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人(ひと)

タイトル:人(ひと)

▼登場人物
●世渡純夫(よわたり すみお):男性。50歳。妻帯者。サラリーマン。尽くす事が好き。
●毛野瀬 美香子(けのせ みかこ):女性。持病で病床に伏せる。介護が必要。
●カレン:女性。年齢不詳(若く見える)。純夫の理想と誠意から生まれた生霊。

▼場所設定
●街中:公園など一般的なイメージでOKです。
●美香子の自宅:都内にあるマンションのイメージで。

NAは世渡純夫でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは、愛する人のためなら命を捨てられますか?
自分を犠牲にして、その人のために尽くすことができるでしょうか?
ほとんど不可能に近いこと…そう捉える人も現在には多く居るでしょうか。
「愛に報いを求めてはならない」
そんな言葉を昔から聞きますが、
果たして人はそれほど善人になることができ、その愛に、
生涯をかけて尽くすことが本当にできるのでしょうか。

メインシナリオ〜

ト書き〈公園〉

俺の名前は世渡純夫(よわたり すみお)。
今年で50歳になるサラリーマンで一応、妻帯者。
一応と言うのは、俺達夫婦の間はもうすでに冷め切っていたからだ。

純夫「ふぅ。なんであんな奴になっちゃったんだろ…」

結婚した当時、佳恵は本当に良い奴だった。
優しくて気立てがよくて、貞操観念もしっかりついた女だと思っていた。
それらが結婚してから数年後、全て裏切られた。

あいつは今、俺に隠れて浮気をしている。それを繰り返している。
今となってはもうそれを責める気力もなく、離婚も考えている。
俺達の間に子供がなかったのがせめてもの救いだ。

そんなことをホトホト考えていた時…

カレン「こんにちは。少しアンケートに答えて頂いてもよろしいですか??」

と1人の女がやってきた。見るとまぁまぁな美人。
どうやらこの界隈で、男を対象にしたサロン系のアンケートをとっていた様子。

興味が無いので立ち去ろうとしたが、不思議とこの時、
彼女のもとに俺は留まってしまった。
なんでそうなったのかよくわからない。ちょっと不思議な体験だった。

でも少し喋っている内に気づいたが、
どうも彼女には「昔どこかでいちど会った事のある雰囲気」があり、
多分それが魅力になって俺をここへ引き止めた。そんな感じだったと思う。

それにもう1つの魅力は、なんだか彼女の前に居ると、
自分の悩みを無性に打ち明けたくなる。そして俺はその通りに行動していた。

カレン「まぁ、奥様とのご関係が?」

純夫「え、ええ。こんなこと初対面のあなたに言うようなお話じゃないんですけど…」

とにかくそんな自分の悩みが、口をついてボロボロ出てくる。
それで引かれるのが普通だったが、彼女は俺のその悩みを真剣に聞いてくれた。そして…

カレン「ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私がそのお悩みを、少し軽くして差し上げましょうか?」

と言って、本当に俺の今のこの悩みを解消しようとまでしてくれた。

ト書き〈転機〉

そして後日。もう1度彼女と落ち合い、そこで彼女は俺に或る事を勧めてきたのだ。

純夫「ええっ?ぼ、僕に介護を!?」

カレン「ええ♪あなたはおそらく、誰かに尽くす事を生き甲斐に思っていますね?そんな奥さんと結婚できたのもその性格の為」

カレン「実は私その昔、恋愛コーチの仕事も副業でしておりましたので、その辺りの事には少し詳しくて。長年そう言うお仕事をしておりましたら、一瞥しただけでその人の性格も分かったりするものです」

