場所がどこがいいかなって探して、日陰になる場所、角っこのところにレジャーシートひいて、リュックとか荷物とか置いて、私は濡れてもいいようなTシャツ短パンみたいな服に着替えて。それからは海に行って自由に好きにやっててっていう話をしてるうちに彼女がダーッて海の方に走り出して。最初は砂浜の近くとかで撮ってました。
最初は彼女が海側、波打ち際の砂浜にいて、私はもっと陸側の方から撮っていて、で、だんだん自分とナギさんの位置が変わって、彼女が砂浜の波打ち際にいたら私はもっと海側に回り込んで写真を撮ってみるとか、そういう感じで進んでいって。そんな感じですね。そんな感じ。
qbc:
海はどこの海だったんですか?
Kaji Rumica:
海は、あれは神奈川県かな。七里ヶ浜かな?
qbc:
人いました?
Kaji Rumica:
朝は全然。来たばっかりのときは全然いなくてサーファーの人が1人だけいましたね。後ろに時々写っちゃうから、ナギさんの頭で隠れるポジションを探してみたり。あそこすごい、いつもかわかんないですけど、波がすごい強いんですね。びっくり。
qbc:
あ~どうだろうな。関東の海って初めてですか?
Kaji Rumica:
そうですそうです。ちゃんと行ったのはもう初めてで。
qbc:
私も他の地域の海を見てないから分かんないな。太平洋が初めてみたいな?
Kaji Rumica:
九州の海は日本海?
qbc:
そっか。あそこ何て言うんだろう。でも日本海側ですよね?日本海寄りですよね?
Kaji Rumica:
ですかね。
qbc:
Kajiさん、福岡ですよね。
Kaji Rumica:
福岡です。
qbc:
日本海じゃないですかね。
Kaji Rumica:
そっか、上側と下側。日本の上か下かって言ったら上向き下向きだから全然違いますね。
qbc:
ブルーが濃いですよね、日本海ってね。
Kaji Rumica:
そうですね。
qbc:
そこがね結構ね違いますね。
Kaji Rumica:
行ったところはちょっとなんか、泥水みたいな色です。
qbc:
泥水?(笑)まあね。そんなに綺麗なところではないかもね。
Kaji Rumica:
あとなんか、砂浜が真っ黒?砂じゃないじゃんと思いました、砂浜が。砂なのかな。汚れて黒いんですかね。そういうわけじゃないのかななんか砂場の砂とかもこう肌色ベージュとかじゃないですか。福岡の海もそういうなんだろう。砂場の砂浜よりももうちょっと黄味があるような色味、肌色みたいな砂浜の色で、東京の海が本当になんかタールみたいな真っ黒で。
qbc:
まぁ東京湾はね、ひどいもんだと思うんですけど。
Kaji Rumica:
それがすごいびっくりしました。途中川みたいに橋の下、川みたいになって海に繋がってるとこがあって、をぐるっと回って反対側からナギさんを撮ろうと思ってたんですけど、靴ポイポイって脱いで、裸足で向かってたら、回り込むので地面が濡れてないところを歩くと黒いから、すごい熱を吸収する地面が。なので半分ぐらい行ったところで、足の裏が熱くて痛くて泣きそうになりながら戻りました。これ以上は無理だと思って。
だから海の違いにすごいびっくりしましたね。九州の知ってる海と全然違う。波も本当になんだろう。そんなに深く、深いところまでは行ってないけど、しっかり踏ん張っておかないとフラフラするようなくらい打ちつけてきて、激しい。
qbc:
朝何時に集合したんですか?
Kaji Rumica:
朝7時です。
qbc:
7時に現地?
Kaji Rumica:
現地。
qbc:
7時開始で何時に終わったんですか?
