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知っているつもり 無知の科学

知っているつもり 無知の科学
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本書を読みきるのに時間がかかってしまいました。なかなかボリュームのある1冊です。
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さて、らなぜ人間は知性と無知を持ち合わせているのか。実は理解していると思い込んでいるだけで、思ってるほど理解していません。
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本書では、こうした疑問について述べられています。
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一見単純そうに思えるものを含めて、物事の多くは複雑です。自動車やコンピュータなどは複雑と聞いて納得できると思います。では、トイレはどうでしょうか。トイレの水を流したら何が起こるか想像してみましょう。
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トイレは単純な装置で、その基本設計は過去数百年と変わっていません。最も一般的な水洗トイレはサイホン式です。ボウル(排出物が溜まるところ)の先はS字かU字になっていて、水を流すとサイホン効果により流れます。車からガソリンを盗む要領で流れます。
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トイレの仕組みを理解するためには、その機構を説明するだけでは不十分で、構造方法を知るには、セラミックス、金属、プラスチックの性質を理解していなければなりません。その他にも、水が漏れないようにするためのシーリング、トイレの大きさや形を決めるための人体の知識、売るための経済学、色を決める心理学など様々な知識が欠かせません。
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ここで言いたいのは、人間は無知であるということではなく、人間は自分が思ってるよりも無知だということです。これを知識の錯覚と呼んでいます。
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思考は、有効な行動をとる能力の延長として進化しました。思考することで、それぞれの行動の効果を予測したり、その結果様々な選択肢の中から有効なものを選べるようになりました。
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思考の目的が行動にある理由は、行動の方が思考より先にあったからです。最も原始的な生物も、モノを食べ、移動し、繁殖することは可能でした。その中で、より最適な方法を経験から思考していきました。なので、思考は行動の先にあるのです。
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●「知っている」のうそ
イェール大学の認知科学者であるフランク・カイルが考えた「説明深度の錯覚」を検証する方法をご紹介します。「説明深度の錯覚」とは、人々が実際に持っている知識と、持っていると思っている知識の量を比較するための科学的方法です。
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例えば、次のような質問を受けます。
①あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
②ファスナーはどのような仕組みで動くのか、できるだけ詳細に説明してください。
③もう一度、あなたはファスナーの仕組みをどれだけ理解しているか、7段階評価で答えてください。
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ほとんどの人が、最初に聞かれた時より評価を比較するはずです。実際にファスナーの説明をしようとすると、たいていの人はまるで自分が分かってないことに気付き、理解度の評価を1、2段階下げます。このような実験によって、人々が錯覚の中で生きていることが示されます。
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●なぜ「思考」するのか
信じられないような過去を想起する症状があります。超記憶症候群、あるいは非常に優れた自伝的記憶(HSAM)と呼ばれるものです。また、これら症状を認められた人々のほとんどが、鬱症状に苦しんでいます。
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全てを記憶する能力がそれほど素晴らしいものではありません。
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思考の目的は、特定の状況下で最も有効な行動を選択することです。そのためには、様々な状況下に共通する本質的な特性を理解する必要があります。
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特に人間は、地球上で最も因果的思考に長けた生き物です。因果的思考とは、因果的メカニズムに関する知識を使って変化を理解しようとする試みです。つまり、メカニズムを理解することによって、原因がどのような結果に変わるかを推測することで、未来に何が起こるのかを予想するのに役立ちます。
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例えば簡単な例ですが、雨が降った時に傘をささずに外に出た場合どうなるかといった予想です。もちろん、雨が身体に当たってびしょ濡れになり、風邪をひく可能性があると考えることです。
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●なぜ間違った考えを抱くのか
僕たちは絶えず何かしらの因果的推論をしていますが、因果的推論には2つのタイプがあります。直感型と熟慮型です。
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ここでいう因果的推論とは、知識を使って原因がどのような結果に変わるのか推測すること、つまり未来がどうなるかを予測する時の思考のことです。
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イェール大学のシェーン・フレデリック教授は、直感型か熟慮型を見分けるCRT(認知反射テスト)という簡単なテストを考案しました。
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【問題①】
バットとボールで合計1ドル10セントである。バットはボールよりも1ドル高い。ボールはいくらか。
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答えは10セントだと思いましたか?そう思う人はたくさんいるそうで、たいていの人は「10セント」という答えがパッと浮かぶようです。重要なのは、その直感的反応をそのまま受け入れるか、あるいは確認するかどうかです。仮にボールが10セントだとすると、バットが1ドル高ければ1ドル10セントになり、合計は1ドル20セントになります。
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【問題②】
湖面にスイレンの葉が並んでいる。その面積は毎日2倍になる。48日で湖面全体がスイレンの葉で覆われたとすると、湖の半分が覆われるまでに何日かかるか。
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24日という答えがパッと浮かんだでしょうか?毎日倍増するなら、24日目に湖の半分が覆われていれば、25日目に2倍になって湖全体が覆われることになります。
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これかCRTは、答える前に熟慮する人と、思いついた答えをそのまま口にする人を区別します。内政的傾向の強い人はじっくり考え、より慎重に対処する傾向にあります。そして、熟慮型の人の方が、直感型の人ほど「説明深度の錯覚」が見られません。つまり、直感型な人ほど、「理解してるつもり」になりやすいということです。
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●オプティカルフロー
近くにあるものが、遠くにあるものより早く動いてるように感じられる現象です。運転シミュレーターを使った実験によると、片側の車線が反対側の車線と同じ速度で動いているように見えれば、車線内にとどまっているのうに感じます。逆に、片側の車線を反対側よりも早く動かすと、被験者は遅い車線の方に寄ってしまいます。減速させたい区間では、実際よりも速く走行しているような感覚を抱くように車線を引きます。