少し驚いた。確かにその通り。
俺はその昔、介護福祉士をしていた事がある。
今はやめて別の仕事についているが、
誰かのために何かする事、これは昔から好きだった。

今の妻にも確かに尽くしていた。だから多少目に余るところがあっても目をつむり、
何とか円満を図れるようにと努力してきた。

そんな俺の内実を、この時彼女は一発で言い当てた。
驚くと同時に、俺はこのとき自分の心を彼女に寄せた。

そして彼女は或る女性のもとに俺を派遣する形で、
その彼女の介護をしてくれと頼んできたのだ。

ト書き〈美香子が住むマンション〉

カレン「ここです。ここの305号室に彼女は住んでいます。ぜひ彼女のもとを訪れて、彼女の身の周りの世話をしてあげて下さい。そして彼女を助けてあげて下さい」

純夫「は、はぁ…」

俺が介護する事になった女性は、毛野瀬 美香子(けのせ みかこ)さんと言った。

純夫「あ、あの、すいませ〜ん」

美香子「あ、どうぞ。開いてますのでお入り下さい」

彼女は持病のせいで下半身付随になっていたようで、
それが最近のことであり、彼女はどうでも施設に行くのを嫌がっていた。

車椅子生活で動く事はできる上、病院には通院の形でずっと通っており、
持病のことを考えれば入院を勧められたがそれも彼女は嫌がった。
独り身ながら、そう言う所へ行くのは元から嫌だったらしい。

まぁ彼女なりの事情があるのだろうが、とにかくその日から、
俺の彼女への介護生活が始まったのだ。

俺も会社はリストラに次ぐリストラで、大した所には勤めてない。
それよりこの介護で報酬をそれなりに貰うことができ、
こっちの方が儲かっていたのもあって、正規の仕事は何日も休んだ。

それにもう1つ、非常に大きな魅力があった。
それは、美香子さんが可愛らし過ぎて美し過ぎる事。

モロ俺のタイプであって、妻帯者の俺がこんなことを言うのは間違ってるが、でもそれが正直だった。

ト書き〈また転機〉

それから数日…数週間が過ぎた時。

美香子「ウフフ、本当にいつもありがとうございます。あなたが来てくれるようになって私、本当に生活が明るくなりました」

純夫「あ、あははwいやぁ〜」

俺と美香子さんの間に、愛のようなものが芽生え始めた。

美香子「…ねぇ、今日どうしても帰らなきゃダメですか?」

純夫「え…?」

美香子「あたし、純夫さんにずっと居て欲しいの…!」

純夫「み、美香子さん…」

彼女は俺に離婚を迫るような目でそう言ってきた。

美香子「あ、あは、あたし何言ってんだろ!ご、ごめんなさい!今の忘れて下さい!」

俺はそう言われ、本当に彼女のもとに留まろうとした。

(持病の悪化)

それからわずか数日後。彼女の持病が悪化した。

純夫「だ、大丈夫ですか!?やっぱり病院に行った方が」

美香子「ゴホゴホ!い、いえ、大丈夫…」

彼女はやっぱり自分のこの家の方が良いと言う。
でもいつどうなるかわからない。俺はそれに恐怖した。

(相談)

そして俺は堪らず、前にカレンさんに貰った名刺の電話番号に連絡していた。
カレンさんに今のこの事を全部伝え、どうしたら良いか助言を貰おうとしたのだ。

カレン「彼女はあなたの献身的な介護に本当に感謝しているようです。毎晩私のところに電話をかけてきて、あなたの事をいつも話していました」

カレン「でも彼女の持病は実は、もう治らないのです。その事を彼女もずっとあなたに隠していたようですが、まぁこんな状況ですので言っておきます」

純夫「な、なんだって…」

カレン「あとは私から彼女に話し、無理矢理にでも病院へ連れて行く事にしましょう。そうすればたとえ病気が治らないでも、少しでも安らかに余生を送る事ができるでしょうから」

俺はそれを聞いていて、まるでこれまでの自分と美香子との関係が無視されているように感じ、
何か訳の分からない、怒りのようなものを覚えてしまった。

純夫「そんな…そんな事、あんまりです!彼女はやっぱり病院へ行くの嫌がってるんです!そんな状態なら、僕がずっと彼女のそばに居て…」(遮るようにカレンが話す)

カレン「いいえ、あなたはこの辺で彼女のもとを去るべきです。あなたのした事、彼女に対する愛の奉仕は、彼女にとって最後の安らぎになったでしょう」

カレン「実は不治の病だから彼女は病院へ行くのも、それなりの施設に入るのも嫌がってたんです。そしてそれを彼女の主治医も了承していました」

カレン「あなたに、この彼女の介護をするお仕事を勧めたのは、あなたの今の冷え切った心が少しでも温まり、生活にまた覇気を持ち直し、本来の自分を取り戻して頂こうとそう考えたからでした」

純夫「な、何を言って…」

カレン「美香子さんのような方が、この世間には多くおられます。今、奥さんと離婚され、そうした人達との新しい出会いを求めるのも、あなたにとっては人生の糧になると思います」

