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子どもたちに水辺で命を守るための体験を! 長崎県川棚町で開催された「ライフジャケット着用教室」レポート

今年は多くのイベントやお出かけスポットでの賑わいが見られましたが、それと同時に、水辺での事故も増えていたことが気になりました。今回は、今後、水辺へ出かける皆さんにぜひ知っていただきたい活動についてご紹介したいと思います。この記事が、命を守る大切さ、守るために必要なことについて今一度、考えていただくきっかけになれば幸いです。

長崎県東彼杵郡川棚町で行われた「ライフジャケット着用教室」

「海と日本PROJECT」が推進する、ライフジャケットレンタルステーションは、単にライフジャケットの貸し出しや管理を行うだけではなく、ライフジャケット利用のニーズを創出し、ライフジャケットと水辺の安全啓発も目的としています。
 
その普及啓発活動の一環として今年の3月末、ステーションが設置された長崎県東彼杵郡川棚町で、海と日本プロジェクトin 長崎県実行委員会と川棚町教育委員会主催のライフジャケット着用教室が開催されました。今回は、ライフジャケットレンタルステーションでは実際にどのように活動が行われているのか、参加者の様子や開催に携わった関係者の声とともに活動の様子をお届けします。

回の会場、長崎県川棚町にある「川棚大崎温泉しおさいの湯」は、大村湾に突き出た大崎半島の一角に位置する日帰り温泉施設。教室は、波音静かで美しい海岸線を一望できるこの施設が所有する温水プールで第1部、第2部の2回に分けて開催されました。

「川棚大崎温泉しおさいの湯」

地元企業により寄贈されたライフジャケットを着て、命を守る方法を学ぶ

取材をしたのは第1部。参加者は、近隣地域に住む、年少から小学5年生の子どもたち4名と長崎県ライフセービング協会のライフセーバー3名。挨拶と準備体操を終えると、子どもたちは会場に用意されたライフジャケット設置コーナーへ。ライフジャケットは2023年1月に、廃棄物処理業などの事業を行う地元企業のハラサンギョウ株式会社により川棚町に寄贈されたものです。

子どもたちは、複数あるライフジャケットの中から自分の体格に合うものを選んで着ていくはずが、着慣れないライフジャケットの扱いに少し苦戦気味。ですが、命を守るためにもライフジャケットは必ず正しい着方をしなければいけません。子どもたちは、ライフセーバーからベルトの着用や股紐を通す重要性などを教わりながら、着方をしっかりと学んでいきました。

しっかり覚えよう! 安全な入水の仕方やライフジャケット着用の利点

ライフジャケットを着たら、いよいよプールで入水。ここでも、事前に体に水をかけて水温をチェックし、プールの縁に両腕をかけて体を支え、おしりを滑らせてゆっくりと水に入る、安全な水への入り方「スリップイン」を実践。シャツを着たままの入水ということもあって違和感もあるけれど、やっぱりプールは楽しいとばかり、子どもたちは早くも大興奮!

そんな子どもたちに、ライフセーバーは、「浮力」「衝撃吸収」「保温」というライフジャケットの利点について紹介し、ライフジャケットの着用がいかに安心安全につながるかをしっかり説明していきます。さらに、浮き方や呼吸確保の仕方、水中でのライフジャケットの着用法を伝え、実践させます。

ライフジャケットの浮力に慣れず、バランスを崩して水に顔をつけてしまう子や、上手く浮けない子も、何度もトライするうちに、コツをつかんでちゃんと浮けるように。子どもたちの覚えの速さと柔軟性にはとても驚かされます。また、こうした直接の体験を通じて、実際の方法を体で理解し、修得することができるんですね。

着衣泳やみんなで協力して救助を待つ術も。命を守るためにできることはたくさんある!

ライフジャケットにも慣れてきたところで、続いては「ハドルポジション」の実体験。ハドルポジションは複数人で救助を待つ際に使われる姿勢のことで、これも命を守るために必要な技の一つです。

お互いの肩につかまり、顔を見て言葉をかけ合い、協力しながら行っていきます。もしライフジャケットを着用していない人がいれば、着用者の間に挟んで肩を貸す。そんな応用の仕方についても学んでいきます。初めての実技体験ですが、見守る大人、そして一緒に助け合える仲間がいるからか、子どもたちは安心した様子で、楽しそうに課題に取組んでいきます。
 
緊張もほぐれ、絆も深まったところで、いったんプールサイドへ戻り、ジャケットを着脱。今度は、水着と衣服を着たときの違いを知る体験として、着衣泳を学びます。着衣のままプールへ入り、まず行ったのは「浮き身」。衣服を身に着けたままだと濡れて重くなった衣服が体にまとわりつき、当然泳ぎにくくなります。さらに浮き具のない状態だった場合、仰向けになり、体を浮かせて浮き身の姿勢をとることが命を守ることにつながります。浮くときのポイントは、力を抜くこと。こちらもすぐにコツをつかんで、水にぷかぷかと体を浮かせて漂う子どもたち。ライフセーバーからも「上手に浮けてるよ!」と言葉をかけてもらいながら、楽しく学びを進めていきます。

続いては、プラスアルファの知識として、衣服に空気を入れることで浮力を確保できるという学び。浮き身をしながらおなかの服の部分に空気を入れて膨らませ、体を浮かせます。「こんなことができるなんて知らなかった!」と子どもたち。

ペットボトルやランドセル、身近なものも救助ツールに早変わり

水に浮く技を身につけた子どもたちが続いて学ぶのは、ペットボトルやランドセルなどの浮き具を使用した浮き身。まずはライフセーバーがお手本を見せます。その姿からイメージをつかんだ子どもたちは、今度は自らが挑戦。胸の前に2Lの空のペットボトルをしっかり抱え、水面に顔を出した状態で体の力を抜いて上手に体を浮かせます。

