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調査技術 尾行の準備

第1編  尾 行

第1節 尾行とは

調査の基本には、張り込みと尾行があり、ともに対象者の行動を監視することにあるが、張り込みは一定の場所での監視であり、尾行は移動による監視である。まず、張り込みがあってから、対象者の移動によって尾行が始まり、対象者が一定の場所に停止すれば張り込みに移行する。常に、張り込みと尾行は一体になって調査が進むが、ときには張り込みだけで調査目的が完了する場合もある。
対象者の停止と移動という状態に違いはあっても、尾行も張り込みも 監視するという点において同一であり、その監視によって、目的とする対象者の行為、対象者の接触を確認し、人物、その場所などが解明されることにおいても同じである。

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第1 尾行の意義


1.対象者自身に関する行為の解明


尾行は特定の人物の行動を監視することによって、その監視の対象となる人物(対象者)の行動から、或る事象を把握し、目的とする事実の解明(判明)をすることにある。
例えば、夫の行動に不審を感じた妻が、夫が不貞行為をしている疑いを持ち、依頼してきた調査で、その事実をつかむために行う調査は、夫を対象者として尾行し、夫自身の行動を尾行しながら監視することによって、不明だった事実が判明する。
夫が勤務を終えて会社から退勤し、異性と喫茶店で合流する。その後、二人は一緒に食事をし、カラオケバーで飲酒をし、ラブホテルヘ入れば、不貞行為の事実は確認される。
この二人の行動の一部始終を尾行者が追尾し、その状況を時系列で詳細に記録しながら、事実を裏付けるために写真を撮影し、対象者の行動記録に写真を添付した報告書を、依頼者(妻)に提出すれば、依頼者が目的とする夫(対象者)自身に関する不明事項(不貞事実の有無)が尾行調査によって解明されたことになる。

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2.対象者の行動から、対象者と接触する人物の解明


一人娘が最近になり帰宅時間が遅い、誰か特定の異性と交際している疑いがある。心配した母親は「娘が交際する異性が存在するのか」また異性が存在した場合、「その異性がどのような人物か」を調べたいという調査依頼があった。
これは尾行の対象者となる娘の行動の解明と、その娘と接点がある異性の人物像を解明する、という二つの調査目的がある。これも尾行によって解明させることが出来るが、娘が異性と一緒にラブホテルに入れば、一つ目の事実が解明されるが、この調査では、相手の異性の人物象を解明する必要がある。そのためには、ラブホテルから出てきた異性を帰宅するまで尾行し、その住所氏名を割り出すことになる。
さらに日を改めて、その異性宅の周辺で聞き込みをして勤務先を洗い出すか、異性が出勤するときから尾行して勤務先を割り出すことになる。その人物の経歴と、現在の生活状況の詳細を、聞き込みによって明らかにする調査を身上調査と呼ぶ。

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3.特定人物を調査して、その人物と接触する対象者を割り出す


妻子ある男と交際する娘が、その男との同棲生活を目的に家出した。ここでは娘の家出先の住所を明らかにすることが調査目的であり、本当の調査対象者は娘であるが、娘との交際がある特定の男を尾行すれば、男と娘との接点からたどれば、娘の所在は判明するので、当初は妻子がある男が尾行の対象者となる。この場合、男の休日の前日から退勤後の行動を尾行する、ないしは休日の当日に男の行動を尾行し、娘と合流すれば、その現場からは、娘を対象者として尾行し住所を判明させる。

 以上のように、尾行は不明事実を解明するために、有効な調査方法の一つであるが、上記 3 のように、調査対象者についての情報が不足している場合、対象者と交流がある人物の行動から、対象者を割り出して、不明事実を解明する手段としても、極めて有効な調査方法であり、ここに尾行調査の大きな意義と価値がある。
 刑事事件などでは、犯罪の立証を目的として、犯人がコインロッカーに隠した現金を突き止めるため、警察が被疑者を尾行し、コインロッカーから現金を持ち出したところを逮捕する例などでは、尾行によって“物”という証拠を把握し解明出来る。また、共犯者の自供からコインロッカーの場所が判明している場合、警察はその場所に張り込みし、主犯者が現金を取りにきたところを逮捕する場合には、張り込みから人物を解明させる例である。

