「学びはどんなところにも起こり得る」“頭の使い方”を学ぶミューズ学習と学び続ける楽しさ 関西大学初等部教員Apple Distinguished Educator堀力斗
関西大学初等部の教員として、経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリー教材である「GIGA時代に対応した国民的教材『ごんぎつね』のSTEAM化」に携わり、iPadなどのApple製品を使った先進的な学びに取り組む教育者「Apple Distinguished Educator(ADE)」としてICT×学びを中心に深めている堀さん。
そんな彼が大切にしている”学び方を学ぶ”こと、そして、『生涯続く学び』ついてうかがいました。
“教える”は必ずしも必要なものではない
小学校の時から小学校教員になりたいという気持ちがあったと語る堀さん。
「先生になろうと思ったきっかけは、小学校5、6年生の時の担任の先生に出会った事です。人間味のあるアツい先生で、どんとこい!みたいな、握力56くらいあるようなパワフルな先生で(笑)教師としてというか、近くにいる大人として尊敬していました。はじめはその先生に憧れて教員になろうと思ったんです。
先生になるには、教育大学に行かなければと思い、親に教育大学の付属中学校を受験すると宣言しました。今思えば、付属だからって全然関係ないし繋がっていないんですが、当時はそう思って張り切っていましたね。」
その後、進学した高校で「教える楽しさ」に出会ったと言います。
「当時の担任の先生が、世界史の先生でした。先生の教え方が上手で世界史を好きになったんですが、自分はその先生よりも上手に教えられる!と思っていて。テスト前になると、オリジナルテキストをつくったり、友人を教室に集めて授業をしたりしていました。テスト後は、点数や評価のフィードバックをもらって、さらにいいものを提供できるように…と。それがとても楽しくて、いわゆる塾のような”教える”をやっていた時期でした。」
知識を誰かに教える楽しさに触れた堀さんは
いろんな視点から学びたいという想いから、総合大学の同志社に入学。教員になるという目標は変わらず、教員免許取得に向けて日々奮闘していたそうです。
「学ぶとは何か」学び合いとミューズ学習との出会い
そんな中、「学び」に対する考え方が大きく変わるきっかけがあったと話します。
「大学四年生のころ、『学び合い』に出会ったことで、僕の教育観が大きく揺さぶられました。教師が一方的に”教える”ことは、必ずしも必要なわけじゃないんだと気づいたんです。僕の中でとても大きな変化でした。」
『学び合い』の考えを自分の中で深め、その後晴れて大阪府の小学校教員になった堀さん。
「初任校では、『学び合い』を中心に実践していました。「全員が必ず達成する」目標だけ書いて、それぞれが関わり合いながら自分のペースで学習する、今でいう自由進度学習のような形をとっていました。5年間、いろんな学年で実践に取り組んだのですが……。その中で、もっとこう…学ぶとか、学習って教科書や指導書通りじゃない、もっと学習理論があるんじゃないかと思ったんです。」
”学ぶ”というものには、もっと法則や筋道があるのではないか。
そんな疑問を抱えていたころ、関西大学初等部の教育研究会のミューズ学習の思考力についての本に出会ったのだと言います。
「本を読み、自分のクラスの総合的な学習の時間で実践し、実践論文などを書いていました。実践と分析を繰り返す中で、『学びは、どこでも起こり得る。それをどう起こしていくかどう保証するかが大事だ』と改めて思いました。学び合いがどうとかではなく、その学習でどんな学びが起こっているかを教師側がデザインできているかが大切だと。」
関西大学初等部に、自ら執筆した実践論文を送った堀さん。
その熱意が認められ、2013年4月に採用されることになったそうです。
学び方を学ぶ、学習のメタ認知と『STEAM化ごんぎつね』
2013年から関西大学初等部での教員生活がスタート。
5年間、情報教育主任を務め、ICTと教育をかけあわせる学習について深めてきたと言います。
「僕が関西大学初等部で何をしてきたかというと、大きくいえば情報教育の分野です。2016年、関西大学初等部は、Appleの認定校ADS(Apple Distinguished School )に選ばれ、自分自身もAppleの認定教員ADE(Apple Distinguished Educator)になり、テクノロジーをいかに子供たちの学びに変えていくか考えて実践してきました。今、全国で一人一台端末をどうやって使っていくか試行錯誤されていると思いますが、その先駆けとなってやっていたのが本校です。そして、ICT活用に関わらず、思考力をどういう形で習得、活用していくかを考えることが大切だと思っています。「考えることを考える」ミューズ学習とSTEAM教育は自分の考えにぴたっとくると感じました。」