Kaji Rumica:
終わったのが、海岸の有料シャワーを使えるのが、10時からなので、10時まで撮りました。で、10時にシャワーを浴びて、ナギさんは本当にもうすごいドロドロになってくれたので、しっかりシャワー浴びて、ちょっとケアとかして、1時間ぐらいかかる。その後に近くのカフェでインタビューを1時間か1時間半くらいして、解散。11時12時、1時ぐらいまでいたのかな、1時過ぎぐらい。
qbc:
ちなみに、Kajiさんは最初は海に入る予定はなかったんですか?
Kaji Rumica:
いや、全然入る気で行きました。事前に海に行きたいって言う時点で、ナギさんがちょっとこう水に濡れたいって言ってたので、じゃあ自分も濡るかと思って行った感じですね。
qbc:
濡れてどんな気持ちになりました?
Kaji Rumica:
濡れて良かったというか、なんだろうな。普通に海に入るっていうことも、海水浴とか行かないし、海に入ることがないから。あとは入ってもちょっとこう服をまくって裸足になって、膝から下ぐらいとかそれぐらいはあるけど、ガッツリつかることはないから、普通にテンション上がりましたね。アドレナリンが出て、テンションが上がって。
一緒に海に自分が入らなかったら、立ってる地面と自分の不安定さ、波の強さに押されてよろってする感じとかが、水の温度だったりとか。あと場所によっては小石がすごい集まってくるところとかがあって、そこに立ってると、めっちゃ石がガンガンガンガンガンってすごい勢いでぶつかって、痛い痛い痛いみたいな、そういう感覚を共有できない。
共有できなかったから、やっぱり同じ場所に、初めての場所に一緒に行くとか、好きな場所に連れてってもらうとか、自分の撮影の中で場所が一つのキーワードなんだけど、同じ七里ヶ浜に行きました、でもやっぱり海の中に浸かってる人と、濡れずに外から取ってる人だったら、同じ場所に行っても、その経験とか体験とか共有できることが全然違うんだなって、海の中に入ってみてすごい感じました。
深まる関係性と変化する心
qbc:
人間関係っていうのはどんな感じだったんですかね?いつもだったら初対面から入ってるから、今回は違う感じがします。印象として楽しげな感じが出ている写真で、こんなことは今までなかった感じなんですね。
Kaji Rumica:
確かに。そうですね。初めてだとやっぱり緊張感とか、距離感、初めてならではの距離感とかそういうのがあって、その空気感は空気感で大事にしてるんですけど。2回3回、でも複数回に渡って撮ってもせいぜい3回ぐらいまでなんですけど。
例えば1回目に服を着て好きな場所で撮って、ヌードも撮ってほしいから2回目にヌードを撮りますってなったときに、1回目とそんなに離れない、割と同じようなテンションというか、会ったことはあるからもちろん、完全な初対面とは違うんだけど、でももうちょっと抑制的な気持ちっていうのが働いている自分の中に。
だけど、なんか今回はちょっとそういう心の動きとはなんか違っていて、それってなんか、なんだろうな、やっぱり同じ体験を共有してるとか、あと吊り橋効果みたいなことなのかもしれないし。ゆらゆら揺れてる吊り橋を渡ってる人を、自分は安全な陸地から写真を撮るのと、一緒に渡りながら、ちょっと怖いねとか言いながら橋の真ん中でお互い撮ってるのとでは、多分やっぱ全然違うと思うんですよね。
で、自分の気持ちが違うっていうのも一つあると思うんですけど。でも笑顔の写真とか彼女が気を許してるような、何か表情っていうのとか、なんかこう、彼女がすごく私を受け入れてる信頼して、信頼した目線で私を見つめている、見られているみたいな印象がすごく今までにないような感情として受け取って。やっぱり動き、それも自分の作風とか普段の写真とは違うけど、でもそれをやっぱり多分、それはそれで記録したかったみたいな多分気持ちがその時は働いて。迷ったけどそれを優先してみることにしました。
構図が凄くななめになってたりとか、バランスが悪かったりとかしてもそれをとにかく切り取る、収めることを優先してシャッターを切ったような瞬間なんかも多分たくさんあったし。何だろう。なんか彼女の方が多分びっくりしてたんですね。私がそこまで水に入る、水濡れて水につかるつもりで来たと思ってなかったみたいで。
一応濡れても大丈夫なように着替え持って行きますって言ってはいたんだけど、そんな頭から水かぶるぐらい、一緒にもう海の中に入ってずぶ濡れになってって、そこまでカメラマンが体張ると思わなかったみたいで。こんなにカメラマンの人が体を張って、撮ってもらったことはないですみたいなことをその後のインタビューでもすごい言ってたので。ナギさんはすいませんって言ってたけど私は好きでやってることなので、むしろ一緒に泥だけに濡れてくれてありがとうみたいな感じだし。
そこまで私が被写体と一緒にそうなったことによって、私の気持ちじゃなくて、ナギさんの気持ちの方がまた、違う動き方をして、それが今までと違う写真になっているっていうことに繋がってるのかなって思いました。
qbc:
じゃあ関係性の変化っていうのは撮影中には全く起きなかった?撮影中は何か動きがありました?