<column>察知されたら目的は達成出来ない
人間は、自分の周囲で不安があることを好まない。その不安があればできるだけハッキリさせようとする本能が働くため、自分が置かれている立場、状況を確かめる行動に出てくる。
これが、警戒の初期状態である。警戒の初期状態であっても、その段階から尾行・張り込みの遂行は、極端に難しさが増してくる。さらに、尾行・張り込みが「発覚」すれば調査の続行・継続は不可能となり、同時に目的の達成も不可能となる。従って、尾行・張り込みは「目的達成」と「察知されない」ことが第一である。

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第2 尾行の種類


尾行には、対象者が行動する形態によって、以下の2つがある。
*徒歩尾行
*車両尾行(二輪車尾行を含む)
さらに、尾行する側の形態によって、以下の3っがある。
*単独尾行
*複数尾行
*リレー尾行

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実際の尾行では対象者の行動が、自動車 → 徒歩 → 一般交通機関 → タクシー → 徒歩とその形態と順序は一様ではなく、尾行の開始が自動車尾行であっても、その状況によって、あらゆる行動形態の可能性を考慮し、前述の形態の全ての組合せを想定した準備と実施が要求される。
尾行の通常は、張り込みからスタートするが、対象者の行動の変化で、尾行が張り込みとなり、対象者が複数名で分裂して別行動をとれば、複数尾行であったものが、二つに分れ各々が単独尾行となる。
対象者が待ち合わせ場所で別人と合流したとき、その人物が調査目的(尾行目的)に関係する可能性がある場合は、事前の情報と資料、それに状況を併せて判断したうえ、最初の対象者と合流した人物を新たな対象者として追尾する必要が生ずることがある。さらにこの場合、調査目的と状況判断によって、尾行が二つに分れて各々が、単独尾行となるケースと、最初の対象者を除外して合流した人物だけを複数尾行するケースがある。
例えば、調査目的が対象者の行動と、対象者と接点がある異性との不貞行為を明らかにすることであれば、最初の対象者を追尾する理由が薄くなり、合流した人物(異性)の住所・氏名を明らかにするために、最初の対象者は除外し、合流した異性のみを対象として複数尾行をすることになる。
しかし、最初の対象者が複数の異性と不貞行為が疑われている場合には、その時間帯、接点時の状況、場所などを判断し、複数尾行が二つに分れて対象者と合流した人物のそれぞれを尾行することになる。このとき、対象者ないしは合流した人物が、どんな交通手段で移動するかが問題となる。
徒歩尾行であってもタクシーの利用があることを想定して、尾行用の車両を配備し、無線連絡などによって、いつでも車両尾行が出来るような態勢が必要となる。これが徒歩尾行→車両尾行へのリレー尾行である。
このように、調査目的、事前の情報、そのときの状況などによって、尾行する形態を変化させて対応しなければ目的は達成されない。

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第3 尾行の心構えと準備


1.尾行の心構え


尾行は、その態様が異なっていても、いずれも対象者に気付かれないように、その行動などを看視するものであり、高度の技術を必要とする。また、その性質上、長時間にわたって行なわれる場合が多く、精神的、肉体的な苦痛を伴う場合が多い。したがって、尾行にあたる調査員は、次の点に留意しなければならない。
(1) どんな精神的、肉体的苦痛にも耐え職責を全うする根性を持つこと。
(2) 観察力、記憶力など、尾行・張り込みに必要な適性を養うこと。
(3) 尾行の技術について平素から研究し、訓練すること。


