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朧げで確かな存在。

彼からのメールを受け取ったのは
仕事の休憩時間、バックヤードの椅子に座って一息ついた時だった

読み進めていくうちに溢れた涙そのままに
時が止まったように
彼の紡ぐ言葉の中に留まっていた

今まで誰にも伝えたことのない想いを
はからずしも汲み取ってもらったような
とてつもなく深くて大きな何かに
両掌で掬われたお水であるかのような私

他スタッフがバックヤードに入る音で
はっと我に返った

それでも、そこからずっと
心の奥にやさしくてあたたかな灯がともり
彼の言葉は今も変わらず、わたしの中に存在している

✳︎

彼の研究室へ行く日が決まった

娘は中学のクラブを途中で抜けさせてもらう形
許可はかなりしぶしぶ出してもらえたらしい

いや、ここは快くいかせてやるところでしょ?
(ほんと諸々ブラックだよ)

クラブでも顧問に虐げられていた娘
そんな中ですら、音楽の力で必死に息をするように今を生きていた娘

思い出すだけでも胸が苦しくなってくる

運動部だけがきついと思われがちだけど
吹奏楽もかなりの確率でブラックではなかろうか、と私は思っている(もちろん学校や顧問によって全く異なるけれど。)

彼を尋ねる日、それは夏の終わりの日だった
研究室は山の上

最寄りの駅からナビを頼りに歩くも
こんな時に限って全然違う道へと誘導される

夏の終わりとはいえ日差しが強く気温も高い
すでに汗だくの私たち

約束の時間を過ぎそうになり
取り急ぎ娘から彼へ遅れる事を連絡する

初対面の大切な時になにやってんだほんとに
汗はもちろん、暑さで全身が赤く火照っている

最悪だ、、
私は顔の火照りが冷めるまで時間がかかる
失礼にならないだろうか?
本当なら少し落ち着いて整えて行きたいけれど
とうに約束の時間は過ぎている

最低限のエチケットをして向かう他なかった

そして15分ほど過ぎて到着する
入り口で綺麗な若い女性が待っていてくれた
私たちの案内人として派遣されたらしい

この時点で、まじか…そんな世界なの?と
軽くひいた私。苦笑

案内された彼の研究室には他の学生が居て
扉の外でしばらく待つことにしたのだけど

案内してくれた女性が見かねてドアをノックして
私たちが到着した事を伝えてくれた

すると部屋から彼が出てきて声をかけられたのだけれど

私は遅れた失礼の上に、熱った赤い肌を晒しているこの状況がどうにも居心地が悪くて。苦笑

一瞬目を合わせ、矢継ぎ早に挨拶をした後
部屋の前で娘と彼が話をしている中
私は娘の後ろでパタパタとハンカチで仰ぎながら目を伏せて控えていた

それなのに
だからか?
挙動不審に映ったのか

その間中、彼から真っ直ぐな瞳をずっと向けられていて

なんだろう…
ねぇ、なに?
…こんなに見る人いる…?

(怒ってなんか1ミリもない、なんなら何か?って位に超余裕。やわらかで和やかな空気を創ってくれてる。そんなエネルギーを纏った、今まで出逢った事のない不思議な人。周りと話しながらも視線はずっと私から逸らさない)

私は心の中で、「ああ、やっぱり身体が極度に赤いから変なんだろうな…」と反省していた

スマートになんて柄じゃないし
そんな育ちでも生まれでもないし
そもそもできやしないのだけど

娘が恥ずかしくないように居てやりたい
それだけだったのに
正直、初っ端から私の心は折れていた

彼の部屋へ入り、あらためて挨拶と御礼をして
座って少し話をし始めた時

私もやっと落ち着いたのか
会話をしながら、彼を初めてしっかりと見て

メールでやり取りをした際に感じた、あの感覚が蘇ってきた

ねぇ、、、この人は一体何…?誰なの…?
誰に聞ける訳でもなく、1人内側でぐるぐる

ただただ感じた事のない感覚の中にいて
それに彼は日本人じゃない!そう感じていた

後から深くわかってくるのだけど
彼は海外生活が長く、日本の考え方というよりも海外のスタイルで世界観が確立されていて
ものすごく自由で躍動的だったからかもしれない

彼から放たれる波動というエネルギー
オーラと言われるものが
他と全く異なるものを発していたということ

当時スピリチュアルなどわからない私ですら
ひしひしと何かを感じてしまうほど

そんな彼(わたし)と
今世ふたたび出逢った瞬間だった





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