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無名人インタビュー:社長の息子20歳大学休学中の人

最初、私は彼のこと疑っていたんです。インタビュー開始前から、事前情報でわかっていることは若いことくらいで。話してみたら若い男性特有のぶっきらぼうさというか、世界に対するおもねりのなさを感じて、ああこれから親戚の集まりみたいな1時間がつづくのかなと思っていたところ、実はなんと彼は・・・?!
小説、人生、語り尽くした1時間!
ということで基さん回! 楽しんでいただけたならもっけの幸い!!

今回ご参加いただいたのは基さんです!

1、カフカ「変身」

基:このインタビューのどこに興味、ですか?
僕がnoteに小説を出したときに、一番最初にqbcさんが来られたんですよ。それで覗いてみたら、インタビューをやっているっていうのがあって、よこしまですけど宣伝になったらいいかなと思って応募させてもらったんですけど。それがきっかけですかね。

qbc:宣伝だけなら、リツイート的な拡散でも良かった?

基:いや、普通に人とzoomで話したことも無かったので、そういうのもやってみたいなと思って。いろいろ初めてなことがあるんで、やってみたいなと思って。

qbc:どんなインタビューになるかって想像をしていました?

基:どうでしょう。そこまで考えてなかったですけど。ほんと軽い気持ちで応募した感じですかね。

qbc:どんなインタビューにしていきましょうか?

基:一応、小説を投稿しはじめたんで、小説の話しようかなと思ってたんですけど。
まだ小説も読みはじめて一年くらいしか経ってないんですよ。
初めて読んだのが、フランツカフカの「変身」。たまたま本屋で新潮文庫の「変身」を見つけて、表紙が面白いなと目に入ってフラッと買ってみて、読みはじめたんですけど。
まだ小説を読んで、50冊くらいかな。
最近の小説も読むんですけど、面白くないものが多いですね。共感性が高いものが多いなって思って。

qbc:共感性?

基:受け入れやすいというか。それが僕にとってはあんまり面白くない。共感しやすいものは面白くないな。
で、今、noteにタトゥーの話書いてるんですよ。タトゥーってその、共感性の低いものとか受け入れがたいものの代名詞じゃないですか。だからタトゥーの話を書きはじめて、あんまり人にはまだ読まれてないんですけど。
みんな、共感性の高いものに行くじゃないですか。それのせいで、自分と同じ考えの人と集まるようになったりすると、そこで思考が固まってしまうのかなと思って。だから自分と全然違う意見とか、世界の人の意見を受け入れて咀嚼するのが大事だなと思ってて。それが小説の中とか、例えば絵とかでもそうですけど、そういう作品の中にあれば面白いのかなと思って、それでタトゥーの話を書きはじめました。って感じですかね。

タトゥーの話

“2020年の8月。時間はちょうど正午12時を迎えた。街の人々は、頭上にある太陽に照らされて、髪の毛や皮膚に艶を纏っている。顎の先から滴る汗は、アスファルトに触れた瞬間、蒸発して姿を消し、地上を透かす陽炎に匂いだけを残す。”

qbc:カフカの「変身」の今の表紙ってどんなのだった?

基:カフカ本人の顔がプリントされてるんです。大きく。

これかな?

qbc:あー、あの耳が長い写真?

基:純文学を読みたいなと思って。カフカの「変身」も難解じゃないですか。難しいというか、いろんな考察がされていると思うんですけど、受け入れがたいじゃないですか、あの小説も。

qbc:受け入れられないっていうか、無茶苦茶面白い小説だと思うけど。

基:人々の性格に近づいていく怖さというか。そこは見たくないところじゃないですか。そういうことが書かれてるのが面白いと思って。
今まであんまり知らなくて、そういうの。

qbc:その前までは、何を読んでたの?