2.尾行の準備


尾行の実施にあたっては、実施場所、周辺の環境、実施対象の行動等を事前に検討し、次の準備をしなければならない。

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a)調査対象について予備調査すること


調査員は尾行調査を着手する前に「予備調査」を行う必要がある。対象者を自宅から尾行する際に、張り込める場所はあるのか?通勤時の交通量は?、電車なら駅はどこにあるのか?バスならバス停はどこにあるのか?会社には出入口がいくつあるのか?張り込みは、どこで行えば適当か?など、調査員が実際に出かけて自分の目で確認し、できるだけ情報を集める。自宅から会社の間の対象者の行動範囲についても、状況が分かっているほど尾行は成功する。
次に対象者の顔確認である。通常は依頼者から最近撮った写真を2~3枚(顔写真、全身)提供してもらうが、そこで注意しなければならないのは、10年も前の写真や、現実の姿とは似ても似つかない「良い姿」の写真を渡されたときである。ウッカリ写真の通りの人物を想像していると、本人確認の段階から見落としになり、失敗することがある。
他にも、生年月日(年齢)と見かけ上の年齢、身長、体重はもちろん、それこそ、朝何時に起きて、何時に家を出るなどから始まり、通勤路→通勤手段、持ち歩くカバンの色や、形、歩くときはガニ股なのか、内股なのか、駅のキオスクで必ず特定のスポーツ新聞を買うとか、すぐに頭を掻くなどのクセ、仕事は外回りなのか、内勤で1日中会社に居るのか、さらに毎週火曜日は会議があるなど週間のスケジュール、月1回は、ゴルフに出かけるなどの月間スケジュール、および行きつけの飲み屋やパチンコ店はあるのか、趣味は何か、また、対象者が車を運転するなら、スピード狂か、慎重派なのか、周りの車を気にするタイプか、信号無視や割込みをするのか、行動予測に役立つことは、確認しておく。例え、徒歩通勤であっても、いつも使用する車のナンバー、型、色、タクシーをよく使うのか、それによって変わる行動に対応する準備を怠ってはいけない。
調査対象者が自転車を使うという情報があれば、事前に自転車を用意できるし、パチンコが趣味で、帰宅途中によく遊技することが分かっていれば、もし、尾行中に見失ったとき、パチンコ店を探して見つけることも出来る。
しかし、情報を信じ過ぎてはてはいけない。矛盾するように聞こえるが、情報に頼りすぎると大きく見誤ることがある。情報は参考程度にしておき、これまでの自身の経験から対象者の行動を予測することが極めて重要である。

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実際の手順は次のとおり
  *対象者関係の情報確認
   実際年齢(見かけ上の年齢も)、職業、身体的特徴、写真(複製)、車輌についてのデータ、運転上のクセ、通常の行動ルート、地図(複製)、日常の行動(立寄先)と当日の行動予定、趣味など。
  *調査目的の確認
   単なる行動調査か、対象者の不貞行為の証拠収集か、相手人物の特定か、などを把握する。
  *対象者の人間関係、
   仕事上の関係者、遊び仲間、会合活動の仲間などの把握。
  *着手場所(調査開始場所)の確認
   現場および、その周辺の道路事情の確認把握、張り込み場所(位置)の想定、対象者の駐車場の位置関係の把握、現着までのルートなど。
  *必要機材の準備と点検
   機材だけではなく、服装、メモの用意、当日の天候、などもチェック。
  *現場の下見
   このとき、張り込み位置のチェックをするが、調査車輌から対象物の視界を検討、車輌から離れて、張り込み位置が最適か、などをチェックするが、これらの行為が周辺から目立たないように注意する。同時に出入口の位置を確認。
  *当日の調査着手時刻、集合時刻、出発時刻、待機場所などの確認。

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b)服装について検討しておくこと


尾行は、相手に気付かれないように監視するのであるから、服装についても充分注意しなければならない。たった一人の調査員の不注意によって、尾行、張り込みを困難なものとするのみでなく、場合によってはその後の尾行、張り込みが不可能となることもあるので、事前に充分な準備をしておくことが必要である。
なお、張り込みの場合は、服装については関心が薄くなりがちであるが、張り込みから尾行へ直ちに移行する場合もあるので、張り込みの場合であっても、服装については、慎重に配意しなければならない。
服装は、その環境に調和したものとし、不自然になったり、奇異になったりしないように注意すること。オフィスならスーツ、住宅街なら軽装と考えがちだが、いざ、尾行になって全く違った環境になることも十分に考えておく必要がある。環境は時間帯によっても変わる場合もあるので、当日の対象者の行動を予測して、服装を検討することが重要である。ジャラジャラと音が鳴るアクセサリーや革底の靴などは論外である。靴はスニーカーやソフトタイプの革靴など、歩き疲れない靴がよく、且つ、靴底は音が鳴らないゴム底の物を選ぶこと。

