森川海美

執筆は独白。公開は告白。

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心臓病になりたかった君へ

私は物心つく前に母を亡くした。幼い私は、幼心に自分がふつーじゃないことを憂いていた。 同級生の家には母親がいて、授業参観にも母親が来ていて、習い事のお迎えに母親が来ている。 小学校低学年の頃、母の日だか授業参観だかに合わせた図工の授業で「母親の似顔絵」を書くことがあった。母親がいない私は、悲しくて、虚しくて、ふつーじゃない自分が嫌で嫌で仕方なかった。先生に「僕はお母さんいないよ。」と言うと、「おばあちゃんでもいいよ。」と先生は言った。なんで私だけ、母親の絵を描けないのか。そ

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    • ネクタイピンと秋空

      私は物持ちがかなり悪い。買ったばかりのイヤホンなんてすぐ無くすか壊すかしてしまうものだから、音にかなりのこだわりがある癖に、安物のイヤホンで生活するようになったほどだ。 だが、貰ったものに関しては、とても物持ちがいい。ただ、捨てられないだけと言われればそれだけなのだが、兎に角、物持ちがいいのだ。 鞄の中だけでも、仕事に使っているペンは一つ前の交際相手からの贈り物だし、そのペンが入る筆箱は古い友人の誕生日プレゼントだし、タオルは入院中に当時の交際相手が買ってきてくれたものだ。

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      • 何もいらない。

        別に、もう、何もいらなかった。飛び抜けた才能も、巨万の富も、家庭も、夢も、苦痛も。 これ以上、何もいらなかった。全て、諦めていた。なんとなく、良くも悪くもない、いや、本当はちょっと悪いんだけど、自分を納得させながら、酔生夢死ではない程度の、それなりの人生が歩めれば、もうそれでよかった。 そんな私に、突然欲しいものができた。欲して、願ってしまった。とある人との、人生を。その人と共に歩む人生を想像してしまった。 無邪気でも蠱惑的でもあるその笑顔、指先までに至る所作、紡がれる言

        • それが悲しくて、今、泣いてる。

          人って、案外頑丈にできてる。死ぬほど辛い思いをしたって、時間の経過で立ち直ったり、忘れたりできてしまう。 例えば受験や恋愛、就活、こういった大きなイベントでの失敗は、人によっては人生の終わりを意識させる。 失恋した時、特に劇的な恋愛や若い頃の恋愛の後は、「死にたい」、「死ぬ」、といったような命を投げ出す台詞は、容易に出てくる。しかもそれなりの重みを持って。だって、本当にそれくらい辛いんだもん。 だが、そんな経験も繰り返せば「今、死ぬほど辛いけど、多分時間が経てば、この思

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        心臓病になりたかった君へ

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          最後のラーメンと共に終えた青春

          返ってこない日常はノスタルジーだ。日常とは当たり前の連続だから、機微には鈍感になるし、失われた後のことを想像するものは少ない。だからと言って、その為に現状を噛み締めて生きるのは多分違うし、噛み締めたとて、きっとノスタルジーに昇華される運命なのだ。人は失うまで、失えないから。 高校時代、私達は放課後にラーメンを好んで食べた。大抵は地元の家系ラーメン。新店舗ができれば開拓し、クラスに広めた。2年生のころだったろうか。最寄り駅前に家系ラーメンの新店舗ができた。味はそこそこだったが

          最後のラーメンと共に終えた青春

          マンホールになれたら

          昔の話だ。そいつはカラスが好きな女だった。カラスの濡羽色が好きだと、彼女は言った。カラスの色を「黒」だなんて言わない彼女、世界をよく観察して、美しいものを見つけてくるそんな彼女のことが、好きだった。 ある時、私は写真を撮って、彼女に送った。夜の雨に濡れたマンホールが、街灯の光を浴び、てらてらと反射している。その様が美しいと思い撮影に至ったが、大概の人間はこの写真を見ても「ただのマンホール」と答えることは想像に難くない。だけど彼女は違う。そして、私のことを、私の写真でも、彼女

          マンホールになれたら