基:アニメとかマンガを小さいころから読んでました。ジャンプを毎週読んだりとか。
少年漫画って、ある程度、読者が求めてるものってあるじゃないですか。カタルシスとか。一部の小説には、そこが無いんかなと思って。そういうのもありなんやなと思って。なんでもあり感も面白いなと思って、それで読みはじめたって感じですかね。

qbc:なるほどねー。そういう始まり方もあるんだ。面白いですね。ほんとたまたまジャケ買いで手にしてかあ。

基:あと薄かったんですよ、すごく。「変身」しか収録されてなくて。安かったのもあるけど。

2、あんまり今言えなくて

qbc:私は「掟の門」という作品が大好きですね。

基:読みましたよ。昨日も読みました。すごい短いですよね、あれも。

qbc:4ページか5ページかな。

基:短編集の一番最初に載ってて、それが。

こちらに収録されておりますわ。

基:そっから日本人の有名な方の読みはじめて、村上龍とか、大江健三郎とか安部公房とか。やっぱり小説家にも色ってあるじゃないですか。作品にも色があるし。
自分も書き続けてたら、そういうの出んのかなと思って。まだ手探りで、素人なんですけど。ほんとうにまだ読書数も少ないので。粗も多いと思うんですけど。

qbc:文章自体はしっかりされていると思いますけど。

基:まだ思いつき程度で書いてるんで。

qbc:キャラクターを喋らせずに話が書けてますよね。

基:喋らせるの好きじゃないですね僕は。書いてて思ってたんですけど。セリフじゃなくても伝えられることってあると思うんで。

qbc:カメラの場合はさ、被写体からの光をとらえるわけじゃない? カメラに入ってきた光を受け取る。暗いところだともちろん写りは悪くなるし、光が入りすぎても印象派みたいに輪郭がぼやける。
小説もそんなもので、文章というカメラを被写体に向けているような感じ。でもカメラと大きく違うのは、物理的なアングルを無視できる。どこでも行けるじゃん。例えば心の中も行ける。色も行ける。遺伝子も見られる。

基:どこにピントを合わせるかっていうことですよね。

qbc:そうそう。ピントもそうだし、フォーカスも。画面に何を切り取るか。どれくらいのレンズで撮るかとか。もう自由自在。機械の制約がなくなる。もちろん、自分の語彙っていうパーツが必要になるけど。
そういう風な意味で言うと、基さん自身の書いてる感じってどんなんですか?

基:感覚的なんですよね、まだ。技術的なこと、まったくわからないんで。勢いで、こう書いたらいいのかなっていう。
そういう手探りの中で、逆にそれやからこそ、いいのかなと思ってるんですけど。他人から見られてどう反応されるかってまだわからないので。なんとも言えない感じですかね。

qbc:不思議。小説を読んで、小説を書きたいなってすぐなったの?

基:僕、大学を休学中で。

qbc:コロナで?

基:コロナは関係が無いんですけど。だから時間があるんで。まあ暇つぶしで書きはじめたっていう感じで。
どうせやったら、あんまり人が書いてないもの書きたいなと思って。自分、タトゥーとか入れたことないんですけど、書こうかなと思ってタトゥーの話を書きました。タトゥーの痛みとかも想像なんですけど。そういう想像で書くのも面白いかなと思って。骨折したことのない人が骨折の痛みとか書いてたら面白いじゃないですか。そういうの書きたいなと思って。
経験したことのないことを書くって、やっぱりスキルが求められると思うんですけど、まだ自分はそれをする必要がないのかなと思って。しばらくは。まだ、頭ん中だけで書いてるっていうだけですかね。

qbc:今、何をやられてる人なんですか? あらためて。

基:一応、学生ですね。職業的には。バイトもしてないんですよ、今。
何をやられてるって言われても、本当にニートみたいな感じなんですよ、形で言えば。友達と遊んだりとか、そういうのもありますけどね。無意識に焦りもあるかもしれないですね、小説を書いたりしはじめたのは。

qbc:さしつかえない範囲で、休学の理由は?

