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2024関東大学ラグビー春季大会Aグループ:明治対早稲田を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
雨天の中、諸試合の観戦お疲れ様でした

今回は6/2に行われた関東大学ラグビー春季大会Aグループ、明治大学対早稲田大学の試合についてレビューをしていこうと思います

まずはメンバー表から

次にスタッツです

それでは順番に見ていきましょう


明治のアタック・ディフェンス

明治のアタックシステム

回数に関しては後ほど詳説をしますが、昨シーズンに比べると「9シェイプに対する戦略的ウェイト」が大きくなっていることを感じさせるようなアタックをしている感じです
BK周辺を使ったアタックに関しては若干個人主義になって脅威が減り、FWでどれくらい前に出ることができるかといった点に重きが置かれているように感じました

特に大きくゲインを切った後のアタックが特徴的で、ポッドをきっちり構築する前に判断の良いFWの選手がラックに近いエリアに向かって走り込んでくるようなシーンが多かったですね
一方でゲインの次のフェイズに外側のエリアを使ったアタックの選択肢が見えてこない様相もあり、SHの選手の判断基準も「どこが空いているか」よりも「どこに強い選手がいるか・走り込んでいるか」を優先しているような雰囲気もあったように思います

また、昨シーズンから選手構成が大きく変わった組み合わせとしてはHB団が挙げられるかと思いますが、SO周りのプレースタイルはかなり大きく変わった部分かと思います
昨シーズンゲームメイクを担っていたSH萩原選手・SO伊藤選手・CTB廣瀬選手・FB池戸選手といった選手が抜けたことでSOに近いエリアでのアタックの脅威度が減り、ラックから近いエリアでの力技以外の打開がうまくいっていないような印象を受けました

萩井選手のボールの散らし方やボールの受ける位置は世代トップ水準のうまさがあるかとは思いますが、ボールを受けるときの「自分で生み出すモーメンタム」は伊藤選手に比べると少し背中を追っているような感じで、少し後ろ重心であまり前に出ずにボールを受けているように感じます
ゲインを大きく切った後の選択肢は少しFW優先で意思決定をされている節もあり、萩井選手が勢いを出すようなレベル感までは至っていなかったように見えました

基本的なテンポに関しては昨シーズンの速さを大まかには受け継いだような形で、柴田選手も登根選手もかなり意識的に速さを上げる方向性で動かしているようなイメージです
ラックへサポートに入った選手が綺麗にボールを越え切る位置まで前に出るのでボールをクリーンに出すことができ、キャリアーが少しの時間タックルを耐えることができるのでサポートもしっかり間に合うような形でアタックが展開されていました

ゲームのコントロールに関しては10番萩井選手と15番為房選手が位置をコントロールしながら対応し、時折12番の蓬田選手などCTBの選手が繋ぎとしてラックとポッドを繋ぐような形でのアタックを組み上げています
1stレシーバーに毎回SOが入るというわけではなく、最初はCTBの選手が受けて動的階層構造を作りながら裏で萩井選手がボールを受けるといった形でのフローも何回か見られたように思います

一方で階層構造に複雑性はあまり見られず、単層でパスワークを入れた後はシングルラインで外展開を図るような形が多かったように見えました
萩井選手が1stレシーバーになった場合はポッドでフェイズが完結することが多く、萩井選手が裏に入る単層構造の場合は外まで展開することが多かったように感じます

アタックライン内の繋ぎは一人一人が細かく繋いでいくというよりかはゲームメイカーから大きく外に一つのパスで動かすようなシーンが多く、スペースをある程度意識に入れたゲームメイクをしているのかもしれません
ただ、早稲田の外側のディフェンスが少し重心を下げながら対応していたので外で突き崩すことができず、明確なチャンスに繋げることはできていなかったようにも見えました

キック処理の部分では萩井選手と為房選手が主に後ろを張っているようなシーンが多く、敵陣深くが起点になったキックを受ける時は両WTBが後ろに下がりながらポジショニングをすることでキック処理時点で4人が後方に下がっているような状況を作っています
ただ、全体的な位置関係としては少し深めのポジショニングをしている傾向があり、早稲田側の浅めのキックに少し動きを崩されるようなシーンも散見されたかと思います

