小説のかけら 5【ただ月の光が見下ろしていた】
人の話を真面目に聞く気はあるのかと、ついに彼が私のイヤホンをそれでも気を遣ったのか片方だけ引き抜いて言った。私は片方だけになったイヤホンから壊れたように繰り返される「I only want to be with you」を聴きながら彼の怒った顔を見上げていた。まるで嘘のように禍々しいストロベリー・ムーンの光がレースのカーテンの隙間から差して薄暗い室内を照らした。
しかしながら、お互いの顔を確認するには充分な光だったのだろう、何を笑っている、と彼が私に尋ねるではなく淡々と