基:ちょっとした病気みたいな感じですよ。言いにくくて。メンタルもあるんですけど、いろいろ重なっちゃったんですよね。そのせいで、たぶんこういうことを話したらインタビューが面白くなるかもしれないんですけど。あんまり今言えなくて。
家族と話しあって、とりあえず休学しようか1年ってなりました。

qbc:今は実家にいる?

基:今は実家ですね。休学前は東京に住んでて。今は和歌山です。
すごい、田舎なんですよ。周りにあんまり何にもないので、家にいることが多いですよ。だから家でできることかなと思って、書きはじめた感じですかね。

qbc:いつから休学してるんですか?

基:今年の4月か3月からです。

※インタビュー実施は11月。

qbc:小説は、高校生のころから?

基:いや、一年前からです。今、大学二年生で、一年生のときから書きはじめました。
ですね。
うつ病みたいな感じだったんですけど、やることもないしみたいな。時間がないと、自分でもいろいろ探せないやないですか。何かやることないかなって。惰性かもしれないですけど、noteを見つけて。
noteで誰かに見られるのも面白いかなと。創作物を誰かに見せたことないので。やってみようかなって思いました。

qbc:ほんと、文章自体はしっかりされていますよ。

基:あ、そうですか。ありがとうございます。
noteに小説書いて、本読んで、音楽聴いて、映画観て。そんな生活なんですよ、今。

qbc:今読んでる小説は?

基:今読んでるのは、大江健三郎の「死者の奢り・飼育」の短編小説ですね。

デビュー作だっけ死者の奢り。

qbc:どうです?

基:難しいっていうかジメジメしてるなって言うか。言い回しとか、すごい遠回りな角度からくるんで。最初戸惑いましたけど、面白いなと思いますね。
海外でも評価されて、ノーベル文学賞も取られた方なんで、海外版だとすごい文が淡白になって、逆にそれも面白いなと思って。
文学者って存在じたいが大事なんかなと思ったり。そういうことも考えながら読んでます。

qbc:将来、どうしたいってありますか?

基:たぶん戻って、大学に。四年で卒業して、就職できると思うんですよ。
それもすごい、その想像が広すぎるというか。掃いて捨てるほど会社もあるんで。どうしよう、本当に考えてはないですね。今考えないようにしてるんですよ、あんまりそういうことは。だから、そういう他の文化に逃げてるのかな、というのはありますね。

qbc:休息して、良くなってきてます?

基:なってきてます。文化って逃げ道じゃないですか、現実世界からの。だから映画の世界に陶酔したり、アニメとか漫画に没頭したり。そういうのを今、意識的にやってんのかなと思いますね。

3、何もしない生活

qbc:カフカの「手紙」の話は知ってます? 凍った海の話。知ってる?

基:わからないです。

“要するに、僕たちは、僕たちを咬んだり刺したりする本だけを読むべきだと思う。
もし、読んでいる本が、脳天への一撃のように僕たちを揺すり起こすのでなければ、そもそも何故、わざわざそれを読むのか。君が言ったように、愉快な気分になるためか。
ああ、僕たちは、全く本がなくても、同程度に愉快であろうよ。必要とあらば、自分に向けて、愉快になれるような本を書いてやったらいいんだ。
僕たちが必要とするのは、非常に痛ましい不運のように、僕たちを打ちのめす本だ。自分よりも愛する人が死んだときのように。そう、まるで全く人の気配がない森に放逐されたように感じさせる本だ。自殺のように。
どんな本でも、僕たちの内の凍った海を砕く斧でなければならない。僕はそう信じている。
(フランツ・カフカがオスカー・ポラックに宛てた手紙より。日付には、1904年1月27日とある。)”

qbc:まさに、さっきの共感の話が出てるんですよね。「要するに僕たちは僕たちを噛んだり刺したりする本だけを読むべきだと思う」って。

基:さっき僕が言ったことと若干関連性がありますね。そのものか。

qbc:同じこと言ってるよね。私も共感を求める本とかはあんまり読まないわ。共感する必要とかないって思ってる。

基:映画とかの見出しでも、共感とかよく出るじゃないですか。そういうのがなんかつまんない。読者のためにわざわざカタルシスですとか。そういう必要ないじゃないですか。別に僕も、それを求めてるわけじゃない。

