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分身

タイトル:分身

▼登場人物
●分実秀行(わけみ ひでゆき):男性。35歳。独身サラリーマン。自分の性格(善悪)について悩む。
●江益佳奈世(えます かなよ):女性。30代。秀行の善悪の心から生まれた生霊。

▼場所設定
●秀行の自宅:都内にある一般的なマンションのイメージで。
●カクテルバー:都内にあるお洒落なカクテルバー。秀行と佳奈世の行きつけ。

▼アイテム
●Alter Ego of Good and Evil:佳奈世が秀行に勧める特製のサプリメント。これを飲むと善悪の判断がこれまでよりしっかり付き、その上で悪に加担する自分を抑える事ができる。
●Avatar:佳奈世が秀行に勧める特製のカクテル。これを飲むと善そのものの自分になれて効果は一生分。

NAは分実秀行でよろしくお願い致します。

ト書き〈カクテルバー〉

俺の名前は分実秀行(わけみ ひでゆき)。
俺は今、悩んでいる。
自分の善悪についてだ。

常に理想を求めて善人で居たいとする俺と、
ちょっとしたきっかけで外の刺激がやってくると
それだけで悪魔のような自分に成り変わる。

もう、どう自分がその悪に成り変わるかというのを説明するのも嫌なぐらい、
俺は自分の善悪について悩んでいた。

秀行「はぁ。やっぱりどんなに善人で居たいと思っても、この世の悪には勝てないものか…」

恋をすれば浮気して、その恋人に対しても自分勝手を押し通し、
臆病なくせにインターネットを通して他人の誹謗中傷を繰り返したり、
誰かを攻撃しなくては気がすまないような、そんな時間を過ごしてしまったり…
言葉にすれば誰にでもあるような大した事ないものに思いがちだが、
その内容はエゲツないものだ。

でも、こんな俺でも、ずっと善人で在りたいと思い続ける。
やっぱり、性善説と言うのはあるのだろう。
「はぁ…」といった感じに悩んでいた時…

佳奈世「フフ、お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女性が声をかけてきた。

彼女の名前は江益佳奈世(えます かなよ)さん。
都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、
どこか品(ひん)があり、優しそうな人だった。

別に断る理由もないので隣の席をあけて彼女を迎え、
暫く喋っていると、2つの不思議に気づく。
1つは「昔どこかでいちど会ったことのある人?」と言う感覚。
そしてもう1つは、彼女と喋っているとなんだか自分の悩みを無性に打ち明けたくなる…と言う感情。

佳奈世「善人になりたい?」

秀行「ええそうなんです。僕は今そのことで、ずっと悩んでまして。…ハハwおかしいですね、こんなことで悩んでる奴なんて他に居ないのに…」

佳奈世「いいえ、おかしな事なんてありませんよ。そう言う考えは立派だと思います。結構人知れず、誰でもそう言う事で悩むんじゃないかしら?」

それから彼女は俺の悩みに応えようと、いろんなアドバイスをしてくれた後…

佳奈世「あ、そうだ。ちょうど良かったかも♪もしなんでしたらこちらを試してみられますか?」

と言って、バッグから1本の栄養ドリンクを取り出しそれを俺に勧めてきた。

秀行「なんですか、これ?」

佳奈世「それは『Alter Ego of Good and Evil』と言って、まぁ特製のサプリメントのようなものです。それを飲めば善悪の判断がこれまでよりしっかり付き、その上で悪に加担する自分を抑える事ができます」

秀行「え?」

佳奈世「フフ、まぁ簡単に言えば、それまでより善人になれる質が高まると言う事。つまり善人に近づくと言う事です。人は元々罪人という言葉を聞いた事があるかもしれませんが、人が普通に生活していてまるきり善人になると言うのはほぼ不可能な事です」

佳奈世「でもそのサプリメントはその点でその人の善の質を充実させて高め、その心の在り方を維持してくれます。いかがです?もしよかったら試してみられませんか?但しその効果は3ヶ月ほど。そのあとはそのサプリメントによる経験をバネに、あなた自身で心の善良さを高めていく事です」

