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【夢日記#16】カード使い龍星

龍星という男は、新橋の雑居ビルでバーテンダーとして働いている。
彼はバーテンダーとしてもそこそこ評判であるが、それ以上に彼のタロットカードが当たると巷で有名になり、そのバーには昼間から龍星のファンだという4.50代の女性がこぞって集まっていた。

昼過ぎ、私はカウンター席に座っていた。
ガラス窓からは駅を見下ろすことができ、サラリーマンたちがゾロゾロと歩いている。そうか、今日は平日だ。
15席ほどのそのバーは、すでに女性たちで埋め尽くされており、いかに龍星はすごいかという話で盛り上がっていた。
ファンの集いと言った方がしっくりくる。
その異様な空気感に馴染めないでいた私は、女性たちと目が合いそうになったら逸らしてみたり、やすりをバックから出して爪を磨いてみたり、なるべく意識だけでもその場から離脱しようともがいていた。
しかしついに「あんたもつまんなそうにしてないで占ってもらいなさいよ!」と、小太りのおばさんに絡まれてしまった。
聞こえないふりをしてみたが、すでに女性らの視線は私に集中しており、どうにもならなかった。
私はそのまま龍星の前に押し出され、占ってもらうことになった。

龍星のユニフォームである黒いベストのポケットから、紫色のカードが取り出される。
マジシャンのような手つきでひらりとカードが一枚めくられた。
すると彼は一瞬、はっと驚いた顔をして、またすぐに真顔に戻った。
そして、思い詰めるように静かに言った。
「君もカードをやった方がいい。」
思ったよりも低い声だった。
え、どういうこと?予想をしていない占い結果に戸惑った。
バーを見渡すと、女性たちが口をあんぐり開けて私を見つめていた。
そしてしばらくすると、隣同士こそこそと「あの龍星が認める逸材ってこと?」などと耳打ちをしながらざわめきはじめた。
どうしようかと、龍星の顔を改めて見上げてみると「さあ」と、新品のカードを私に差し出した。
え?本当にこの私がカード使いに?私は戸惑った。
(カード使いだなんて興味もないし先行き不安すぎる)
心の声が聞こえてしまったのか、龍星はどきっとした様子を見せてオロオロし始めた。
彼も将来について悩んでいるのかもしれないと思った。


2022/8/20

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