qbc:どんな気持ちになる? この共感社会にいてさ。

基:順応はできるんですよ、そこに対して。それはできるんですけど、別に。逆に何も思うこともないからですよね。だからこそ、つまらない。何も思わないんです。だからどうなんだってなるじゃないですか。

qbc:なるわいね。

基:ジャンプとか、そういう商品には共感は必要だと思うんですが。僕は「少年ジャンプ」大好きなんですよ。少年漫画としてのルールがあるじゃないですか。最近流行ってる「鬼滅の刃」とかもそうですけど。
でも、小説には、そういうのはいらないかなって。

qbc:基さんは、何をしていきたい人なんでしょうか?

基:ないんですよ、それが今。さっきも言ったんですけど、だからこそ、そういう何か、作品に逃げたりしてんのかなっていう。
現実逃避、どこか。生活に困ってるわけでもないし、何かこう、追われてる感じもないんで。

qbc:今のように何もしない生活っていうのは初めてですか?

基:初めてですね、

qbc:どうです?

基:自由すぎるのって、逆におぼつかないですね。宙に浮いてる感覚っていうか。

qbc:焦りは?

基:焦りが無いからこそ焦ってるみたいな。何も困ってることが無いので、それで今、そこが逆にどうなのかなっていうのがあります。
僕、世間体とかも気になってないんです。ある程度友達がいて、趣味があって、家族があって。十分じゃないですか。満たされてしまっているというか。
だから、何か欠陥があるのかって言われたら、無いような気もするんですよね。

qbc:うん。欠陥は無いよ。

基:欠陥無いですよね。なのに、社会の中にいなきゃいけないという、謎の焦りがあって。なぜその焦りできるかっていうのも、小さいころからの積み重ねがあってこそじゃないですか。
社会の授業とか受けて、政治のシステムとか知って、それが大前提っていうのを教えられてきたんで、そういうところから無意識にきてんのかなって思うんですけど。
働くことに、あんまり興味は無いんですよ。お金が無かったらもちろん働きますけど。だから、何かこう自分で面白いなって思えることでお金が稼げる術はないかなって思ってて。

qbc:お金も、そんなに困ってないでしょ?

基:今困ってないですけど、将来的にですよね、それは。やっぱりあの、今は親にもお世話になってるんで。それだけじゃ、やっぱダメだよねっていうのがあって、そうですね、そういうとこですね。

qbc:メチャメチャご両親に財産があって、ってこと?

基:正直な話、あるんですよ。すごい面白いなって思うのは、逆にそれってすごい閉じこめられちゃうっていうか、自分が一人で生きていってる方が自由を感じると思うんですよ。
親から潤沢な資産をもらって生きていくって、親ありきの自分になるわけじゃないですか。これが逆にすごい不自由で。
フランツ・カフカも親がすごいお金持ってて、生活には困ってなかったけど、何々をしなさい、何々をしなさいって、不自然な不自由に悩まされてるというか。今の僕も似たような感じかなと思ってて。

qbc:ご両親のお金持ちは、家賃収入とか?

基:いや、経営者なんですよ、父が。

qbc:でも会社経営ってさ、経営者がいてこそじゃない? だから、お父さまが亡くなったあとってどうなりそうなの?

基:ほんとそういうところなんですよ。正直、父が亡くなったあとも、自分は生活していけるんです、父のおかげで。家賃収入みたいのはあるんですよ。

qbc:不労収入は得られると。

基:そうなんです。そうなったら、逆に楽になるかもしれないですけど。それまでずっとこのままでいるっていうのも、やっぱおかしいなって思って。

qbc:おかしいなんて言ったら怒る人いっぱいいるよ。

基:いると思いますよ。実際に言われることもありますし。

qbc:お父さんはいつから経営されてるの?

基:僕が生まれて。

qbc:創業者?