美香子の事はもう忘れ、次の新しい人生に歩み出せ…単純にそう言ってるように聞こえた。
俺の心にはさらに怒りが沸き、何がどうでも美香子のそばに最後まで居る!…そうカレンに言った。

ト書き〈身代わり〉

するとカレンは何を思ったか、いきなりこんな事を言ってきた。

カレン「ふぅ。どうやらあなたの、美香子さんを思う気持ちは本物のようですね。…良いでしょう。あなたのその望みをたった1つ叶える方法があります」

純夫「…え?」

そう言って彼女は持っていたバッグの中から
1本の栄養ドリンクのようなものを取り出し、
それを俺に差し出してこう言ってきた。

カレン「どうぞこれをお飲み下さい。そして彼女の前に行き、手を取って、こう言うのです。『僕も君と運命を共にする。僕が君の身代わりになってあげる』と」

純夫「…どう言う事ですか」

カレン「良いですか?今彼女は本当に心の支えになる人を求めてます。もうその人にしか救いは見ないでしょう。自分と運命を最後まで共にしてくれる人にしか、彼女は希望の光を見出す事ができないのです。その彼女の心を、あなたは理解できますか?」

カレン「あなたには未来があって、奥さんも居る。帰ろうと思えばいつでも自分の場所に帰れます。でも彼女には帰る場所がもうありません」

カレン「そんな彼女があなたを愛すると言ったのなら、朽ち果てる自分の姿をあなたにだけは見せたくない。そんな気持ちで居る筈です」

純夫「そんなの、あなたが今勝手に言ってるだけじゃ…!?」

カレン「いいえ、彼女はそう言う人なのです。どうですか?彼女と立場を代われる程の覚悟が、今あなたにありますか?そんな本当の愛を、自分を犠牲にして良いと言える程の愛を、彼女に対して持つ事ができますか?」

試されて居るような気がして、俺は今までの人生を全部思い起こし、その時決意した。

純夫「…大丈夫です。僕は彼女のもとへ行きます。そのドリンク、飲ませて下さい。僕は彼女の身代わりになっても良い、それ程の覚悟があります」

ドリンクを受け取り、俺はその場で一気に飲み干した。
今までの自分の人生は不毛の人生。自分のこの愛を受け取ってくれる人は誰も居なかった。彼女だけだ。

そう信じ、俺は彼女の元へ行き、言われたように彼女の手を取り、自分が彼女の身代わりになる事を誓った。

ト書き〈オチ〉

純夫「僕も君と運命を共にする。僕が君の身代わりになってあげる」

彼女のマンションの1室で、病床に伏せる彼女のベッドの横へ行き、
彼女の手を取りそう言った瞬間…

純夫「う、うわぁっ…!」

まばゆい光が俺と美香子の間に生じ、一瞬、意識を失った。
そして次に目覚めた瞬間、俺はベッドに寝ている自分に気づいた。

純夫「こ、これは…!?…うっ、ゴホッ!ゴホ…!」

どうやら彼女の持病を俺が引き受けたらしい。
そして美香子は瞬く間の内に元気になって、病床を離れ…

美香子「ありがとう。私、自分の幸せを探しに、第2の人生に歩いて行くわ。本当にありがとう」

そう笑顔で俺に言い、そのまま部屋を出て行った。

純夫「そ、そんな…!美香子…ゴホゴホッ!み、美香子ぉおぉ!!」

ト書き〈マンションを見上げながら〉

カレン「私は純夫の理想と誠意から生まれた生霊。その理想を叶え、彼の人生の糧にだけしてあげようと思ったけど、やっぱり恋に盲目になってしまうとそれは叶わなかった」

カレン「愛して尽くし、その人の為に自分を犠牲にし、身代わりにまでなったと言うのに、その彼を簡単に見捨てて出て行った美香子。純夫にとっては凄まじい程、切な過ぎる結末ね」

カレン「実は、美香子は私が作り出した架空の人物、今回は純夫の覚悟を試してみただけ。だから純夫が請け負った持病もすぐに治してあげる」

カレン「でも人に尽くしたり身代わりになると言うのは、これ程の覚悟が必要なものなのよ。報われない愛でも、それに尽くせるかどうか?」

カレン「人の世界ではよくある事。だからこそ、試練になるのよね。その試練を乗り越えてでも人を愛する…やっぱり愛は尊いものなのよね」

動画はこちら(^^♪
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