続いて挑戦するのはランドセル。「ランドセルも浮き具になるなんて!」と驚きつつ、子どもたちは教科書などが入っていない、空状態のランドセルを胸にしっかり抱え、浮き身を実践。子どもたちの落ち着いて取り組む様子からは、すっかり水に慣れて、緊張がほぐれてきたことがわかります。

浮き身を覚えた後、ライフセーバーが教えてくれたのは、ペットボトルを使ったレスキュー法。「レスキューの際、ペットボトルが空の状態と水が入った状態では、どちらが良いか」という質問がありましたが、答えは、「少し水を入れる」。理由は離れたところにいる溺水者にペットボトルを投げる際、重さをつけることで飛びやすくなるから。身近なものをレスキュー道具に活用する際には、投げ入れ方などもしっかり覚えておかなければ上手く活かすことができない。そういった具体策も重要な学びの一つです。

子どもたちがたくさんの学びを得た50分間の教室が終了!

ここまで、水辺で命を守るためのさまざまな方法を学んだ子どもたち。再びライフジャケットを着用し、最後はおまけとして、水辺で人々の命を守るプロであるライフセーバーが行っているレスキューをデモ体験。使うのは、救助機材であるレスキューチューブ。このチューブに2人ずつつかまり、ライフセーバーがチューブについたロープをつかみ、引っ張って搬送していきます。

そして、この状態でプールを一周。初めてふれる機材に興奮しているのか、まだまだ体力が有り余っているのか、子どもたちはバタ足をしたり、大はしゃぎ。ほどなくプールを一周して、ライフセービング体験が終了。

プールから上がり、最後は「みんなしっかりできたので、今日の授業はこれで終わりです。ありがとうございました!」「ありがとうございました!」とライフセーバーとの挨拶を交わし、50分間のライフジャケット着用教室が終了しました。

体験を通して、水辺で遊ぶ怖さ、命を守る大切さを教えてもらえた

終了後、子どもたちの様子を見守っていた保護者の方に、今回の教室に参加した感想を伺いました。
 
知人が持っていたライフジャケットを見て、浮き輪より安全なツールだと感じたので、実際にどういう風に使うのか興味があり、子どもを参加させました。今日の教室での活動を見て、やっぱり着用する方が安全ということに確信が持てましたね。子どもも着用することを怖がることなく、楽しそうに活動する様子を見て安心しました。
 
実は、ライフセーバーの方にお会いするのも初めてだったんです。存在は知っていたのですが、自分の身近な場所でこんな活動をされている方々がいると実際に見て知ることができてよかったです。こういう体験を通して、水辺で遊ぶ怖さ、命を守る大切さを教えてもらえると親としても安心できますよね」

ライフジャケットの重要性と命を守る取り組みを心がけてもらうきっかけになれば

また、ライフジャケット着用教室を主催した川棚町教育委員会の川村崇臣さんに、今回の活動について感想や想いについて伺いました。

川棚町教育委員会の川村崇臣さん(左)と内田まるみさん(右)

―今回のライフジャケット着用教室ですが、開催にあたり、どのような思いがあったのでしょうか。

水辺で遊ぶ際にもしもの事故が起きてしまうと、みんなが悲しい、残念な思いをすることになります。それが少しでもなくなればいいなと思っています。私も自分の子どもを魚釣りに連れていくことがありますが、着慣れていないせいか、ライフジャケットの着用を結構嫌がってしまうんですよね。でも、小さい頃からこういう活動を通じて着用する体験をすれば、その後も着用し続けるきっかけになるのではないかと思います。

―今日の子どもたちの様子を見て、いかがでしたか。

ライフジャケットを着て本当に浮くんだとか、正しい着方をしなければ命を守れないなど、体験しなければわからないことがたくさんあったのではないでしょうか。とても楽しそうだったことも含めて、大事なことを楽しく学べたのではないかと思います。今回の経験がもしもの時に活かされ、命を救うことにつながってほしいです。

―寄贈いただいたライフジャケットを今後、どのように活用し、活動を発展させていきたいですか。

レジャーや体験学習などの機会に使っていただけるよう、貸し出していきたいですし、皆さんにもぜひそういう機会を活用していただきたいです。ライフジャケットレンタルステーションも、皆さんに貸し出したライフジャケットを着て使ってもらい、経験してもらうことで初めて事業価値が出ると考えています。ライフジャケットの重要性と命を守る取り組みを一人ひとりが心がけてもらえるきっかけを作っていければと思っています

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教室開催後、「仰向けに浮くことを覚えた! 楽しかったからまたやりたい!」という子どもたちの声を耳にしました。今回、教室での活動を見ていて何よりも印象的だったのが、参加した子どもたちが本当に楽しそうに、そして自然に学ぶ姿。こんなに楽しみながら大事なことを学べるなんて、より多くの子どもたちにぜひ参加してもらいたい活動だと心から思いました。
 
教室が開催されたのは、海に囲まれているエリアですが、聞くところによると近場に海水浴場は1つしかないとのこと。身近に水辺があっても、水辺での遊びを体験できる、水に慣れているとは限らないものなのですね。だからこそ、今回のような活動は本当に意味のあることなのだと思います。一つの学びや経験が、命を救うことにつながるかもしれない。きっとこの教室は、この「かもしれない」を「きっとそうなる」という思いに変えてくれる、貴重な活動になるのではないでしょうか。機会があれば、ぜひ皆さんも参加してみてください。