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2024関東大学ラグビー春季大会Bグループ:筑波対立教を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
夏のような陽気の中、いかがお過ごしでしょうか

今回は5/5に行われた関東大学ラグビー春季大会より、筑波大学対立教大学の試合についてレビューをしてこうと思います

それではメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう


筑波のアタック・ディフェンス

筑波のアタックシステム

昨年度から継続してSOには楢本選手が多く入っているため、9シェイプでリズムを整えながらもSOをうまく経由させた散らし気味のアタックをしている傾向にあるかと思います
楢本選手のゲームコントロール力は高く、昨年度に比べるとチームの目指す方向性と楢本選手のアタック傾向が噛み合ってきているようにも見えるので、荒削りですが面白いラグビーをすると感じています

今年度の筑波のラグビーはそれに合わせてSO役をこなすことができる選手が複数名メンバーに名前を連ねていることが特徴と言えるかもしれません
スターティングで言うと永山選手、リザーブで言うと井上選手や浅見選手もゲームをコントロールするような動きを果たすことができる選手でもあるので、イメージとしては起点自体をかなり散らすこともできるのではないかと見ています

特徴的なシーンとしてはゴール前からの脱出のシーンで、普通のラグビーをする上ではキッカーが深く下がっていることの多いエリアですが、筑波は永山選手を深い立ち位置に、楢本選手をアタックラインと同じ深さに配置していることが多かったように見えました
そのポジショニングによってアタックのオプションも切らずに残すことができますし、プレッシャーを緩和することができていたように思います

一方で「船頭役」が多かったように見えるシーンもあり、選択肢が増える一方でアタックの決め手にかけるようなシーンも散見されていたように思います
特に12番の大内田選手や13番の飯岡選手が交代した後に関して、キャリーを積み重ねて意図的に崩しを生み出していくような力強さは少し落ち着いて言ったようにも感じました

アタックの形の部分で言うと9シェイプの使い方や位置関係が少し独特な感じもありましたね
昨年度から自陣からの脱出シーンなどで9シェイプに4人の選手を置くことでラックの安定化を図るようなシーンは見受けられていましたが、今シーズンは中盤からゴール前にかけてでもアタックで4人以上のグルーピングをしているようなシーンが見られていたように思います

このようなFWのメンバーを効果的に使ったアタックの過程では SHの高橋選手のコントロールが非常にうまく、通常よりも多いグループでのキャリーを図る時は同じパスモーションで複数の位置に投げ分けたりと、相手にとっての意表をつくようなパスワークを見せていたように感じました
若干テンポのコントロールの部分でズレが生じていたような様相もありましたが、このあたりは後々修正を聞かせることができる領域ではあると思うので、まだまだ気にするところではないかもしれません

筑波のキャリー

昨年度キャプテンを務めていた谷山選手のような「強烈な個の力で場面を打開することのできる選手」は突出しては見られていませんが、両 CTBの大内田選手や飯岡選手がそれぞれの良さを生かしたキャリーを見せていたりと、中盤エリアでの打開策は今後見ることができそうな雰囲気を感じることができました

一方で総じてみるとコンタクトシチュエーションの軽さ、消極性があるようにも見受けられ、どういった戦略でコンタクトシーンで相手を上回っていくかと言った部分はそこまで明確には見えてこなかったように感じています
特に顕著だったのが9シェイプの部分で、前に出ようとする積極性がほとんど見られなかったというか、リズムを作ったり安定性を確保するためといった要素での活用シーンがほとんどだったように見えました

また、ポストコンタクトの部分での丁寧さにも欠いたような印象があり、地面に倒れた後のグラウンドワークやボールコントロールの部分でもう少しディテールは詰められるような気もしています
立教側がかなりラックを捨ててきていて、あまりラックに強烈で精度の高いプレッシャーを受けることのなかった今回の試合の中でもラックでの精度を欠いてミスが生まれていたようなシーンもあり、同じイメージを共有できていなかった雰囲気も感じたのが正直なところです

キャリーを種別で細かく見ていくと、9シェイプでのキャリーが25回、10シェイプでのキャリーが4回と、FWを用いたアタックの領域では圧倒的に9シェイプが多く用いられているということがわかります
先述したように筑波は現時点では9シェイプを使ったキャリーに攻撃性があまり見られておらず、かなりの回数のキャリーでアタックに落ち着きをもたらそうとしていると言うことができるかもしれません