明治のキャリー

明治のキャリーは特にFWの選手が強烈であり、コンタクトシーンで相手に押し勝つことができることが明治のキャリアーの強みになってくると思います
一方で今回の試合の中では相手のダブルタックルに手堅く動きを抑え切られたようなシーンも散見されており、アタックの前提条件と思われる「FWで前に出る」部分で圧倒できていなかったように見えました

FW選手は誰しもが強いキャリアーとなっていますが、今回の試合では利川選手がかなり気を吐くようなプレーを見せていたと思います
体の強さがあるので姿勢を完全に作り切らなくても相手を弾くことができ、相手のタックルに対してほとんど姿勢を崩すことがないので確実に前に出ることができていました
ただ、今回は早稲田側の「タックルを弾かれた後の周囲のサポート」が速かったこともあって、弾いた後に大きくゲインを切るといったチャンスメイクには至っていなかったように感じます

キャリーの一つ一つを見ていくと、特にFWのキャリー場面で相手のタックルに対して倒れずに姿勢をコントロールすることができているシーンが多く、サポートがより一層間に合いやすい状況になっていました
一方で相手の低いタックルや一発で倒し切るタックルを受けた時はサポートが少し薄くなっていたような様相もあるので、「サポートが間に合う」という前提が崩れたシーンではどうなるかは少しわからない部分がありますね

キャリー回数としては試合全体を通じて85回となっており、比較的平均的な数値ということができるかもしれません
早稲田側が76回ということを考えると少しポゼッション的には上回っていたと言えるかと思いますが、全体的にスコアを取り切ることができるようなキャリーが少なく、リズムを作り出すような9シェイプが多かったこともあり、必ずしも効果的なアタックにはつながっていなかったように見えました

細かい回数を見ていくと、9シェイプが33回、10シェイプが8回となっており、シェイプを用いたアタックでキャリー全体の約半数を占めているということができます
10シェイプが一定数見られていますが、攻撃的に用いられているようなシーンはそこまで多くはなく、キックオフレシーブや中盤で場を安定させるために使われているシーンが多かったように思います
この辺りも昨シーズンとの違いが見られている感じですね

シェイプ外のキャリーでは中央エリアで8回、エッジエリアで17回のキャリーが見られており、後半だけで13回のエッジエリアでのキャリーが生まれています
後半にかけて秋濱選手や安田選手といった「外で勝負できる選手」の構成比が増えたこともあり、少しずつ外でのキャリーが増えていったのではないかと予想することができるかと思います

明治のパス

今回の試合の中での明治のパスは雨天ということもあってか全体的に距離の短いパスが多く、特にSO周りのパスワークはかなり狭いエリアでボールが動いていたように思います
SOと10シェイプの位置がかなり近く、ボールを動かすことを担っている選手間の距離はそう遠くはなかったですね

表裏を投げ分けるようなパスはそう多くはなく、バックドアへの投げ分けも少なかったように感じています
バックドアへのスイベルパスもそこまで飛び抜けて精度が良かったわけでもないので、そこまでこだわって固めていないような印象も受けました

パス自体は試合通じて113回となっており、平均的な数値でもある2:3に比べると少しキャリーの比率が大きいといった感じになりますね
9シェイプをかなり好んで用いているような形が多く見られたので結果的にパス回数が減り、それに併せて早稲田のプレッシャーを受けてパス回数を刻む前にタックルを受けていたシーンも影響しているかと思います

ラックからのボールは33回が9シェイプへ、20回がバックスラインへと回っており、多くがFWが先行したパスワークをしていることがわかるかと思います
ただ、その9シェイプを多く用いたアタックが効果的に働いていたわけではないので、この辺りの比率に関しては少し傾向が変わっていく可能性も十分にあるかと思います

バックスラインへと回ったボールは8回が10シェイプへ、13回がバックスライン上でのパスワークとなっており、あまりバックスライン上でボールが動いていないことが見て取れます
相手のディフェンス精度にも押されて外に回し切る前にプレッシャーを受けたという要素や、狭いエリアでのワンパスでのキャリーが多かったことも影響しているかと思います