c)旅費・交通費等の必要経緯費を準備しておくこと


尾行、張り込みにあたっては、旅費(タクシー代等)や食事などに必要な費用を準備しておかなければならない。Suica等の電子マネーの残高は事前にきちんと確認し、電子マネーが使えない場合も考慮し、支払が迅速にできるように小額紙幣と硬貨を準備しておく。1万円札や5千円札より千円札を多めに入れておくと良いだろう。急な遠方への出張も考慮しJCB・VISA・MASTER等の主要クレジットカードは必携である。

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d)メモ用紙を準備しておくこと


尾行に従事したときは、着手日時、場所、対象の行動、その他参考となるべき事項をできるだけ詳しく観察記憶し、事情の許す限りメモしておくようにしなければならない。そのためには、手の平サイズのメモ用紙をあらかじめ準備しておくことが必要である。メモ用紙はポケットの中で記入する場合もあるので、平素からメモを見ずに記入できるように訓練しておくことが必要である。
スマホやボイスレコーダー、カメラ等の機器でも記録は可能であるが、発声や撮影は目立ちやすく、操作中に目を離してしまうなどの欠点から尾行に慣れるまでは使ってはならない。

e)撮影機材の準備


尾行には、コンパクトデジカメとビデオカメラを携行する。近接撮影はコンデジ、ズーム撮影はビデオカメラと2つを使い分けて撮影する。コンデジはノーファインダー撮影が基本なので訓練が必要である。ビデオカメラ撮影においても撮影方法は通常撮影とは異なる。(詳細は「撮影技術」に記述)また、機種によってはコンデジでもズーム撮影が可能であるが、案件によっては静止画だけでなく動画提出の場合もあるので、ビデオカメラは必要である。
使用に適した機器は、コンデジなら広角28㎜、ISO感度6400以上、画質はフルHDで十分だが、液晶パネルが上に開くタイプが使い勝手がよく、HDRや夜間撮影モードが高性能だとよい。ビデオカメラも画質はフルHDで十分だが、暗所撮影が高性能でないと使い物にならない。イメージセンサーが1.0型クラスか夜間撮影モードが高性能な機種を選ぶこと。GO-PRO等のアクションカメラは意外に使いづらいので利用シーンが限られてしまう。また、Wi-Fi機能があれば、遠隔操作ができ撮影シーンの選択肢が広がるが、一番重要なのは起動の速さとシャッター押下時のタイムラグの少なさである。これが遅いと撮影タイミングを逃してしまう。
使用前は、偽装の為に黒い布等でボディを覆っておくこと。また、機能をよく理解し、使いやすいように設定しておき、特に日時設定は秒単位で必ず合わせることを数日おきに行うことを怠ってはならない。

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f)対象者及び関係者等に察知された場合の応答


対象者及び関係者等に察知された場合の応答を考えておくこと。尾行は相手に察知されてはならないのであるが、ちょっとした行動の不自然さから相手に察知され、いろいろと質問される場合もある。したがって、そうした場合を想定して、身分、氏名、職業、用件などの口実をあらかじめ考えておき、自然な態度で応対できるようにしておくことが必要である。この口実の内容は、自分が事情をよく知っている郷里とか、家業、友人の職業、住所などを選ぶのが無難であるが、自分の服装、所持品などとも矛盾しないよう慎重に検討して用意しなければならない。
張込み時は、付近の住民や関係者から不審がられて声を掛けられることが多い為、偽りの身分の他、何故ここにいるのか?の問答を想定しておくことは非常に重要である。対象者と関係がない人物でもあっても「張り込んでいる」「探偵である」等の返答をしてはならないが、相手によっては、全てを言わずとも自ら察し、協力してくれる場合もある。必ず見極めてから応対すること。その場合でも、調査内容について漏らしてはならない。どう応対するにしても、きちんと返答できないと余計に怪しまれ、対象者への伝聞や警察への通報で調査継続が困難になってしまうことを忘れてはならない。

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