一応は9シェイプに至るまでの部分でSHの高橋選手のパスの投げ分けなどによってキャリアーの選択肢を散らすことができているとは思いますが、実際のキャリーの場面で相手に容易なダブルタックルを許しているようなシーンも多く見られ、9シェイプで効果的な前進を図ることができたシーンはほとんどなかったのではないかと見ています

シェイプ外のキャリーを見ていくと、中央エリアで23回、エッジエリアで20回と、単純な回数で比較すると「型の決まったキャリー以外でのアタックが多い」と言う結果になっています
これは試合を見た印象にも通じる部分があり、筑波はきっちりと複数のポッド様式のグループを作ってアタックをするようなシーンがほとんど見られておらず、一連の流れの中でボールを受けた選手がキャリーをするといったシンプルな展開に落ち着いている印象です

筑波のパス

筑波のパスといえば昨年度から継続して見られている「とにかくボールを繋ぐアタック」が今年も特徴の一つとして挙げられるかと思いますが、今回の試合に限定して語ると、日大戦に比べるとかなりオフロードの精度も上がり、無駄な・無理な繋ぎは減ったように感じました
必要に応じてラックを作るといった落ち着いた様子も見受けられ、不要なエラーは減ったと見ています

一方でパスワーク自体は階層性を作りながらももう少し工夫の余地があるような様子も感じられ、深さが単調になっていたり、パスの長さと選手間の位置関係がチグハグになっているようなシーンも見られていたと思います
フロントドアに1人の選手を置き、裏にいる選手にスイベルパスで繋ぐというアタックの動きが立教には比較的ハマっていたと思いますが、表の選手がいないのに裏にポジショニングしたことで不要な深さが出てしまっていたり、無理にオーバーラップを生かそうとして浮き球でロングパスを放るシーンが見られていたりと、相手にとって対応が容易になりうるような動きも一部で見られていたように感じました

先述したようにパス精度は非常に高く、無理のないパスも少し攻めたパスもパス先の選手の勢いを殺さないようなパスをすることができていたのでアタックに勢いが生まれ、テンポに少しブレが生まれてもラインスピードで補うことのできる範囲でのスピード感のあるラグビーを徹底することができてたように見えました
SOの任を果たすことのできる選手も多く、パワーランナーを主に担当しているような選手も表裏のパスワークで精度高く参加することができていたのも良かったですね

パス回数を見ていくと、ラックからのパスアウトは30回が9シェイプへ、28回がバックスラインへと展開されており、かなりアタック位置や深さのバランスをとりながらアタックをすることができていたと言うことができるかと思います
多くのパスはFWの選手か楢本選手が受けていましたが、中盤や自陣深くでは15番の永山選手が1stレシーバーを担当したりと、負担をうまく分散させることもできていたように見えます

バックスラインへ展開されたパスは30回がバックスライン上でのパスワークとなっており、10シェイプと思われる形へのパスは6回と言う回数にとどまっています
これに合わせてBKの選手だけで完結する階層構造に伴うスイベルパスも複数回見られており、キャリー回数こそ中外のバランスが良いものの、少し外方向のアタックベクトルを持ちながらゲームを動かしていたようにも見えました

筑波のディフェンス

筑波のディフェンスは、タックル成功率も92.0%とかなりの高水準を示しており、ローに入るタックルを中心にある程度の精度が担保された状態でディフェンスシステムを構築することができていたかと思います
タックルの総数も170回を超える回数をこなしながら、疲労が溜まってくる時間帯までは非常にいいスキルを見せていました

一方でディフェンスラインの揃い方に関してはもう一段階レベル感を上げる余地はありそうな雰囲気もありました
全体で前に出る勢いを作り出すようなアップをしていて相手にかなりプレッシャーをかけることができている一方で、相手の選手の動きに対応した加減速が個人レベルでの調整にとどまっているために前後のギャップが比較的多く生まれてしまっているイメージです

平均値としてのディフェンスラインの構成としてはある程度の統一感は見られましたが、一つ隣の選手との位置関係に歪みが生まれていることもありました
そのため、ダブルタックルを狙いに行きたいシーンにおいてギャップがあるために短いスパンでのコンタクトを狙いにいくことができず、コンタクトのタイミングがズレることでディフェンスとしての数的優位性を活かすことができていないようなシーンも散見されました
階層性のある攻撃に弱い印象もありましたね

また、キックの蹴り合いに伴うエリアコントロールに関しても時間帯によっては後手に回っていたような印象です
特に後半は風下になったこともあって相手のキックがかなり伸びる状態になり、ノーバウンドでのコントロールには至っていませんでした
バックフィールドの隙間を狙われたり、バックフィールドと前がかりになったフロントラインとの間を狙われているシーンもありましたね