Kaji Rumica:
変化は最中もあったと思って。表情とか視線とか、あと彼女の動きとかも、もちろんその演劇をやってるから、いろんな体の動きとか、プロとして勉強してたりとか経験があったりとかすると思うから。一般の、例えば事務職をしている人より、もしかしたら身体的なポテンシャルがあるかもしれないと思うんですけど。
比べてないからわかんないけど、でもすごく動きがダイナミックだったのも、あ、ここまでやってくれるんだ相手もっていうことによって、どんどんどんどん自分を解放していくというかダイナミックに、何だろう、もっともっとってこうなっていく感じ。そういうお互いの心の動きが撮影中にあったと思います。
qbc:
最終的にどうなったんですか?
Kaji Rumica:
最終的に。
qbc:
終了時点では。
Kaji Rumica:
終了時点では。一番最後は何だろうな。最後の方は砂浜にもう顔がめり込んでるみたいな状態で、私も砂浜にベタッて寝転がって、カメラも地面に近いような感じで置いて、シャッターを切って、それで終わって、最後にナギさんから笑顔でピースってしてる写真を撮ってくださいっていうリクエストされたので、最後笑顔でピースしてるとこ撮って終わったっていう感じです。
qbc:
撮影では全体的にどんな気持ちだったんですか?
Kaji Rumica:
高揚感。その後のインタビューでナギさんが言ってたんですけど、彼女に1回目に撮影したときのデータは渡したんですけど、それをまだ見てないって言ってて。見るのがちょっと怖い気持ちもあるし、kajiさんとの撮影は、プロセス、撮ってるときが大事で、その結果いい写真が撮れていればもちろん嬉しいけど、その後の成果物が必須なわけではないみたいなことを言ってたんですね。
でも私からしたらそこまでして体張ってくれて、写真で報いなければならないっていうふうに思うんですけど。そこまでだって大変な思いして、彼女は女優さんで活躍してるから、で元々肌が弱いのに紫外線のすごい強い、もう撮影中は無防備じゃないですか。で砂も体に塗ったくって、真っ黒い東京の汚い砂を。髪もね長いからケアとかもいるし、そうやって本当に体を張ってやってくれて。
それで良い写真1枚も撮れませんでしたって言ったら、ふざけんなよってなると思うから、すごい撮影過酷で大変だったけど、この一枚が撮れたんだったらやった甲斐があったなって見て思ってほしいって、それがあるからだって彼女ギャラをもらえるわけでもないし、ここまでの交通費だってお互い自腹で払ってくるわけだしって思うんですけど、そういうことを彼女が言ってて私はそれがすごく意外でめちゃめちゃびっくりして。
他の人との撮影のときもそうなのかって聞くと、人によってはそうじゃない。例えば他のカメラマンだと撮影中は別に何とも思わないけど、撮影したデータが楽しみでそれを見て良かったなと思うみたいなこともあると言ってて、それも面白いなと思いました。プロセス。だから彼女の中でも、何か意味があるのかな、わからないけど。そのプロセスによって、変化があったり心の動きがあったり、何かしら得るものがあるっていう意味だったらいいなって思いながら聞いてました。
qbc:
なるほど。撮影自体でここが良かった悪かったというか、面白かったみたいなことってあります?
