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【夢日記】#26 この世界は変わってしまった

真夏の東南アジア。廃墟と化した真四角のコンクリートビルの廊下のド真ん中に幼馴染と立ち尽くしていた。
安っぽいアルミサッシの窓はボロボロに割れ、そこから差し込む太陽の陽は、私の肌をジリジリと本当に音を立てて焼いていた。
クーラーなどもちろんない。不快な湿度と温度の空気で充満しているこのビルはいるだけで息苦しい。
目の前には途方もなく長い廊下が続いていた。
廊下の先には出口と思われる小さな光が見える。
私は、ちょっと見てくる と一言告げてひとり出口方向に向かった。幼馴染は暑さでうなだれていた。

進むごとに空気が重くなり、嫌な予感がした。不安と恐怖がまとわりつく。
しばらく進むと廊下の両脇に狭い路地が何本も出現した。質の悪そうな食料品や雑貨や服などの小さな出店が所狭しと立ち並んでいる。私は路地に入ってみた。すると、久々にいいカモが来たとばかりに、その日暮らしの店主たちが手招きをしてくる。立ち止まったら襲われる。そんな気がして、目を合わせないようにした。逃げていると思われないくらいの駆け足で出口に向かった。

路地を抜けると、腰の曲がった老婆がよろよろと近付いてきた。私に向かって手を伸ばしながら理解できない言語を途切れなく呪文のように喋っている。汚れと日焼けで不均一な焦茶色をした肌。伸び切ったパサパサの白髪混じりの髪。皺皺の手の甲に浮き出た血管。これ以上詳細を確認すると具合が悪くなりそうだったのでやめた。
老婆は右左に移動しながら行く手を遮り、しきりに握手を求めてくる。私は両腕を背中に回し目の前に伸びてくる手に捕まえられないよう必死に身体を翻した。しかし、老婆は不気味な笑みを浮かべながら近付いてくる。もう身体は触れてしまっている。次第に動きが機敏になっている。逃げる隙を全く与えてくれない。
もうだめだ、心の声が聞こえたのか、ふいをつかれて手を握られてしまった。
すると、即座に老婆は持っていたビニール袋から銀色のスプレー缶をすばやく取り出し、私の手の甲をめがけて噴射してきた。スプレーの勢いは凄まじく目の前が気化した液体で視界を曇らせた。老婆は声をあげて笑っている。噴射は暫く続き、やっと手を振り解いてくれた。手を確認すると、透明なサラサラの水のような液体でびしょ濡れになっていた。その液体が一体何なのか鼻を近づけて確認しようとしたが、知りたくないという思いが勝ってすぐにやめた。

私は駆け足でビルを出た。
外の世界は一見荒野のようなスラム街だった。もうずっと雨が降っていないのだろう、土は乾き切って雑草ひとつ生えていない。ジリジリとした太陽の下で何をすることもなくただ座り込んでいる子供たちが無数にいる。
私はゆっくりと進んだ。子供たちは睨んだりニヤニヤしたりしながら通り過ぎる私を目で追った。何を考えているのかわからなくて怖い。
しばらくすると、1メートルは重そうな青い卵を掲げた少年が走り迫ってきた。黒髪短髪で肌は黒い。6歳くらいだろう。少年はそのままその青い卵を大きく振りかぶり、私目掛けて投げた。私は身を屈めてギリギリ回避した。しかし、卵は何個もあるようで、次から次へと投げてくる。私は慌てて当たらないようにジャンプをしたりしゃがんだりして避けた。砂埃に紛れて、私は近くにあった建物の影に隠れた。危なかった。一息ついた私は、見つからないようにさっきの青い卵の行方を確認した。すると、私に投げた青い卵のひとつが少し割れ、中が赤く光り始めていた。それをその少年が両手でまた頭上に高く持ち上げ、「今から訓練するからみんな離れろ!」と、奥にある瓦礫の山に向かって勢いよく投げた。その卵はみごと瓦礫に衝突。ドーーーーンという爆音と共に爆発した。
ギャラリーの子供たちが、ウォー!と歓声をあげ嬉しそうに騒いでいる。あたってたらやばかった。ゾッとした。

私は急いで幼馴染がいる場所に戻ろうと走った。砂埃と熱気で呼吸がしにくい。
すると、一人の少女が話しかけてきた。
「ねぇ、私たちお腹すいて死んじゃうの。バナナが偽物しかなくて困ってるの。妹たちに何か食べさせないといけないの。」と私の走る速度に合わせてついてくる。
なんとなくそれは嘘ではないかもしれないと少し思ったが、無視をしながらビルに入った。少女はまだついてくる。路地に戻ってきた。気付けばバナナを探している自分がいた。あった。重そうなのでとりあえず2房買った。そのまま並走している少女に差し出そうとしたが、やっぱり思い直してやめることにした。私は幼馴染と家族の待つ場所に急いで向かった。少女はまだバナナのことを言っている。
私は決意し、「あなたにはあげない。」と初めて話しかけた。少女は諦めたのかいなくなった。

私は幼馴染や家族の暮らす平和な美しい世界に戻るため、コンクリートビルの入口から元来た世界に出た。
しかし、こちら側の世界も、出口の世界とまったく同じ荒野にかわっていた。灼熱の下、土埃が立ち人は誰もいない。
幼馴染も家族もどこかに消えている。私は、この先何が起こるかわからないので体力をつけておこうと手に持っていまバナナを食べた。ふと横を見るとさっきの少女がしゃがんでいた。そして、「この世界は変わった。」とボソっと言った。私は食べかけのバナナを彼女に投げた。

幼馴染を探さなきゃ。私は誰もいない荒野を進んだ。土埃でほとんど見えなくなっている横断歩道を渡ると、曲がり角に弁当屋があった。無人だが、値札シールの貼った弁当や巻物がたくさん新鮮な状態で売っている。私は、みんなのためにお腹にたまる食料を買っておこうと、炎天下でも腐らなそうな干瓢巻やおにぎりを買った。どうやって支払ったかは覚えていない。

すると、白猫が近づいてきた。長毛で毛並みがよく、美しい青い目をしている。気品の高い顔立ちだ。しかし、ツチノコのような平べったい胴体で、ヘビのようにニョロニョロ歩く。猫は私の足に噛みつこうとしてきた。私は驚き踏みつけようとしたが、動きが素早く踏みつけられない。猫は牙を剥いて威嚇している。私は対抗するのをやめて逃げようと、横断歩道を渡った。猫は追いかけてこない。
私はほっとして、猫の姿をもう一度確認した。
すると、猫は、ちょこんと美しく座り、私に使って「気をつけろよ。」と言った。低く、気高いオスの声だった。
私はこの先も嫌な予感がした。
とりあえず巻物をかじった。


2022/8/5

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