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レジリエンス ⑤SE療法

ステファン・W・ポージェス博士「ポリヴェーガル理論」で、人間の「心」と「身体」は切り離された存在ではなく、自律神経系を通して全体で機能していることを説いた。

「腹側迷走神経複合体(他者とのつながりを促進する迷走神経)」が健全に機能している時、人は、友好の合図を送り合い「逃走、闘争反応」には走らない。

その場合「背側迷走神経複合体(消化吸収や睡眠などを司る迷走神経)」も機能しているので、胃腸をはじめ全身状態が良好である。
脳にも十分な血流がいきわたり、明快な思考、的確な状況判断が行える。

こうした自律神経系の働きが乱れると、臓器が調整不全に陥り、思考の混乱、感情の荒廃が起こる。

私たちは、脳こそが、生命や精神的な活動の司令塔だと思っているけれど、むしろ身体からの信号が、思考や自己像、世界観に多大な影響をもたらしていたのだ。


これらの説明の後、私は、カウンセラーから「ソマティック・エクスペリエンシング(SE)療法」を提案された。

「ソマティック・エクスペリエンシング(SE)療法」とは、前述の「ポリヴェーガル理論」を元にピーター・ラヴィーン博士が開発したトラウマ療法である。

これは、トラウマのエネルギー(緊急時に完了せず神経系に滞ってしまった「逃走、闘争反応」のエネルギー)を解放するのに、最も適したアプローチだと言われている。

従来の心理療法は話をすることが中心で、考え方や行動、気付きに重点が置かれていた。

過去の辛い体験を話し、感情を解放することが、回復につながるとされてきたからだ。

「SE療法」では、その上でさらに身体の感覚を大切に扱い、少しずつゆっくりと身体に働きかけることで自己治癒力を取り戻していく。


私の体験した「SE療法」は、次のように進められた。

①「今・ここ」が十分に「安心・安全」であることを確認する。

ゆっくりと部屋を見回し、温度や湿度、飾られた絵や花、外から聞こえてくる音などに注目し、確認する。

②過去のトラウマ体験の核心に、少しずつ触れていく。

思い出したり、話そうとするだけで、嫌な感覚が起きてくることがあるので、自分の身体の反応に注目しながら進める。

③興味をもって、自分の身体の反応がどうなるのかを観察する。

「今、あなたの身体は何を感じていますか」
「それは、正確にはどのへんですか」
「その大きさは、どのくらいですか」
「怒りを感じた時、身体はどうなりますか」

このような質問に答えながら、自分の身体の感覚を探っていく。

嫌な感じが起きてくると、無視しようとしたり、逆にどっぷりとはまり込んだりするが、その身体感覚にも、意識的に気付くようにする。

④怖がらずに身体に任せて、身体がやりたいようにやらせてみる。

防ごう、逃げようという、防衛反応の動きが勝手に出てくることもあれば、嫌な身体感覚が自然と収まっていったりすることもある。

蓄積されていたトラウマのエネルギーが自然に放出されると、身体がじんじんしたり、温かくなったり、呼吸が深くなったり、緩んだりするのが体感できる。

⑤「今・ここ」へ意識を戻し、「安心・安全」であることを確認する。


「凍りつき」や「乖離」は、痛みや感情を麻痺させることでもあるので、身体に戻ってくる=感じたくなかった感情や痛みに触れることでもある。

人は、言葉では「大丈夫です」と言っていても、無自覚なまま表情に、怯えや不安が浮かんでいることがある。また虐待などの辛い体験を、笑顔でニコニコしながら話すこともある。

「凍りつき」が溶けてくると、不安や、恐怖や、怒りがどっと出てくるので、少しずつ、時間をかけて進めていく。
慎重に、心と身体の安全を保ちながら、身体感覚を取り戻していく。

こうしたプロセスを繰り返していくことで、次第に本来の自己治癒力が戻り、自律神経生理の自己調整能力が回復してくる。

自己調整能力が健康な状態では、人は、すぐに通常モードに戻ることができるため、些細なことでは不安や恐れを感じなくなり、怒りも静まるようになってくる。

そうすると自分自身への安心感が増えて、矛盾がなくなり自己一致する感覚、自分らしく生きているという実感が持てるようになっていく。

そうして「トラウマから解放された」という実感が出てくる。


「SE療法」は理論上、とても優れたトラウマ治療の心理療法であると言える。

私は実際に、幼少期の辛かった出来事を話している最中に突然、背中の左下辺りが痛みはじめたことがあった。それと同時に、胸元や胃の辺りが、冷たい風を当てられたようにスース―する感覚を感じた。

話の内容との因果関係はわからない。カウンセラーに言われるがまま、意味や理由は敢えて考えず、ただその感覚だけを味わった。

痛い。スース―する。痛い。スース―する。

すると話を進めていくうちに、不思議とどちらの感覚も弱く、遠くなっていき、やがて無くなった。

神秘体験でも何でもなく、誰にでも起こり得るごく普通のプロセスなのだそうだ。


心理療法は、問題や状況に応じて、いくつかの方法を並行して進めていく。

最終的にどんな自分になりたいのか、を考え、そのイメージを明確に持つことが大切なのだそうだ。

例えば「幸せになりたい」などのふわっとしたものではなく、「就職して自分の稼いだお金で旅行する」などのように。

私のなりたい自分は、「楽しんで創作表現をしている私」だった。

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