Kaji Rumica:
7時8時ぐらいの時点では全然人いないんですけど、9時10時くらいになってくると人がちょっと増えてくるんですね。本当にこれただの面白かった話なんですけど、犬を散歩してる人が結構多くて。そのうちの2組ぐらい私達がいるところにやってきて、そこは砂浜じゃなくて水がちょっと深くなっている水たまり、川に近いところで、プカプカ浮かんだりとかしながら撮ってたんですけど。そこに犬飼ってる、散歩の人が近くにやってきて、目の前で犬のおもちゃ、ちっちゃいフリスビーみたいなのを、ひょいって私達の前に投げて、行っておいでって言うと犬が犬かきしながらそれを取って、また戻っていってみたいな。
撮影も終盤近くだったから、彼女の白い服も泥をなすりつけて真っ黒になってたし、腕もひどい状態で砂だらけ、そういう服全身ずぶ濡れの奇妙な私達を横目に、普通に平常運転でなんだろう、犬と遊んでる人たちがいて、それを私達が犬かわいいと思って見てたら、ちょっとサービスで何回もやってくれて。他の飼い主の人も一緒になっておもちゃを投げ出したりとかして、ちょっと端っこで遊んでて。
なんか何だろう。東京の関東の人は、特異なものに対しての免疫力がすごい強いなと思いました。なんか、福岡だったら、うわやべえやついるみたいな。近寄らないとか、遠巻きに何か変なことしてる人がいると思って見られたりするんですけど。
これ以前の、何回だったかな。新宿での撮影のときも、あれは海じゃなくて人混みの中でゴミ箱に突っ込んだりとかしても、さすがにそのときは大丈夫ですか?みたいな、すごい具合悪いんですか?倒れたんですか?みたいすごい心配されて声かけられたりとかはあったけど。でもコンビニの前で頭からビールをぶっかけたりとかしてても、別に何か言う人とかもいなくてチラ見されるぐらい。今回の海でもすごい思いました。
私達はもう、アドレナリンどばどば出て、うおおみたいなってて、ほんとに何だろう。1mも離れない50センチ近くまで寄ってきて、ワンちゃんの名前呼んで、何々ちゃん行っておいで、はい!みたいな感じで平和な光景が突然始まって、逆にこっちが何々?てびっくりしちゃうような。そういう人に対しての見方とか距離感とか、すごい、東京だけ特別なのかなもしかしたらと思って面白く感じています。
qbc:
今回の撮影の話を聞いてて、夜の新宿を思い出したんですけど、似てます?
