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匂いのわからなかった20年間

すこし、わたしの話をさせてください。
わたしは匂いが全く分からない、先天性の嗅覚疾患を持っている。生まれてこのかた、匂いというものを感じたことがない。わたしと同じく生まれつきに嗅覚が働いてない、という人に一度も会ったことがない。

なのだけど、この間noteの記事で先天性の嗅覚疾患の人に関する記事をよんだ。そのひともうまく自分の感覚と付き合っていきながら、面白おかしく生きていた。(このフレーズ、樹木希林さんのエッセイをよんでお気に入りなのです)

なので、ここで少しわたしの匂いのしない20年を振り返らせてください。

母、気づく


わたしの嗅覚が仕事をしていないことに気づいたのは母だった。当時わたしは3歳。きっかけは飴だった。
赤い飴をわたしにあげる。
赤だから、いちごとか、さくらんぼとか、りんごとか、色々味がある。
だけどわたしはいつも「りんごの味」としか言わなかった。
わたしは色で味を判断していた。判断材料が「甘い」「赤い」しかないので幼いわたしは「りんご」と言っていた。だいたい飴やかき氷のシロップの味って匂いなんですわ。

もしかしたら、と思って病院に連れて行った(この少ない情報で判断した母すごい)。
その時は医者に「この子は自分が匂いがわかっているかまだ認識がないので5歳になったらまた来てください」と言われたそうだ。

5歳になって再検査した。
激臭(危険はない)を染み込ませた紙を顔に近づけられてもわたしはなんともないのに、2メートル離れた母はしかめっつらをしていた。

わたしは先天性の嗅覚障害だった。

とはいえそんなに困ることもない

だからといって日常に支障があるほどではなくて。
味覚は正常、むしろ匂いがわからない分発達しているので人より少し良い。
甘い、しょっぱい、苦い、辛い、酸っぱい。
この5つを楽しんで

お味噌汁は、具を油で炒めると、その甘味でコクが出る。
「今日のお味噌汁油で炒めた?甘くて美味しい」
と家族でわたしだけ気づくと、母は喜んでくれた。

母はいつも、匂いがわからないならせめて彩よく、といつもお弁当をカラフルにてくれた。

カミングアウト?する?しない?

やっぱり少しだけ困ることはありまして。

火事になった時にいち早く気づけない。
自分の体臭が臭いか臭くないかわからない。
学校で匂いについて問われたとき答えられない。
みんなが香水つけてるのが羨ましい。 

ハーブとか全部葉っぱだし。フランス料理って香りが割と大事らしく。50種類のバターをハーブを使い分けるらしいけど、せっかく当選した上等なフランス料理のお店は「しょっぱい…」としか感じられなかった。ちくしょう。

バニラアイスを食べていて、なにがバニラかということに気付かされたのは中3のころだった。
みんなバニラの匂いを楽しんでいるのね。あれ。

年頃になるとみんな香水とかつけるけど、怖すぎてつけられなかった。
わたしもドルチェアンドガッパーナの香水の匂いを嗅いでみたかった。

でも、「特別扱いしろってこと?」と思われるのが少し怖くていえなかったからテキトーに合わせるのが常になっていた。

しかし親しくなった人にはそうはいかない。
それに少しサポートが必要なこともある。
だから、ある親しくなった人にはほんのちょっぴり勇気を出して、以下の3つをお願いしている。

①わたしの体臭や部屋の匂い、作ったものの匂いが悪かったりしたら言って欲しい。絶対に傷つかないしむしろありがたい。
②危険な匂いがしたら自身が危なくない限りしらせて欲しい。ただでさえ集中すると周りが見えなくなるので火事になったら多分逃げ遅れる。(一人暮らししているときコンロで布巾を2、3回燃やした)
③いい匂いがしたら知らせて欲しい。わかる人の世界を少し覗いてみたいから。

とくに③を伝えてよかったことは、元恋人がわたしをハグしたときに毎回「いい匂い」と伝えてくれたことだった。

面白おかしく生きていけばいい


一方で、わたしはどうしても人と違う感覚に生きてることになるのだけど、それを楽しんでいる自分もいる。

すかしっぺは分からないから盛大にこいていいよ、というと友達は笑ってくれた(苦笑だったらごめん)。

匂いを想像して色にしてキャンパスに落とし込むこともある。

障害があるとかないとか、あれができるとかできないとか、診断名などに限らず。

大切なのは、自分の出来ないことを把握して、誰かに具体的に言葉にしてサポートをお願いすることだと思う。
苦手なことは全力で得意な人を頼る。
その代わりに、その人が苦手なことで自分が得意なことは全力でやる。

現代社会に求められるものが多いのは、「みんな同じ」という意識があって、そうじゃない人は酷く非難されるされるからではなかろうか。みんな違うのが当たり前なのに。

おわりに

わたしの匂いがわからない20年はこんな感じ。
だとしても、匂いが分からないことがわたしの全てでアイデンティティではもちろんないし、それ以外のわたしの歴史もまた綴って行きたいと思う。
この記事で「こんなひともいるのね」と思ってくれたら。

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