見出し画像

久しぶり。 煙草と 珈琲の香り。


珈琲が飲みたかった。

今日のオーディションは
自分の考えを述べることで
そのことについて
ずっとずっと ぐるぐる考えてしまって。
理想と現実と、その先と。
簡単に答えの出ない問いかけは
わたしの頭と心を
ぐちゃぐちゃに掻き回している。

珈琲が飲みたい。

目に止まった古めかしい喫茶店に
ふらりと吸い込まれた。

入った瞬間の 懐かしい香り。

それは
慣れ親しんだ珈琲の香り だけじゃなくて
煙草の香り、だった。


わたしの好きな あの喫茶店も禁煙になった。
この間 訪れたら
木彫りの灰皿たちは 姿を消していて
テーブルの上は がらん と広かった。

煙草が好きなわけじゃない。

喫煙の店で働いていたので
慣れて 気にならないと思っていたけれど。
煙草の煙りの燻製になっている自分に気づくのは
とても不快だった。


煙草の匂い。
今 よりも 後の残り香を考えて
やはり やめようかとも思ったけれど。
ブレンドコーヒーを頼んだ。

サイフォンで入れた珈琲。
ひと口飲んで ホッとする。

隣の男性が 新しい煙草に火をつけた。
まっすぐに こちらに流れてくる強烈な匂い。
マスク越しにも迫ってくる。
耐性がなくなってしまったからか。

煙草は 好きじゃない。

だけど。
好きな人の煙草を吸う仕草や
その人の身体から吸い込む香りを思い出して
懐かしさと共に 胸が締め付けられる。


煙草は 好きじゃない。

だけど。
懐かしさと共に
しっかりと珈琲を飲みきった。
酸味の珈琲だった。


心の わしゃわしゃは
ちょっとだけ 落ちついて
だけど ぽちゃんと 沈んだ。


次に隣にやってきた男性は
座ったとたんに
汗拭きシートを取り出した。
人工的な なんともいえない匂い。

アイスコーヒーを一気に飲み干して
あっというまに 彼は去った。
汗拭きシートの匂いだけ 残されたままだ。


この匂いは 大嫌い。 


店を出ると
空気が清々しく感じられる。

マスク越しに 深呼吸した。



この記事が参加している募集

サポートしていただけたら とっても とっても 嬉しいです。 まだ 初めたばかりですが いろいろな可能性に挑戦してゆきたいです。