基:そうですね。一代からなんで。

qbc:そうなんだ。

基:だから、僕は贅沢な人間なんですよ。

qbc:別に生まれは選べないし。

基:そういう人でも人並みの悩みを持つじゃないですか。どんな状況に置かれてる人でも。そこですよね、そこかなって。

4、小説を書くこと

qbc:基さんの落ち着きぶりだとか、書いておられる文章がしっかりしているところとか見てて、教育がしっかりしているんだなと思ってたんですよ。

基:親からは、大学行っといた方がいいんちゃう、みたいな感じで。僕、頭良くないんですよ。大学も面接なんですよね。、僕、勉強が大っ嫌いで。
当時、小学、中学時代も勉強に興味なんて無かったんで。国語の授業なんて、まったく聞いてないわけですよ。だから、どっちかっていったら、映画とか漫画のインプットが反映されてんのかなと思ってるんですよね、今書いてる小説も。

qbc:勉強ができるとかじゃなくて、テストの点が良いとかじゃなくて、物事を普通にゼロから考えているタイプの人だと思う。
あと時間が20分ちょっと。今、どんなことを考えていらっしゃいますか?

基:小説に、もうちょっとコメントがほしいんですよね。「いいね」とか。いろんな人から見てもらわないと何とも言えないんで。もうちょっとがんばろうかなとは思ってますね。

qbc:人生で何するのが一番楽しい?

基:生きようと思えばいくらでも生きれるんで、そのときやりたいことをやれればいいのかなと思ってますけど。それがベストだよなと思いながら、今はやる感じですかね。
正直な話、日ごろは何も考えてないんですよ。何をしてるときでもですけど。

qbc:考えなくてもいいって感じなのかな。

基:考えなくていい環境にいるんでしょうね、たぶん。正直、自分の周りの人で、僕が小説読んでるとか、映画好きとか、知ってる人全然いないんですよ。友達でも家族でも。
だからこそ何も考えなくていい。

qbc:なんか、やりたいこととかない?

基:とりあえずnoteでいろいろやってみたいですね。今書いてる小説の続きも書きたいです。一応、終わりまでは最初から見えてるんで。全部書き切ろうかなと思ってます。

qbc:小説を書くというのは、どういう楽しさなんですか。

基:僕の作品やと、タトゥーの話なんか、彫ったことが無いからこそ、痛みなんか分からないし、無限の想像ができるじゃないですか。変に角度のついた表現をしたりとか。そういうのをやっぱ、考えるの楽しいですね。

qbc:表現は面白いよね。でも全編凝った文章にしたらしたで疲れるし。どこに力点が置かれてんのかわからなくなっちゃったりね。

基:流れって大事ですよね。

qbc:緩急ね。大サビの前に。

基:いったんしゃがまないといけない。

qbc:そうそう。

基:そうですよね、欲望を抑えないといけない、表現思いついてしまっても、入れずにしまっておかなくちゃいけない。

qbc:表現寄りの人って、だからあまり長いの向かないんだよねって思うな。
でもすごいね、自分の頭で考えるっていうのが、できてる方ですよね。

基:ありがとうございます。

qbc:社長のご子息のインタビューは初めてでしたね。
資金があって、時間があって、考える力があるうちに、なんかやれたらいいのになって思いますね。小説以外にもね。

基:そうですね、恵まれてるなとは思うんですよ。

qbc:あんまり宣伝すると変な人が来ちゃうんだろうけどさ。

基:ああ、まあそうです。でも、そういうのってやっぱりわかります。昔からそうなんで、わかるんですよ。距離をおく方法も知ってます。

qbc:そういう人生に慣れてるというか。

基:人を見る目があるんですよ。
あと、自然に集まった中で培われるものが一番なのかなって。流れのまま、気づけばこうなったみたいなのが一番理想で。小説もそうなんですよ。あんまり構成とか考えてなくて。流れのまま書いて、うまいことできたらそのまま出そうみたいな。

qbc:私が19のときって、こんなちゃんと喋れなかったなあ。

基:それはもう、時代じゃないですか?

qbc:どうだろうか。
じゃあ、次に小説的にトライしたいテーマは?

