見出し画像

大学授業一歩前(第34講)

はじめに

「大学授業一歩前」も4月から運営を開始して、本日の投稿で第34講目になります。お忙しい中の作成して頂いた皆さま、そして記事を読んで頂いた皆さま本当にありがとうございます。今回は、出版社の笠間書院の編集長村尾雅彦様に記事を書いて頂きました。お忙しい中の作成ありがとうございました。

出版社の方が考える読書とは?

Q:読書とはどのような行為だとお考えになっていらっしゃいますか?

A:読書はひとつの「技」です。
 生まれ持った能力でもセンスでもありません。技ですから、技を有効に運用するための基本の「型」が必要になってきます。しっかりとした型ができていないと、それを基点とした読書生活における自由で有意義な飛躍と展開は望めません。
 読書を人生において豊かで実りのあるものにしたいのなら、手あたり次第に本を読むのも一つの手ですが、「読書とは何か」という基本の型を押さえた優れた読書論をまずは読むことをお勧めします。

オススメの本

Q:それでは基本の型を習得できる本を何冊か教えてください。

A:最初の読書論は、タイトルもズバリ『読書について』(小林秀雄 中央公論新社)。批評の神様と言われる小林秀雄の本です。
 小林秀雄は若い時には知識欲と好奇心に後押しされ、同時に何冊も読む「がむしゃらな」「濫読者」でした。「濫読者」の時期を持たなかったものは、後年、読書の本当の楽しみは分からないだろう、読書の最初の「技」は「濫読にあり」とまで断言しています。
泳げない人が泳ぐ前に四の五の御託を並べるより、とにかく水につかって手足を使って泳いでみなさいというアドバイスですね。
 一方小林はこれぞと思った作家が見つかったら、その作家の全集を読みなさいと諭します。一流な作家ならだれでもいい、好きな作家でもいい、その人の全集を、日記や手紙に至るまで隅から隅まで読め、そうすると「文は人なり」の意味が肚に入るのだと勧めます。
 一人の作家にゆっくりと寄り添い、性急に理解、判断するのではなく、著者自身が自らの姿を描き出すまでじっくりと「待つ勇気」をもつことを指摘します。読書に限らず現代人には「待つ」という忍耐に欠けて側面があるようです。
 人類の英知の蓄積である「古典」にはいくら読んでも不確定で不確実なモヤモヤとした「わからなさ」があります。私たちは「わからなさ」を前にすると、わかったふりをして足早に通り過ぎてゆくか、わからないのは古典のせいにして、これもまた、やり過ごしてしまいがちです。
 いずれにしても、「待つ勇気」「わからなさと対峙する忍耐」が欠如しているのです。小林はそういう、私たち誰にでも思い当たる現代人の腰の据わらない読書性向に警鐘を鳴らしているのです。

  2番目の読書論は『知的複眼思考法』(刈谷剛彦講談社プラスアルファ文庫)の一章です。
 知的複眼思考法とは、常識やステレオタイプ(紋切り型)の考え方にとらわれず、それらを相対化する視点を持つことで、情報を正確に読み取り、ものごとの論理の道筋が追うことができ、受け取った情報をもとに自分の論理をきちんと組み立てる力を得る方法論のことです。また、「正解はどこかに必ずあるもの」という前提を無批判に信じる「正解信仰」なるものを考え直す機会をもたらしてくれる思考法でもあります。
 では「知的複眼思考法」的な読書術とはどのようなものでしょう。
色々参考になることが書かれていますが、最も重要なこととして取り上げているのは、著者と対等の立場に立って「批判」的読書の大切さです。
「批判」といっても、攻撃的な非難という意味ではなく、著者の言うことを鵜呑みにせず、著者の思考の過程をきちんと吟味しながら読むことを指します。
 「どうして著者はここで、こんなことを書いているのか」「私だったらこう書くのに」「自分の考えとは違うな」「例外はないのか」「隠された前提はないのか」「根拠が弱い」「どこか無理があるな」などツッコミを入れながら読むのです。
 この本は読書法の他に「考えるための作文技術」や「問いの立てかたと展開のしかた」など大変参考になることが書かれているのでぜひ手に取ってください。

 3冊目は『14歳からの文章術』(小池陽慈 笠間書院)です。
「14歳から」と謳っていますが、著者の小池先生は河合塾の優秀な現代文講師だけあって、大学生から社会人まで、また、レポートから小論文、企画書まで、広い範囲で十分使える深い内容になっています。
 文章を書くことは本を読むことと関係なさそうですが、小池先生は「書くためには読むことが必要」「読むためには書くことが必要」というまさに「複眼的な」考えをお持ちなのです。ちゃんと読むためには、「自分ならこう書く」という視点が必要なのですね。

 最後は『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(三宅香帆 笠間書院)です。
 『カラマーゾフの兄弟』『ペスト』『金閣寺』『源氏物語』など普段「積ん読」候補の本たちが三宅さんの「読み方の魔法の杖」にかかると、ちゃんと面白く、目からウロコで分かりやすく読めるようになるのです。
 以上、読書の「型」と「技」を作る指南書4冊でした。

おわりに

 今回は笠間書院編集長の村尾雅彦様に記事を書いて頂きました。お忙しい中の作成ありがとうございました。

 出版社の方がオススメする本の読み方を知れる本を私も知ることができ、大変貴重な機会を頂きました。また、オススメの本でもご紹介して頂いている小池陽慈先生の著作を通じて、村尾様に記事を書いて頂くお願いが出来ました。改めて、村尾様並び小池先生にこの場を借りてお礼申し上げます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?