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ミツバチなどの昆虫もオプティカルフローを使います。巣に入る時や巣の中のトンネル内では、オプティカルフローの遅い方の壁寄り進みます。つまり、壁の自分に向かってくる速度が早ければぶつかる気がするそうです。片側のオプティカルフローを早めると、人は真っ直ぐ歩けなるなるという実験結果もあります。
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こうした研究からわかるのは、人間は認知科学の想定とは異なり、膨大な計算をしてから行動していないということです。そうではなく、世界についての事実(物理的法則など)を活用して、行動を単純化しています。
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●賢さの定義
社会はg因子を重視します。g因子とは、因子分析によって、一人ひとりの全てのテストスコアを基に、全てのテストに共通する基本的特性のことです。簡単に言うと知能スコアです。知能を数字で表して、その数字で賢さを決めています。
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しかし、知識はコミュニティの中に存在するという考え方もあります。知能を個人的属性と見るのではなく、個人がどれだけコミュニティに貢献するかと考えます。
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個人がチームに貢献し、そしてチームが物事を成し遂げるので、重要なのはチームです。
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結論としては、有能な集団にg因子の高い人(知能スコアが高い人)が大勢いる必要はありません。必要なのは、異なる能力を持った人がバランスよくいることだそうです。このあたりはスポーツでもよく、スーパースターをたくさん集めても勝てないと言われているのでしっくりきます。
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カーネギーメロン大学のアニタ・ウーリー教授の研究チームは、3人ずつのチームを40組作り様々なテストを実施しました。
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個人の知能テストに関する研究からは、あらゆる知能テストの成績は、他の認知力テストの成績と正の相関があることがわかっています。結論としてはは、集団(チーム)でも同様の相関が見られたそうです。
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そして、個人の知能スコアの合計(g因子)と集団の知能スコア(c因子)のどちらが集団成績を予測する上で有効なのか実験をしました。その結果、c因子の方が予測する上で有効に働き、むしろg因子は全く役に立たなかったそうです。
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その研究の中で、集団のまとまり、意欲、満足度に対する指標は、チームの成績の予測には役に立たなかった。一方で、社会的感受性、役割交代の頻度、女性の割合は予測に役立ちました。しかも、女性の割合を増やすと、社会的感受性が高まり、集団にとってプラスになることがわかったそうです。
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●情報量を増やしてもダメ
消費者が無知であることを、教育によって解決しようとしています。それは国だったり企業だったりします。そこには、知るべきことを教えれば賢明な判断をするようになるという期待があるからです。こうした期待から、世界中では金融教育プログラムに数十億ドルを注ぎ込んできましたが、あまり成果は出ていません。
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例えば、お金についての教育は何度も繰り返されてきました。お金に関する判断はとても重要です。
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しかし、現実として、アメリカの統計では、30日以内に2000ドルを用立てる自信があると答えたのは全世帯の25%に過ぎなかったそうです。
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また、まもなく退職を迎えるアメリカの世帯は、平均して3年分の生活費しか貯蓄していません。これは全く足りていません。
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日本ではどうでしょうか。僕なりに調べてみました。2016年の常陽銀行の調査によると、「1世帯あたりの平均貯蓄額」は、
全世帯→1,033万1千円
母子世帯→327万2千円
児童のいる世帯→680万円
高齢者世帯→1,224万7千円
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今度は、平均値ではなく中央値で見てみます。例えば、同じ100万円で考えると、平均の場合は10万円、40万円、250万円を平均すると100万円です。100万円、100万円、100万円でも平均は100万円です。中央値の場合は真ん中の数字を取るのでこの場合だと40万円です。平均値だと、明らかに高すぎる人、低すぎる人に引っ張られてしまいます。
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つまり、平均だと最大値と最小値が乖離しているとうまく評価できないことがあるので、中央値という考え方を使います。
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中央値をみると、
全世帯→500〜700万円未満
母子世帯→50万円未満
児童のいる世帯→300〜400万円
高齢者世帯→500〜700万円未満
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つまり、中央値が平均値よりも低いので、多くの人が貯蓄できてない人が多いということになります。
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●より良い判断をする
人は必ずしも最高の判断をするわけではありません。これを、シカゴ大学の経済学者リチャード・セイラーと、ハーバード大学の法学者キャス・サンスティーンは「リバタリアン・パターナリズム」と提唱しています。
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痩せなきゃいけないのに、サラダではなくついハンバーガーを食べてしまうといった現象のことです。
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リバタリアン・パターナリズムは、行動科学によって意思決定を改善できると考えています。
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この考え方は、選択の順番を変えましょうということです。ハンバーガーを食べるかどうかを考えるよりも前にサラダを選ぶように順番を変えてしまいます。例えば、ハンバーガーをメニューの最後に記載するなどです。
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つまり、個人を変えるより環境を変える方が簡単で効果的になります。やはり人は環境の影響を極端に受けることを再確認しました。
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最後に、今回はまとめに入れませんでしたが、知識はコミュニティの中にあるという考え方がなるほどなと思いました。例えば、投資の天才であるウォーレン・バフェットが株を買うと、みんなもマネをして買うなどがこの考え方の示すところです。
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誰もその狙いなど理解はしていません。コミュニティに知識を頼っているので、無知や理解したつもりでもなんとかなってしまっているそうです。
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なので、個人スコアと集団(チーム)スコアの中でも触れたように、集団やチームの知識を高めていく方が効果的になるので、これからはキングコング西野さんの絵本を描くときに行ったように分業制が当たり前になるかもしれません。
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今まで以上にチームの素晴らしさや大切さを学びました。

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