Kaji Rumica:
似てるかもしれないです。
qbc:
陰と陽っていう意味で全然違うんですけど。
Kaji Rumica:
そう、でもどっちもやっぱりハードルが高いことだったんですよね。私にとっても多分モデルになってくれた子にとっても。
qbc:
新宿の方も元々、モデル慣れされてるというかモデルの方でしたよね。
Kaji Rumica:
そうですね。カメラマンもモデルも両方やってるっていう。全然気にせずに。どっちも何だろう。モデルになってくれた人のやっぱエネルギー力みたいな、なんか力みたいなものもすごい強かったし。ナギさんは1回目はすごく、なんでしょう、内省的な感じだったんですよね。喋り方もちょっとポツリポツリみたいな感じだし。
特にやっぱりおうちに伺って、彼女の自宅に上がって、お母様が結構割と若くして亡くなられていて、可愛がってたワンちゃんも亡くなって、おうちに行ったらお仏壇があって、おばあちゃんとお母さんとワンちゃん2人の遺影があって、お線香をあげさせてもらってっていうそういう撮影の始まりで。お母様がやってる古道具のお店に行ったり、彼女がお母さんが若い頃に着ていた服ブラウスを着てあの撮影に臨んだりとか。1回目はそういう撮影で、おとなしいじゃないけど、やっぱりその内省的な感じの撮影だったのが、それこそ陰というかそんな感じ。
でも今回はすごい肉体、生命体みたいな生命力。何だろう。すごい。暴れ回ってるじゃないけど、爆発してるみたいな。その、演劇人としての彼女の、私が撮る写真もやっぱり見てきたものとか普段考えている思想とか、そういういろんなことが積み重なっていて。そういう経験とかによって、こういう写真を撮る、とか撮った中でもこれを選ぶとかそういうことになってるだろうし。彼女がその場で即興的にもちろんシナリオとか台本とかリハーサルとかそういうものは一切ないし、こういうポーズしてくださいってこともないし、そのときのテンションだったりとか、移動したりとかそこにあるものとか思いつきで即興的に生まれていくので。
やっぱりそこにはやっぱり彼女にしかないオリジナルの、例えば見てきた過去の演劇だったりとか、好きなものとかの影響とかもちろんあるんですけど、そういうものがいろいろいろいろミックスされた結果、やっぱり彼女にしかないもの、動きの一つ一つとか表情の作り方とかっていうものに、育っていくんだっていう。
そうなっていく途中の段階、まさにそれが、彼女もいろいろやっぱり人生の中でいろいろあったりとか、立ち止まったりとかいろいろあると思うんですけど、それを全部を勝手に融合して熟成されていくみたいな、その演劇人の体として、なんかそういうものになっていく。なんかプロセスを見てるような感じで。だから2回目の撮影をしてすごく本当に良かったなと思いました。
qbc:
私、ナギさんに関しては、普段の自分が本当の自分なのか、演劇をしてるときの方が本当の自分なのか、どっちがしっくりくるんだろうなみたいなことをちょっと考えてたりするんですけど、そういうふうに言われたら、勝手に他人のことをいうことになっちゃいますけど、どっちが本当の自分だと思います?
Kaji Rumica:
どっちがどうかな。どっちなんだろうな。
qbc:
まず撮影中は演者でしたよね。
Kaji Rumica:
そうですね。うん。そう、だからそのパーソナルな、本名の彼女一個人ではなく、一個人に近いのは1回目の撮影で、生活とか。2回目はそうですね、演者としての自分の、私のあり方みたいなものを、すごく表現したいみたいなのが伝わってきて、どっちがどっち。難しいですね。どう解釈したらいいんだろう。
qbc:
別人?
Kaji Rumica:
いやでも一緒ですね。結局、表現されるものってその個人の経験が反映されると思うし、何か台本があって演じたとしても、難しいですね。どっちが本当かぁ。でもその一般的にはやっぱり生活をしているパーソナルな彼女っていうのが、自分だと思います。他者である私の立場からすると。
彼女本人、自分がその彼女だったら置き換えて考えてみると、普段の毎日の生活が本来の自分であるっていうふうな認識よりも、演じてるときの自分の方が、自分らしいというか自己実現的というか、なんか本当だみたいな感覚が強いんじゃないかなというふうに想像しますね。
空風ナギさんのインタビューはこちら!
写真への想い - プロセスと素直さ
qbc:
今回はゆらぎってありました?
Kaji Rumica:
ゆらぎっぱなしですね。
qbc:
写真でいうと立ち入り禁止とか最後の2枚は、これはもうもはや意図的に撮られた?
