奇跡の本屋をつくりたい
奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの
久住邦晴、中島岳志(解説)・ミシマ社
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かつて札幌にあり、70年の営業を続けていたものの、2015年に惜しまれつつも閉店となった本屋さんと、その店主さんの物語です。…物語て言っちゃいけないかな…基本的には店主の筆で書かれた個人経営の本屋さんの悪戦苦闘の日々の記録なのですが、あの、後述もするんですけれども、こちらの御本の執筆中に店主の久住邦晴さんは多くの志が半ばな中で亡くなられてしまわれまして…。
解説の中島岳志さんという方は多くの著作のある学者さんで、生前の久住さんと交流があったご縁でこちらの本の発行までをサポートなさった模様ですね。
わたし、こういったnoteを日々ちまちまと書き始めたのこそ最近なんですが、子供の頃から漫画や本が好きなんですよ。電子書籍を利用するようになっても紙の本もぱかすか買いまくり、休みはおろか平日の仕事の後にも電車に乗ってよその駅の本屋にも足を伸ばす始末なんです。好きなように買えるような甲斐性がついたのこそ比較的最近ではありますが、やりくりしながらあれこれ買っては読んで、を40年以上続けている次第です。
先日紹介した「絶景本棚」の本棚の主の方々
…ほどの頑張りは見せられないものの、まあ、本屋さんには多めにお世話になっているとは言えるぐらいじゃないかなと思っております。
ので、こちらに載っているお話、もう本当に心が痛くてね…個人店の本屋さんの経営の厳しさ、利益の薄さ、運営の難しさ…
そんな中でも本屋の灯火を消さないために、子どもたちのために、地域のために、と奮闘する姿、敬意しか払えません。
どうしてもチェーン店や巨大売り場にわくわくしてしまうのですが、もっと個人のお店も回ってみよう…古本屋さんとかもさ…
元々親御さんの代からの本屋さんだった久住さん、その頃からすでに大きな赤字が出ていて、久住さんが受け継いだ時にはすでに借金を返済するのも厳しい状態。その上、最寄り駅が線の最終駅から途中駅になってしまい、人通りが激減することで売上もさらに大きく減ってしまいます。
さらに追い打ちをかけるように息子さんが病気となり身罷られ…冒頭20ページですでに相当辛いです…。
久住さん、ここで一度は店を畳む決心をされたものの、
「ここで店を閉めたら、まわりには「息子さんを亡くされて力を落としたから閉めたんだ」と思われてしまう。」
と考え、「絶対に息子のせいにさせるわけにはいかない」と、本屋を続ける決心をされるんですね。
そこからはもうとにかく企画を立てては実行し、試行錯誤を重ねる日々とその記録が続きます。久住さんが行われた「売れない文庫フェア」は、当時あちこちで話題に取り上げられていた覚えがあるので、かなり耳目を集めた企画だったんですよね。
さらには店頭での朗読会や、「中学生はこれを読め!」の企画(後に高校生や小学生にも発展)、カフェの併設や古本の取り入れなどなど…
その中で、ああ…奥様まで、ご病気になってしまわれてね…
記述こそ短いものの、手術、再発、手術、再発、再発、再発…
最後にはもう治療は嫌だと、お二人での時間を多くつくる半年を過ごされて、そのまま…
私のような単なる一読者が言える感想なんてありきたりな言葉しかないんですが、こんな過酷な状況で、それでも久住さんを動かす力の源は一体なんだったんだろうと考えずにはおれません。資金繰りの困難さから寄付集めやクラウドファンディングの開始、借り入れへの奔走…
それらのお金を元に、学生向けの棚を新設し始めた、という記述が途中になっているのを最後に原稿は終わり、久住さんが永眠された記述のページ。
壮絶としか言えません。この方に深い敬意を表します。
本の原稿が途中になってしまったこともあるため、解説の中島岳志先生が長めの解説文を。その後ろに講演会の草稿が2回分、表題の「奇跡の本屋を作りたい」という企画を書いた未発表ブログ記事の草稿1本。
あとがきはこの本のおまとめをし、発行までの道筋をつけてくださった久住さんの娘さんの挨拶文。一冊の記録として残してくださって本当にありがたいことです。知れてよかった歴史でした。
本文に、「本屋のないところで子育てをしたくない」とお話してくれた若いお母さんの言葉が掲載されているのですが、少し冷たい言い方をしてしまうと、利用する側って気軽にこの言葉を言えてしまうんですよね。気軽って言葉だと少し意地悪すぎちゃいますけれど、その希望を叶える・その要望を挙げるには、本屋さんの苦境と負担はあまりにも重いです。
先日「本のある生活」という一冊の感想文を書いたんですが
こちらに丁寧にまとまっているのですけれど、本屋さんや取次のシステムというやつ、うまく出来てもいるのですが、そこに個人の本屋さんの経営や運営を圧迫する要因もまた出来てしまっていて。
久住さんの掲げる「奇跡の本屋」も、利益をあげるためには「場所代がかからない」を組み込む必要があると、正直なかなか条件としては難しいものが考慮に入っています。あちらを立てればこちらが立たずといいますか…
本屋さんはもう経営というより保護の対象のようになってしまうんでしょうかね…それもかえってうまくいかないことのような気がします。
今年入ってわりとすぐのタイミングで、アメリカの「バーンズ&ノーブル」という本屋さんが売上を好転させた記事が出てました。
また、昨年あたりからリアル書店が若い世代に居場所としての強い力を持つ話を見かけるようになったり、
tiktokやyoutubeなどでも書評・本紹介のコミュニティが続々出てきているし、本屋というものの需要が無くなることはないんだろうな、と、個人的には結構夢とロマンを感じます。
ただ、現実問題として、業界が盛り上がるには「儲け」が健全に出る必要があると思っておりまして、素晴らしい企画と活動をされていたというのに、資金繰りで奔走し消耗をしてしまう久住さんのような店主さんは出してはいけないんですよね。現代のツールや条件をきちんと仕組みの考慮に入れたシステムづくりを、本の業界はそろそろ行うタイミングじゃないのかな、と、やはり気軽な読者は気軽に書き散らかしてしまうんです。
本業界、関わる人が幸せになる世界であってほしいなあ。
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