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2024関東大学ラグビー春季大会Bグループ:慶應義塾対立教を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
遂に新しい大学ラグビーのシーズンが始まりました

今回は4/21に行われた関東大学春季交流大会グループB、慶應義塾大学対立教大学の試合についてレビューをしていきたいと思います

まずはメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう


慶應義塾のアタック・ディフェンス

慶應義塾のアタックシステム

慶應義塾のラグビーの昨年度の特徴といえば、スピアーズに入団した山田選手の左足から繰り出されるハイパントに一気呵成に仕掛けて再獲得やプレッシャーをかけることを狙う、ハイボールをアタックの中核に置いたラグビーであったように思います
SHからのボックスキックも含めてハイボールが非常に多くなるラグビーをしていました

一方で今年の初戦となる今回の試合では、そこまで目立つようなハイボール型のラグビーは見られず、むしろ近年の流行とも言える階層構造をいくつか作り出すようなアタックを仕掛けていたのが印象的でしたね
特に印象に残ったのがセットピースからの1stフェイズの組み立て方で、12番の今野選手をポッドの先頭におき内側に位置していた10番の大川選手が移動してバックドアになることで、ポッドを変形させながら3人で階層構造を作るような形をとっていました

それ以外で目立ったシーンとしては「ポッド様のグループを作ること」を目標に定め、柔軟な組み立て方をしながら時にWTBの選手を9シェイプなどに動かすといった方策をとっていたことですね
特に順目といわれるような同一方向にアタックラインを設けるアタックの中でその傾向は顕著で、ラックに一番近い位置にWTBの選手を走りこませ、その横にFWの選手の2人並べることで擬似的なポッドのような集団を作っていたように思います

アタックラインは総じて深めの印象で、表裏をかなり意識しながらアタックしている事もあって反比例するように幅感は狭めでした
アタックの幅に関しては選手の配置で距離感を作るというよりかは飛ばすようなパスを使って一気に優位性を作り出せる相手との関係値・位置関係を創出していたように見えました

エッジからのアタックは10シェイプが起点になっているシーンが多く、回数的には9シェイプが多かったですが、戦略的なリズムを作るシーンでは10シェイプを用いていたような印象です
10番の大川選手が横方向の移動も切れ味がよく尚且つパスの捌きもリズミカルにできていたので、中央エリアをある程度こだわりながらアタックをすることを狙っていたのかもしれません

一方で10シェイプを構成する人数に関しては少し不安定感を見たのも事実で、先述したWTBの選手を組み込むことを前提としたポッド構成をしていた事もあるかと思いますが、時としてフロントラインとして1人のFWの選手が孤立してボールをもらっていたり、2人のFWでのキャリーに対して少し焦ったような印象で周囲の選手がサポートをしたりといった状況も見受けられたかと思います

あとシステム的な要素としては、2番の中山選手や8番の冨永選手のような強さと走力を兼ね備えた選手をエッジに置いているといった部分でしょうか
WTBの選手を外に置いてラインスピードを上げるといった方向性も見受けられましたが、時に上記の2選手を置くことでエッジ際でのコンタクトで優位性を出そうとしていた様子も見られました

選手として際立っていたのは12番今野選手と13番山本選手でしょうか
特に12番の今野選手は体格も整っていてコンタクトにも優位性を出すことができる上に、両選手ともに鋭いステップによる方向転換を組み込みながらアタックをすることができていたのが大きかったように思います
タテにもヨコにも勝負できるため、若干選手間のギャップにグラデーションのあった立教のディフェンスラインに対して効果的なランニングラインを狙うことができていました

慶應義塾のキャリー

キャリーとしては、あくまでも現段階の対立教というレベル感においてですが、互角よりは慶應義塾側に天秤の傾いたコンタクト水準を見せていたと思います
圧倒していたというほどではないですが、位置関係やスピードによる優位性を活かしながら慶應義塾の選手がうまくコンタクトで押し込んでいた印象です

回数としては96回のャリーが見られており、そのうちの30回が9シェイプ、10回が10シェイプでのキャリーとなっています
全体の4割強がポッド形式のアタックによるものであるといった感じですね
イメージ的には9シェイプはそこまで前に出ることに対する優先度をあげているような感覚はなく、リズムを作るために中央付近でラック形成を果たすために用いられていたような印象です

10シェイプは先述していたようにより戦術的な構成要素として用いられていたような印象で、9シェイプと比べてもより前に出ることを意識した用いられ方をしていたように見えました
リズムを作るために結果として9シェイプを用いる回数が多くなっていますが、戦術的な狙いとしては10シェイプを増やしたいのではないかと思えるような動きをしていたように思います

エリアとしてはエッジを使う傾向もある程度は見受けられ、96回のキャリーのうち、17回がエッジでのキャリーとなっています
対する中央エリアを使ったキャリーが15回となっていることを考えると、ポッドから離れたボールは少し外方向のベクトルを持ってアタックラインの中で展開されるようなイメージでしょうか
ブラインドサイドを積極的に使う様子はあまりなかったため、エッジを使うシーンの多くが逆サイドからの展開の結果になっていますね