その中で輝きを見せていたのがリザーブから登場した井上選手で、佐賀工業でのラストイヤーは SHを務めていたと思いますが、 FBも経験してきたこともあって危機管理能力やプレースタイルがバックフィールドを押さえるのに適しているように見えました
大外まで相手がパスを回した時の前に出るスピードやタイミング、バックフィールドでの位置どりも含めて、昨シーズンの筑波にはないカードの切り方をすることができるようになる選手の一人だと思います

立教のアタック・ディフェンス

立教のアタックシステム

システム的な話をするなら、立教のラグビーは「9シェイプを中核とした発展途上のラグビー」という言い方をすることができるかもしれません
春という季節柄もあって全体的に精度を欠いてしまったようなアタックに終始し、イマイチ狙いをうまく見て取ることが出来なかった印象です

後述しますが傾向としては9シェイプがアタックの中でもかなりの比重を占めており、安定させるためだけではなく打開の役割も担っているように見えました
 SHに入っていた伊藤選手のコントロールもかなり落ち着いていたので、おそらくイメージを作っていたであろう9シェイプ中心のフェイズの組み立てというのは出来ていたように思います

一方で9シェイプ以外のアタックの部分ではうまくいかない時間が多かったり、「どこで崩すか」といった戦略的狙いはあまり見えてこなかったようにも感じます
全体的にアタックも単発的で、一つのフェイズの中でアタックに関わって動き出す人数はそう多くはなかったのではないかと思います
ラックからのパスアウトの時点で動き出しているのが9シェイプに関わる人間だけだったり、前のラックに参加していた選手は下がりながら次のポジショニングに移動していたりと、少ない人数でどうにかしようとしていたということもできるかもしれません

ただ、パスをうまく積み重ねられるようになると筑波の少し寄りがちなディフェンスに対して外側のエリアで優位性を作り出すことができるようになっており、特にバックドアに入る選手がパサーの後ろから外に膨らむように移動しながらスイベルパスを受けるようなムーブがうまく効いていたように思います
筑波の前方向に強烈なベクトルを持つディフェンスの上がりを逆手に取った動きといった感じですね

また、それ以外の目立つ部分としてはラックへの参加人数があり、少し無駄に人数をかけすぎているようなラックも散見されていたように思います
筑波はある程度プレッシャーをかけるところを絞りながらブレイクダウンの勝負をしていたのですが、立教がそれに対して過剰な反応をして「1人でも完結できるのに3人かけてしまっている」シーンなど、不要な選手もラックにコミットしてしまっている時もありました

自陣での方針に関しても、一観客として見てる範囲では不透明な部分があったように感じていて、特に「どこから」「いつ」「誰が」蹴り出すのかが不透明なまま自陣でラックを重ね、結果的にターンオーバーをされてしまうシーンもありました
もちろん得点差といった要素もあるかとは思いますが、少しこの辺りの戦略を練りきれていなかったような印象を受けました

セットピースに関しては、筑波が苦手としている領域ということもあって全体的にかなり安定しており、何度か反則を重ねてしまったものの、比較的優位性を保ったままフローを続けることはできていたような印象です
ペナルティでエリアを確保した後のアタックに関しては制度に難がある部分も見られましたが、シーズンの深まりに合わせて精度が上がっていく部分でもあると思うので、ここからが楽しみになる要素でもあります

立教のキャリー

キャリーとしては特別強烈な選手はいなかったものの、筑波側のディフェンスとうまく1対1を作ることが出来ていたようなシーンでは、ある程度の水準で差し込むことが出来ていたように思います
キャリー姿勢も少しロー気味で、頭を下げているという注意点はありますが、あおられるような姿勢でコンタクトに挑むようなシーンが少なかったため、若干の前進を図ることが出来たシーンも多かったように見えました

全体的にキャリーのフローはシンプルなために選択肢の複雑さが求められず、キャリアーがコンタクトに集中できるという状況が多かったように見えます
あえて一家言を述べるとするならば、もう少しスピード感を上げていきたいところではないかと思っています
そこまでプレッシャーを受けていないような状況でも前に出るベクトルが控えめなキャリーをしていたようなシーンもあったと思うので、少し方向性は変えることができるかもしれません

ただ、後半にかけてラックの近くをうまく攻略できるようになったような様相があり、特に交代で入った18番の石原選手がアングルのコントロールやスピード感の部分でうまく前に出ることが出来ていたように思います
 SH役の伊藤選手や川畑選手も若干の持ち出しを絡めることでラック際の相手ディフェンスを自分にコミットさせることに成功しており、そこで1対1のコンタクトシーンを重ねながらオフロードで前進を図るシーンはかなりハマっていたように見えました