なんだか聞いてる内はよくわからなかったが、
そのあとで理解はついてきて、彼女がこのとき言ってた事が何となくわかり出した。

ト書き〈3カ月間〉

そして俺は彼女からもらったそのサプリメントを飲み、
その後の3ヶ月、本当に人が変わったように楽になれていた。
楽になれたと言うのは悪の自分に染まらなかった事により、自分が更に理想に近づいたから。

秀行「…本当に凄いなこの効果。前みたいな悪い心がもう全然湧いてこない…」

他人にはわからない事かもしれないが、その時の俺は本当にそう感じていた。
善人で居る事は元々人の理想にあるもの。その状態にある事がこれほど楽を与えるものだったとは。
この事に気づかせてくれたあの人に、俺は心の底で感謝していた。

でも3ヶ月後…

秀行「くそ…また邪な自分がわいてきやがる…!」

俺はまた元々の悪い自分に戻りかけており、なんとか善の自分にすがり付こうと躍起になっていた。
そして俺は悩みの末、又あのバーへ駆け込み、彼女に会えないものか?…それを頼みの綱にした。

でも、店に入ると彼女はまた前と同じ席に座って飲んでおり、彼女を見つけるや否やすぐに駆け寄って今のその自分の悩みを打ち明けていた。

秀行「お願いです!3ヶ月で切れる薬なんかじゃなくて、もう一生ずっとその状態で居られるものを下さい!あなたなら、そういうのを持っているんじゃないですか!?あなたは不思議な人だ。初めて会った時からそう感じていたんです。だから僕は今ここへ来たんでしょう。お願いします!」

はたから見れば、俺はもう狂っていたのだろうか。
そう見られても仕方のない自分がそこに居た。
こんな初対面に近い人にこんな事をお願いしてるんだから。
でもそうさせるものが、やっぱり彼女の中にはあったのだ。

彼女はそれを聞いて…

佳奈世「…分かりました。では、あなたが望むようなお薬を差し上げましょうか?」

と言って指をパチンと鳴らし、そこのマスターに一杯のカクテルをオーダーした。それを俺に勧めてこう言ってくる。

佳奈世「これは私がこのお店に言って、特別に作らせたカクテルです。名前を『Avatar』と言いまして、今あなたが悩まれて居る事を解決してくれるもの。おそらくそれになると思います」

佳奈世「その効果は一生分で、あなたは2度と同じことで悩む事はないでしょう。但し、そうなったからと言って、あなたに必ずしも幸運がやってくるとは限りません」

秀行「え?」

佳奈世「この世は罪人が住む世界。まるで悪が栄えるようなそんな時代に成っています。その中で善そのものの存在になったとしても、その状態をキープする事がいかに難儀か、それを身をもって思い知らされる場合もあると言う事」

佳奈世「フフ、あなたの人生です。この先はあなたがお決め下さい。強制は致しません」

少し怖い事を言われていたようだが、ここでも彼女の独特のオーラのようなものが働き、俺を行動させた。
勧められたそのカクテルを俺は一気に飲み干し、その後の人生に賭けてみたのだ。

ト書き〈オチ〉

それから3カ月間。
また俺は善人そのものの存在に戻る事ができ、それ以降、ずっとその状態をキープできていた。

「なんて清々しく、楽な生活なんだろう。こんなに理想の自分で居る事が幸せなものだったなんて…」

と改めて思い知っていた。

でもその直後、俺の住んでるマンションの部屋のドアが急に開き、
ドタドタドタ!っと足音が鳴ったかと思えば…

秀行「ぐふぁ!」

と言って俺はその場に倒されていた。
見ると俺の体に刃物が突き刺さっている。
そして俺を突き刺したその正体を見上げた時…

秀行「お…お前は……お、オレ……?!」

そして俺はそのまま眠りについた。

ト書き〈マンションを見上げながら〉

佳奈世「彼に与えたあのカクテルは、彼の善悪を分身させるものだった。つまり善そのものの自分を彼は生活して居たが、分身して生まれたそのもう1つの悪そのものの自分がやってきて、結局、善の自分を殺してしまったみたい」

佳奈世「私は秀行の善悪の心から生まれた生霊。善のほうの夢だけを叶えてあげたかったけど、人が生かされて居るこの世の中では中々難しかったようね…」

動画はこちら(^^♪
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