基:いろいろ考えてるんですよ。部屋の中に閉じ込められてる話を無茶苦茶長く書いてやろうかなとか。

qbc:閉じこもってとかだと、アンリ・バルビュスの「地獄」とか。アパートに住んでて、隣の家の人をね、ずーっと覗き見するみたいな小説。あと安部公房「箱男」読んだ?

基:「箱男」大好きです。

qbc:私もすごい好きなのね。

基:初めて読んだのが「箱男」なんですよ。

qbc:「箱男」ってミステリとSFと。

基:サスペンス感もありますよね。

qbc:そそ。さっきから出てる「共感」を得るにはどうしたらいいかっていうときに、安部公房はサスペンスを持ってきたんだよね。
遠ざける異質さと共感、両方持たなきゃいかんて。浮浪者が段ボール箱被って覗き見をし続けるっていう気持ち悪いテーマと、書いている僕は誰っていうサスペンス。

基:そうですね。スキャンダラスに展開されていくじゃないですか。読ませ方もうまいなと思ってて。両方やってるのがすごいなって。

qbc:基さんには傍観者観ってあると思う。傍観者観って言い方変だけど。

基:第三者の目線っていうのは自分でも思うんですよ、なんか。自分何かされても、あるじゃないですか、生活の中で、いやなこと言われる。そのときも、あ、言われたなって感じ。全然響かないんです。

qbc:地上にいないんだよね。

基:ちょっと空中にいる感覚で。なんで俺、これ言われたんやろ、みたいなこと考えるタイプなんで。

qbc:「地獄」とか「箱男」の視点って、この世にいないんですよ。死後の世界って意味でもなくて、この世の中に立っているんですけれども、誰の視界にも入ってこない存在。

qbc:あと星新一かな。星新一は、お父さんが社長で、二十歳前後のときにお父さんが死んじゃったかなんかで、星新一が会社整理したんだってね。で、もう、人間にうんざりしたんだって。そこから作家になったんだよね。

基:作者の境遇知ったら、その作品もっと好きになるじゃないですか。作者の生活と重ねて、そこも面白いな。

qbc:なんか、最後に言い残したこととか、ある?

基:いや、ないですね。本当に楽しかったです。

qbc:私も、最初どんな風になんのかなって思ってたけど。

基:いや、僕も全然わからなかったんで。

qbc:やっぱ、わからないんだよね、私もね。今、あなたは人生楽しいの?

基:楽しいですね。楽しいときはやっぱり楽しいですけど、でもやっぱ寝る前とか、このインタビューで喋ったようなことを考えますね。
まあでも、先、無理に考えない方がいいのかなって思って。未来が考えたその通りだったとしても困るなあと思って。サプライズ感とかもある程度、必要なのかな。だからあんまり考えんでいいかなと思ってますね。考えやんようにしても、考えちゃうんですけど。

qbc:やっぱり面白いね、人間って。思考の慣性っていうのかな、あの止まらないあれね。常に意識は動き続けちゃうから難しいんだよね、コントロールがね。
じゃあ、そんなところでしょうかね。ありがとうございました。

基:こちらこそ、ありがとうございました。

あとがき

ってまあ、親戚とも縁遠いんで、親戚の集まりなんてほんとこの数年ないんだすけどね。ないんだすけど。だす。
と、いうことでお金持ちの息子さんというタイトルで、本人がインタビュー中に悩んでいるといったことそのものずばりのタイトルにしてしまっていますが、どうであったであろうか。
ちなみに、まあ、彼の小説は面白いから読んでもらいたい。つまり、今の現実の自分を持て余している人間が書く虚構とは、つまり彼自身が本当は現実の中で叫びあげたい生の声というものなのだ。それが、共感を呼ぶものというものを嫌うのも無理はないのではないか?
世間というものにすりあわせることを厭う一人の人間の声に耳をかたむけよと。

編集協力:有島緋ナさん

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