キャリーの回数を見ると全体で110回のキャリーをしていることが測定されています
筑波が1試合を通じて93回のキャリーにとどまっているにも関わらず60点強の点差が生まれていることから、立教はかなりスコア効率が悪いということが言えるかと思います

敵陣22m内のシーンも何度か見られているのですが、最終的にトライにはつながってはいるもののフェイズをかなり重ねる結果となっており、疲労の要素を避けられなかったり効率的なアタックにはつながっていないように見えました各フェイズで大きくゲインをすることが出来ているようなシーンもそう多くはなく、偶発的に生まれたギャップを何とかものにしているような印象が拭えませんでした

キャリー回数を細かく見ると9シェイプでのキャリーが34回となっていて最も多く、ついでシェイプ外 - エッジエリアでのキャリーが多くなっています
傾向としてはアタックシステムの部分でも述べたように9シェイプをかなり意識的に中核においており、試合様相を反映するように外側のチャンスをある程度はうまく活用できていた様子を示しているかと思います

立教のパス

立教のパスも筑波と似たような水準でのプレーが多かったように思います
オフロードもある程度は効果的なシーンがありましたし、相手の勢いを大きく殺すような「ハマっていない」パスもあまり多くはなかったように感じています
一方でキャリー・パス比は11:15弱とパスに対してキャリーの比率が多いということが見て取れるかと思いますこれは9シェイプの多さを反映したものでもありますが、それと同時に「意図しないパスの積み重ねが多かった」ということの証左でもあるかと思います

ラックから9シェイプへのパスは44回、バックスラインへのパスワークは35回となっています
意図的にこの比率に持ち込んでいるのであればもう少しキャリー・パス比もパスに重心のある数値を示すことになるかと思いますが、実際はそうなっておらず、「シェイプから外れたパスでもパスを重ねずキャリーに持ち込まれている」という状況が見て取れるかと思います

後半にかけてSOを経由したアタックが増えたこともあってか10シェイプへのパスは9回となっていますね
とはいえ10シェイプで打開することが出来ていたかというとそういうこともなかったように思うので、現段階ではまだ「決められた位置にパスを放るだけ」のような形になっている状態かと思います

パス全体で147回となっている一方でバックスライン内でのパスワークは22回にとどまっており、大きく幅を使うようなシーンはそう多くなかった印象です
一応スイベルパスや選手の移動を絡めた階層構造を使ったアタックが要所で見られてはいましたが、幅感の部分ではそこまでのこだわりは見られなかったように思います

立教のディフェンス

タックル成功率自体が80%を切ることはありませんでしたが、クリアにラインブレイクをされるようなシーンも多く、ミスタックルの勢いのまま相手にスコアをされるようなシーンが多かったようにも感じました
筑波の選手は全体的に走力に優れていて、一度裏を取ることができれば最後まで取り切ることができる選手が揃っていることもあって一度のシークエンスで何度もミスが重なることのないようなフローをしています

相手の芯に対してうまく正対できたシーンや相手が安定を図るようなキャリーをしてきた時はうまく対応することが出来ているシーンが多く、ダブルタックルやロータックルで押さえることが出来ていたように見えます
一方で戦略的・戦術的要素を絡めたアタックをされるとかなり苦労しているような印象で、特に筑波がかなり意識していた「タテに切るアタック」に関してはかなりやり込められていたように感じました

ディフェンスの傾向としてはそもそもが流しめで外重心のディフェンスをしており、ある程度は流すことが前提のポジショニングをしていることから中央に寄せるような動きに対して脆弱性があり、前半途中から筑波側のアタックがかなりタテるようになってから崩されるようなシーンが増えていったように思います

ディフェンスライン自体は整備に努めていたような印象ですが、相手のテンポが早まるにつれて個人の判断で動き出してしまうようなシーンもあり、前後のギャップや位置関係で優位に立たれて崩されていました
横方向の距離感にも統一感がなく、塊で動いているような側面もあるので一度の長いボールの動きで振り切られるような状況もあったかと思います

まとめ

今回の試合では実際に筑波大学のグラウンドにお邪魔して現地観戦をすることが出来ました
昨シーズン分析した試合の多くがテレビ観戦にとどまっていてこともあり、非常に有意義な経験をすることが出来たと思います

両チームともにまだ何試合か春季大会は続くと思うので、これからもきっちりと追っていきたいと思います

今回は以上になります
それではまた!

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