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【オリジナル小説】金の麦、銀の月

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【金曜日更新】オリジナル小説「金の麦、銀の月」のまとめです。 地道に連載していく予定です。
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2021年10月の記事一覧

金の麦、銀の月(11)

金の麦、銀の月(11)

第十話 贈る言葉

日も少し暖かくなった三月、私たちは四年生の卒業式を迎えた。四年生は去年一年間、就職活動や卒業論文で忙しく、直接関わる機会はあまりなかったが、先輩方が制作に携わった文芸冊子は何度も読んでいたため、作家としての先輩方はよく知っていた。

編集社や新聞社など、物書きらしい職に就いた先輩もいれば、堀のように技術職に就いた先輩もいて、希望に満ち溢れた表情が垣間見えた。

文芸サークルでは

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金の麦、銀の月(10)

金の麦、銀の月(10)

第九話 夢を見つけるその日まで

年が明け、長い春休みを迎えた私は充実した日々をおくっていた。

サークルはと言えば、春休みの初めの方に一度集まっただけであとは四年生の卒業までは自由に過ごすようにと言われた。そもそも個人の趣味として執筆をしていた人の集まりでもあるため、文化祭や合宿以外にサークル員みんなで何かをするというイベント事には乏しかった。

私はと言うと、四ヶ月の間に貯めたバイト代で、堀と

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金の麦、銀の月(9)

金の麦、銀の月(9)

第八話 化かし化かされ

文化祭二日目も終わり、家へ帰ると私は部屋に直行し、頭に浮かんだ物語の一行目をノートに綴った。

___人間の作る映画を好む狐は、時折人の姿に化けては映画館という、大勢の人間が好んで通う大きな箱へと足を運ぶのであった。

物語を作るというのは、人を化かすことに近い。私が作った世界に読者を連れ込み、その世界の住人にしてしまう。今日、先輩と話したことで、演劇にも同じように、観る

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金の麦、銀の月(8)

金の麦、銀の月(8)

第七話 きっかけ

部室につくやいなや、私はロッカーに駆け寄った。

このロッカーに入っているのは、穂高麦人という名前を初めて知った新歓公演のパンフレットと、私が小学生の頃から大切にしてきた一冊の本。

その二つを胸に抱えると、私は再び体育館へ向かって歩き出した。心臓が飛び跳ね、ソワソワと落ち着かない。一度立ち止まると、自分に言い聞かせるように深く息を吸った。

しかし、気を取り直して一つ目の角を

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