キャリーの中ではキックリターンの領域では良いランニングコースを見せていた選手が多かったようにも思います
15番の伊吹選手が比較的多かったと思うのですが、立教のキック戦略やキック距離が中途半端だった事もあってチェイスラインが整備されておらず、そのために優れたランナーが揃っている慶應義塾のカウンターがある程度ハマった感じです

慶應義塾のパス

全体のパス回数としては170回ほどのパスが見られており、キャリー・パス比としては1:2に近いほどの比率を示しています
昨年度の厳格な記録はあまりないのであくまでもイメージ単位での話にはなりますが、今回1試合の傾向としてみると昨年度に比べるとボールを動かす意識が見られたということができるかと思います

試合を通じてラックからのボールは9シェイプへ35回、バックスラインへ23回供給されています
ここだけ見ると単純にバックスラインへの展開回数が少ないという見方もできますが、前後半に分けて考えると違う様相が見えてきます
前半は両パターンが15回ずつとなっており、後半は9シェイプへ20回・バックスラインへ8回というパターンを示しています
つまり、後半の方がより局地戦を挑んでいたということになりますね

このようになった結果はあくまでも推測レベルでしか捉えることはできませんが、ある見方としては「前半は表裏を含めたアタック位置を試していた」というように考えることができるかもしれません
意図的にこの回数になったわけではないと思いますが、結果としてHB団の判断は半分ずつとなっていることから、さまざまなアタッキングエリアを試していたという考え方もできるのではないかと思います

バックスラインへ渡ったボールは12回が10シェイプへと渡っており、残りのパスで30回のバックスライン内でのパスワークが生まれています
アタックの方向性として10シェイプを比較的好んでいた事もあって10シェイプの回数は比較的多い結果となっていますね
一方でバックスライン内でのパスワークが30回というのは全体のパス回数のの中では若干少なめの比率と捉えることができるので、極端に散らしていたというわけでもない、という見方もできるかもしれません

表裏の使い分けに関してみると、慶應義塾はある程度こだわりながら用いていたように感じています
アタックシステムの項で先述したようにBKだけで完結する階層構造を多く作る様相を呈していた事もあり、比較的多くのバックドアへのスイベルパスが生まれたようにも思っています
一定数を12番の今野選手といった器用な選手が担当していた事もあってバックドアを使ったアタックは一定の安定感を見せており、SO役の大川選手の動きのスムーズさと相まって効果的なアタックにつながっていたと思います

慶應義塾のディフェンス

タックル成功率は総合的に見ると88%オーバーと、非常に高水準の精度を誇っていたということができるかと思います
タックル数から鑑みても一定数はダブルタックルとしてコンタクトシーンを完結させる事もできており、ゲインラインバトルの面でも大きく前に出られるようなシーンはほとんどなかったように感じました

タックルシーンを一つ一つ見ていくと、どのタックルも慶應義塾らしい激しさと低さが際立つようなものとなっていて、ボディコントロールの面でそこまで高いレベル感を示していなかった立教のキャリアーに対して面白いくらいに刺さることができていたように見えました
単に肩を当てるだけではなく腕を絞って体を密着させるようなタックルも見せていたため、オフロードもある程度は防ぐことができていたと思います

一方で少し気になった点を挙げるとすればCTBの選手が結構強烈に前に出るといった点でしょうか
慶應義塾らしいと言えばその通りなのですが、前に出る勢いが強すぎて相手にうまくコミットすることができていないシーンも散見されており、その結果大きく前に出ることを許したりずらされて逆にチャンスを作り出されていたようなシーンも見られたように思います

立教のアタック・ディフェンス

立教のアタックシステム

システムという面で言及するのであれば、10シェイプをある程度好んで使う、そこまで複雑なシステムを用いずに現段階では個人レベルの戦いを挑んでるような動きが多かったと思います
言葉を選ばずに言えばそこまで緻密に整備されていたような印象があるわけではなく、少し場当たり的なプレー選択が多かったようにも見えました

特に渋い領域として「ポッドの位置関係が不安定」ということが挙げられるかと思います
一応は第一優先として9シェイプを組み立てるような様子は多く見られるのですが、そこに組み込まれていないFWの選手が少しフラフラしているように見えるというか、どこのエリアにいるべきかといったところがきっちりと規定されていなかったように感じました

ポッドが不安定な一方でアタックラインが素早く整備されているかというとそういった様子でもなく、アタックラインには過剰な深さがあったり、テンポと安定したセットのどちらを優先するかといった様子を見て撮ることはできませんでした
特にどのエリアをアタックするかといった領域でいわゆる「Same Page」をちゃんと見られていないような様子も見られ、仕方なくキャリーをしたようなシーンもあったように思います

キックの様相で見ても少し押し込まれているような印象が強く、距離や狙うエリア的に慶應義塾側のキッカーに上回られていたように見えました
強いプレッシャー下だったといった様子でもなかったので、むしろトレーニングで改善することができる要素でもあるとは思うので、チェイスラインの整備と合わせてこの辺りを手堅くしていく必要があるかもしれませんね