Kaji Rumica:
これは帰り道、別れた後に、彼女は先に帰ってもらって、インタビュー終わった後に。しばらく海辺で、堤防みたいなところで私はぼんやりゴロゴロしてて。多分ちょっとイレギュラーのことが多かったから、1人でちょっと何でしょう。
qbc:
残ったアドレナリンを燃やしておく感じですね。
Kaji Rumica:
そうそうそう。なんかちょっとcalm downじゃないけど、ぼーっとして抜きたかったのか。それでぱっと下覗いたら、堤防の下に穴が開いててそこに鳩が出たり入ったりしてたからそれをずっと見つめてて、ずっとぼんやりしてたっていう写真と。あと自分の住んでる最寄りの駅まで帰ってきて、写真を一枚撮って。それから帰りに立ち入り禁止を撮ってて。
でも朝一に一番初めにも、工事中のホームがあってそこにロープが張られてて、入ったら駄目ですよみたいな紙が貼られてて、立ち入り禁止の文字は読めないんですけど、そういう写真、一番初めに撮りましたね。私今言われて気づいたんですけど。一番最後に最寄り駅の立ち入り禁止の、青いなんかガードみたいなのを撮ってて。あれは何なんだ。何なのか、何だろう。
自分に対してかもしれないですねなんか、すごくゆらいで引っ張られてるじゃないですか。撮った写真とかも。だからちょっとこう、自分側のガードが崩れてるみたいな、ちょっとそういうふう、不安でちょっと整えてみたいな感じかもしれないです。
qbc:
あとは、手のひらに何か乗せる、今回は砂浜の砂なんですけど、何か手に持って見せるっていうのは割と象徴的な感じはしますね。前は花びらを見せてくれたりとか他にもあって、それから手を差し伸べて触ろうとするとか、カメラマンを意識させるようなモデルのジェスチャーっていうのは、やっぱり梶さんの写真の象徴的なものですよね。
Kaji Rumica:
確かに。そうですね。前回の京都の写真も、モデルになった子が途中で星型のクッキーとチョコレートが入った三角の袋をくれて、途中で買ってきたからどうぞって言って。それを手のひらに乗せて撮った写真もあるし。
qbc:
そっか、逆のパターンもありますね。
Kaji Rumica:
そうだな。今回は特に自分の影とか指とかが多いかな。今回は特に、自分と彼女がその場に2人いたみたいなのが増えてるかもしれないですね。でも自分が平地で撮ってるわけじゃないから。いつもと違うからバランスを崩してばしゃんってなったりとか。向こうもやっぱりはバランスが不安定な状態で撮ってるから、その整ったフレーミングが壊れて、そういうものが普段より多いっていうのもあるかもしれないです。
qbc:
やっぱこのプロジェクトって変わってきてます?
Kaji Rumica:
変わってきてると思いますね。
qbc:
すごい風通しが良くなってってるんですよね。オープンな感じを受けるように。私小説からオープンな感じに。小説的ではあるんですけど。被写体の方たちのね、開放感が。開放感と言っていいのかわかんないですけど。でもオープンとか開放感とか、そういう何だろう、そういうようなものを感じるようになってきましたね。
Kaji Rumica:
確かになんかすごい特に最近は、変化を感じますね。
qbc:
京都はプライベートな空気がありつつでも、パブリックな感じも持ってるような。もちろん被写体とカメラマンっていう関係性を感じつつも、異質感が薄れてる。
Kaji Rumica:
それが良いことなのか悪いことなのか作品にとってはわからないけど、でもやっぱり関係性。コミュニケーションだったりとか関係性。1人でやることじゃないから、絶対その関係性っていうのは出てくるしいろいろ。だから。素直でいいんじゃないですかねみたいな。そのときそのときのことが素直に反映されていけば、いいのかなと思います。
qbc:
素直が一番ですね。
Kaji Rumica:
誰も私の写真を見て素直だと思わないかもしれないけど、私はすごく素直に正直に、その時々の気持ちに。言語的に意識するのは難しいけど、写真はそういうのが反映されてるといいなとは思ってますね。
qbc:
ありがとうございました。
Kaji Rumica:
ありがとうございました。
終わりに
個展! みんなも見に行くぞ!!!!!
制作・まえがき・あとがき:qbc(無名人インタビュー主催・作家)
#無名人インタビュー #インタビュー #コミュニケーション #写真 #カメラ #rumica
編集:本州
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