明治のディフェンス

体の強さを活かした相手を押さえ込むようなディフェンスが明治の強みかと思いますが、今回の試合では少し一人一人のブレがあったというか、ライン上の位置関係にブレがあったように感じました
相手の位置にうまくコミットできればきっちり抑えることができていたと思いますが、少し立ち位置がずれていて相手の攻勢を受けてしまった様相もあったかと思います

特にディフェンスのスタイルとしてはマンツーマン気味に相手とコミットしていて、横の選手同士の連動がそこまで良くないためにパスを終えた選手のノミネートをうまく外すことができなかったり、隣で起きたコンタクトに対して反応ができずにダブルタックルで挟むことができていないシーンが多かったように思います
スピードの調整もうまく効いていないシーンもあって、前後のギャップが生まれるシーンも散見されています

タックル成功率としては88%オーバーと非常に高い水準を見せており、レンジに入った選手に対しては高いレベルで倒し切ることに成功していたと思います
雨天の影響で足元に安定感がなかったとは思いますが、その中で精度の高いタックルを見せていたのは非常に好印象でした

早稲田のアタック・ディフェンス

早稲田のアタックシステム

早稲田はここ何試合か見ていった結果、昨シーズンのような3人のSOを随所に動かしながらアタックライン全体を整えるといったスタイルから少し転換したような様相を見せており、10・12をゲームメイカーとして10起点のアタックを増やすようなシステムを見せていると思います
昨シーズンまでSOに入ることが多かった久富選手は卒業したことでいませんが、野中選手がうまく場を動かしていることもあってかなり効果的なゲーム運びをすることができていると思います

ポッドを中核としたゲーム運びとしてはFWの選手の対応力が高いためにさまざまな位置でポッドを作ることに成功しており、2人のポッド構成になったとしても隣のポッドの選手や裏のCTBの選手がサポートに入る体制が整っているように見えました
特に2番の佐藤選手は9シェイプに入ることが多いですが器用さを備えており、キャリーの強さと裏との繋ぎも対応できる万能性があるのが強いですね

また、明治と比べると動的な階層構造の構築がうまくいっているようにも見えていました
どの選手も階層構造を作る上での距離感や位置関係の構築がうまく、大きなパスミスがない限りはかなりいい形でアタックフェイズを進めていくことができていたように思います

エッジに入っていた清選手や鈴木選手の走力をはじめとするアタック能力が高いこともあってエッジで崩すことができる選択肢を備えていたのも大きいように思っていて、ディフェンスで中途半端な仕掛けかたが多くなっていた明治のディフェンスに対してうまくプレッシャーをかけることができていたように思います
森田選手や金子選手、繋ぎとしてラインに参加していた池本選手はパスワークにも長けているのでライン展開もかなり効果的にすることができていたように感じました

目立っていた選手としては今回の試合で再度メンバー入りした松沼選手が挙げられるかと思います
昨シーズンから活躍していて体の強さが売りになっているような選手かと思いますが、今回の試合では体の強さと走力を兼ね備えた選手としての側面を見せており、アタック面での貢献度はかなり大きいのではないかと思います

今回の試合で最も効果的だった要素としてはスクラムの安定性が何よりも上げられる要素であると思っています
細かいスキルのところに関しては知識がないので割愛しますが、スクラム起点のペナルティの多くが効果的なアウトカムにつながっており、FW戦を得意としている明治に対してFW戦で優位に立つことができていたのは試合展開の上でかなり重要な要素になっていたと思います

早稲田のキャリー

明治の方が若干キャリー単体の強さはあったかと思いますが、後述するパスワークの妙があることによって全体的な前進効率に関しては早稲田が上回っていた要素もあったかと思います
狭い領域での位置的な優位性を取ることに長けている選手が多く、少しのズレを活かした前進を図ることができていたように見えました

先述した松沼選手もかなり効いていましたが、キャリー単体で見ると2番の佐藤選手も貢献度がかなり大きかったと思います
パスのうまさもさることながら単純な走力や倒されない強さも兼ね備えており、キャリアーとして求められる能力値の多くが高い水準でまとまっているかと思います

