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TIFFの季節に、もうひとつのTIFFの話

U-NEXT映画部の林です。今年も東京国際映画祭(TIFF)が開催されていますね。私たちもできるだけ会場に足を運んで、次なるお宝を発掘してきたいと思います。

さて、TIFFに先立つ9月、トロント国際映画祭(こちらもTIFF)に行ってきました。映画祭は世界中で無数に開催されていますが、中でもトロントは、2月のベルリン、5月のカンヌと並んで、映画バイヤーから重要視されているマーケットです。ノン・コンペティション(審査員がおらず、アワードを競うのが主眼ではない映画祭)なので一般的な知名度は高くありませんが、400本程度の最新作が上映され、翌年のオスカー候補が続々ここで初披露されることからも、世界中のバイヤーから熱視線を集めています。会期中は一般の映画ファンも足繁く会場に通い、3000人以上の市民ボランティアが様々な仕事をこなしています。スタッフのホスピタリティが高く、観客のリアクションもすこぶる良い、映画愛に満ちた映画祭という印象を受けました。

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ところで、映画配給会社ではないU-NEXTが、なぜわざわざ海外の映画祭まで足を運んでいるのかというと、日々届く皆様からの声が、私たちを突き動かしているのです。

なんで、あの有名な映画が配信されてないの?

なんで「2」がなくて、「1」と「3」と「4」だけあるの?

そのお気持ち、ごもっともです。僕がユーザーでもそう思うはずです。しかしここには、映画ライセンスをめぐる独特な事情が影響しているのです。少し、映画ビジネスの基本の話をします。

里帰りする映画たち

私たちは普段、色々な手段(チャネル)で映画を見ています。映画館で、地上波放送で、DVDで、スマホで、飛行機の中で。実は、左記のチャネルでお客さんに映画を届けるには、すべて別々の権利許諾(ライセンス)が必要です。映画を上映するライセンス、放送するライセンス、DVD化するライセンス…という風に。そしてライセンスは、どこの国で取り扱うか、つまりテリトリーごとにも分かれています。例えば「ニュー・シネマ・パラダイス」1本をとっても、チャネル数×テリトリー数だけ、ライセンスの数があるということです。

通常、日本で公開される洋画は、日本の映画会社がオールライツ(チャネル=すべて、テリトリー=日本)で本国のプロダクションやエージェンシーから買い付けてくる、というパターンがメインです。全世界に配給網を持つハリウッドスタジオは、そのままスタジオの日本支社が国内のビジネスを請け負いますが、今回の話は「買い付ける」映画が対象です。購入するライセンス期間は、長くて10年ということが多いようです。

我々は通常、オールライツを取得した日本の映画会社から「U-NEXTで配信するライセンス」を又買いして、お客様に洋画を届けています。が、最初の劇場公開から10年が経ち、日本の映画会社が「次の10年は、もうこの作品では商売にならないな」と判断すれば、本国との間で契約更新されません。となると当然ながら、U-NEXTはその作品を配信できなくなります。つまり、一度DVDを仕入れたらずっと棚に置いておけるレンタル店とは事情が違うのです。残念ながら、DVDや放送などでの売上が以前よりも計算しづらくなった今、そういう作品が増える傾向にあります。

あの映画をもう一度日本へ

しかし、U-NEXT映画部のロールモデルは「伝説のレンタル店」たち。信頼に足る「映画のお店」を目指す私たちは、里帰りしてしまった映画たちを、もう一度日本に呼び戻さねばなりません。ということで、トロントのような映画祭に足を運び、世界中の映画会社とコンタクトを取って、「チャネル=配信、テリトリー=日本」を得る交渉を続けているのです。

もうひとつ、埋もれかけた新作の発掘も、マーケット参加の目的です。1年間に世界中で制作される映画は、優に1万作品を超えると言われていますが、日本国内で公開される洋画はそのうち600弱です。つまり、世界中の新作映画のほとんどが、日本に輸入されることなくその生涯を終えているわけです。しかしその中にも、優れた映画は存在します。それらをどうにかして、日本の皆さんに届けられたらと考えています。

昨年後半から進めていた海外マーケットでの交渉も順調に進み、今ではいくつかのディールがまとまりそうなところまで来ています。名作なのになぜか配信されていなかったあの映画たち。世界のアワードを受賞しているのに日本に入ってこなかった新作たち。それらを皆さんの元にお届けできる日を、楽しみにしています。

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