選手としては10番の中選手と15番の大畑選手が輝いていたように見えていて、ゲームコントロールといった点では両選手ともにさらなる向上の余地はあったかと思いますが、一プレイヤーとしては非常に優れたプレイングを見せていたと思います
2人ともステップのレベル感が高く、国内トップ水準の切れ味があるというわけではなかったですが、一歩で大きく体を動かすことができていたので相手の過剰に低いタックルを振り払うようなキャリーを見せていました

立教のキャリー

多くのシーンで押し込まれることが多い立教側のキャリーでしたが、「体を張る」といった最低水準のところで逃げているような選手はいなかったように思います
特に目立って体を張っていた印象がある選手としては1番の八代選手が挙げられ、とにかくコンタクトシーンで非常に積極的に体を張るようなプレイングを見せていて、相手を完全に押し込むようなコンタクトこそ少なかったものの、相撲の立ち合いのように厳しい戦いをきっちりと挑み続けていたような印象です

キャリー回数としては1試合を通じて88回といった回数になっています
回数的にはそこまで相手に圧倒されたという様子でもなく、ある程度は自分たちのボールとしてコントロールをすることができたといった感じでしょうか
前半は36回というキャリー回数に抑え込まれており、後述しますが全体的にはそこまでパスを介さずにキャリーに至っていたようにも見えました

ポッドを用いたキャリーとしては9シェイプで20回、10シェイプで6回のキャリーが生まれています
9シェイプは前半6回・後半14回という回数になっており、慶應義塾のような意識的な傾向の変化といった様子は見受けられず、うまくアタックを組み立てることができなかったが故の回数の変遷であるように感じました
10シェイプに関しては前後半で回数の変化はなかったので、意識的というよりかは流れの中で機を見て用いるといった形かもしれません

エリア的なアタックの傾向としては中央エリアで14回のキャリー、エッジエリアで11回のキャリーとなっており、重心は少し中央に寄っているように思いました
この結果に関しては意識的に中央エリアをガツガツ狙っているというより、相手のディフェンスのプレッシャーを受けた結果パスをすることのリスクが高まり、結果としてパスをせずに自分でキャリーする選択をして結果であるように見ています

前半に関しては回数的にはきっちりと決まった流れでキャリーが生まれていたようには見えず、少し場当たり的なキャリーが多かったようにも感じました
キックゲームの様相を呈していてそもそものキャリー数を稼ぐことができなかったという事もありますが、ポッドを用いたアタックがそこまで多くなかった事もその根拠となりうるかと思います

立教のパス

パス回数としては112回という数となっていることから、キャリー・パス比は3:4くらいの比率となっています
傾向的にはパス回数を抑えながらキャリーをしている感じですね
慶應義塾のガンガンボールを動かすアタックとは対照的に、安定をとったアタック傾向であるという事もできるかと思います

シンプルなパスワークが多かった事もあってミスやハンドリングエラーはそこまで多くはなく、むしろ慶應義塾の方が攻めたプレーでミスをしているような様子が見受けられましたね
アタックがシンプルな形に終始した結果、攻防は個人レベルでの戦いになってしまったということは否めないかと思います

ラックからのボールは19回が9シェイプ、26回がバックスラインへの供給となっています
10番の中選手がゲームをうまくコントロールできるタイプという事もあってか、中選手にある程度ボールを集めるような形でのアタックを構築しているようにも見えました
前半はバックスラインへの展開が、後半は9シェイプへの供給が多くなったことを鑑みると、中選手の展開力にどこまで頼るかといったところはまだ模索中かもしれませんね

バックスラインへ展開されたボールは8回が10シェイプへ、17回がバックスライン内でのパスワークとなっています
中選手がアタックの基軸になっている割には10シェイプが少ないといったイメージを抱きますね
アタック全体がシンプルで階層構造をこだわって作るような形でもないため、中選手よりも外側のラインはワンラインとして構築されていたようにも見えました

立教のディフェンス

大崩れするようなシーンはなかった一方で、シンプルなアタックに対しても完全に対応することができていなかった印象です
フェイズを重ねるようなアタックはある程度抑え切ることができていたようには見えましたが、少しボールが暴れたシーンやキックが起きたシーンのような「アンストラクチャー寄りの状況」になった瞬間集中力が切れて足が止まるような様相はあったように思いました

タックル成功率としては88%オーバーとかなりの高水準であり、少しコンタクト位置を動かすようなアタックを繰り出してきていた慶應義塾のアタック様相を鑑みると、かなり高評価を下すことができるような結果だったように思います
実際のタックルシーンを見てもきちんと体を当てこむことができていましたし、体を当てこんでいる限りでは前進を抑え込むことができていました

一方でモールディフェンスのようなセットピースのディフェンスシーンに不安定感があり、そのあたりでかなり前進、ないしはスコアを許していたような印象です
特にモールディフェンスに関していうと、全体的に割れていたような印象があり、慶應義塾のレベル感の高いモールにかなり押し込まれていました

まとめ

ついに始まった大学ラグビー新シーズン
春季大会は比較的普段出ないような選手にもスポットライトが当たるような大会だと思うので、春先だけでワクワクが止まらないですね

今回は以上になります
それではまた!

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