キャリー回数としては76回という数値を示しており、明治よりは少ないキャリー回数となっています
その中で5回のトライを産んでいることから、比較的スコア効率は良い方かとは思いますが、ハンドリングエラーでビッグチャンスを逸しているようなシーンも散見されていたため、少し損はしていたようにも見えました

9シェイプは22回、10シェイプは4回の使用回数となっており、普段の試合展開に比べると10シェイプが少し少ないような印象です
SOの動かしかたはそう大きく変わっていない印象ですが、中盤での攻撃を担っていた選手が変わったことによってチャンスメイクをするエリアが変わっているような印象で、9シェイプを中核とした手堅いゲームメイクをしているような印象も受けています

シェイプ外のキャリーは17回が中央エリアで、10回がエッジエリアでのキャリーとなっています
外側に行くほどうまくチャンスを作れるような選手が揃ってはきますが、うまく回しきれなかったりする影響もあってコンタクトエリアが若干中央寄りになっているような要素もあるかと思います

早稲田のパス

昨シーズンのパスワークに比べるとスイベルパスのような裏のラインとの繋ぎをするパスの回数が減ったような印象を受けていて、全体的にシンプルなアタックをしているような様相はあったかと思います
表裏の使い分けがなくなったわけではないですが、裏を使うときはポッドを経由せずに、ポッドを壁のように使ってアタックを繰り広げるような様相が多かったように感じました

パスワーク自体は一人一人の距離が出るのでライン全体の幅館が広く、狭く前に出てくる明治のディフェンスラインにうまく対応できていたようにも見えました
「パスをしない判断」の精度も高く、相手のディフェンスラインのずれをうまく活かしながらアタックしていたように思います

パス回数自体は試合全体を通じて104回となっており、キャリー・パス比は比較的2:3に近い数値になっているかと思います
試合を見ている感じでも明治よりはパス比率が多いように感じていて、外展開も明治に比べるとうまくいっていたように見えました

ラックからのパスワークは9シェイプに23回、バックスラインに15回となっており、傾向的には9シェイプに多く供給している形になっています
今回は実際に9シェイプからかなりの割合でいいテンポにすることができていたようにも見えるので比較的納得の形かと思います
9シェイプ内でのパスも適宜生まれていて、うまくずらすこともできていました

バックスラインに回ったボールは4回が10シェイプへの供給、17回がバックスライン上でのパスワークになっています
試合様相の割には外展開が多くはなかったような印象で、バックスライン内での展開も多くはなかったですね
普段の試合展開であればラインに混ざったFWの選手が展開を手助けするような形もありましたが、今回の試合では自分のポジションを手堅く押さえる形ですね

早稲田のディフェンス

早稲田のタックル成功率は89%オーバーと明治と並んでかなり高い水準を示しており、明治のアタックをきっちりと押さえ込んでいる様相があったかと思います
取られたトライはイレギュラーなシーンやシンプルなフィジカルバトルの結果が多く、ディフェンスシステムが崩れたようなシーンはほとんどなかったように感じました

ディフェンスの形としては9シェイプの前がかなり堅く、外に行くほど少し流すような動きを交えながら外を手堅く押さえるような形をしています
エッジで相手側にできた数的優位性をエッジを押さえている選手がうまく流しながら押さえることで致命傷になることを避けており、そもそもエッジを狙われる回数が少ないこともあって穴を押さえ込んでいました

相手のパスをする動きに合わせて波のように後ろから次の選手が湧き出るようなディフェンスをしているので、連動性により相手の細かいパスワークにもうまく対応することができていて、波のような動きで対応する感じです
明治のアタックは階層構造を使ったとしても角度差がそこまで大きくなく、すれ違いを生むことができるようなシーンが少なかったこともあってかなり効果的にディフェンスをすることができていたと思います

まとめ

今回の試合はかなり雨が強いこともあってハンドリングに難があったかと思いますが、ハンドリングエラーは環境に反して極めて少なく、お互いの意図が見えるいい試合だったように思います

セットピースの安定感が遠因になったような試合展開でしたが、それ以外の要素に関しても手探りのように見えるシーンもあり、これからの試合にまだまだ楽しみを残す結果となりました

今回は以上となります
それではまた!

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