関西大学初等部では、新時代のIT社会に順応できる、数理的思考力と創造力を備えた人材育成を目的とした「STEAM教育」を展開していると言います。
<引用>
STEAM教育…科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)。芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学び
https://steam-japan.com/about/
「僕は、「学び方を学ぶ事」が大切だと思っているんですね。生きていると、何気ないところにもいっぱい「はてな」があります。でも、「はてな」を見つけたことがない人には、それがわからないし見つからない。その興味をもったものについて問いをもつこと、そして気になったことの掘り下げ方を知ることが大事だと思っています。
STEAM化の良いところは、その「はてな」をいろんな分野・教科横断しながら見つけていける点です。
「これって理科的にみたらこうだけど、社会科的にみたらどうかな?」とか。きっとそういう学びを経験することで、他の学びに転移させられると思います。
そのエッセンスが詰め込まれているのが『STEAM化ごんぎつね』です。
総合学習や探究学習の教材として、小学4年生の国語で学習する『ごんぎつね』をSTEAM化したものです。単なる国語教材としてではなく、理科や社会科の観点などさまざまな角度から学びを深化させることができます。
この教材は、まさに「学び方を学ぶ」がわかりやすい形で可視化されたものだと思います。実はこれをやってみようという話は、はじめはたまたま『ごんぎつね』に「超」詳しい人とクラブハウスで盛り上がった事から始まったんですよ。どうせやるなら、と
経済産業省の『STEAMライブラリー』にのせられるようにと教材を作っていきました。」
「STEAM化ごんぎつね」の教材を作るうえで、学校全体で取り組むことがとても重要だと感じたそうです。
「私は普段から海外の教育研究論文などを読むことが多いです。その知見を、どうにか活かしたいと思っているのですが、僕だけの言葉で伝えても「え?」となかなか伝わらない……。今回の教材制作も、自分が発信するだけでは足りなくて、校長と、研究授業を担当してくださった先生がおもしろいと言ってくれた事がキーポイントだったと思います。」
「先生個人がそれぞれでやるんじゃなくて、学校全体として教科横断的に学びをやっていくことに意味があると思うんです。
悩みも多いし、専門的な細かい部分はすぐにはわからないこともありますが、『なんかおもしろい事が起こりそうだぞ…!』という空気をつくるのって大切ですよね。学校として、全体のレベルアップのために諦めてはいけないところだと感じています。」
良い学びとは「知ったら、もっと知りたい。わくわくする」が続くこと
どんな学習も全ては”学び方”につながると考えていると話します。
「どんな学習においても、やっぱり”学び方”を学んでいないといけないなと思います。学習というものをメタ的にとらえられるように。大学進学を目的とするような勉強=学びではないと考えています。それぞれの人によって、学びの目的も中身も違う。
よく言われる勉強が楽しくないとか、そこからドロップアウトしてしまうのは、学びに対しての教師側の手だてが足りない部分もありますし
学習者側が自分の学びに対して、『どんなことをどれだけ学習して、どんな学びがあったのかを認知できていない』という面もあると思います。もちろん、それをテクノロジーが助けてくれる部分もあると思うんですけどね。
学びっていうものの形がわかってくると、『それって何のために』『なぜ、どうやって』を掴む必要があるとわかります。そのためにはどんな文脈でも、自分が学びに没頭するという経験がないとダメです。
その学びをいろいろなパターンで経験していくと、自分って何に興味もっているのか、、わいているのかがわかってくる。キャリア教育にもつながると思います。」
「自分もそうだけど、やっぱりわくわくしていることが一番大切です。子どもにしても大人にしても、「それを知りたい」とか、「知ったらもっと知りたくなる!」気持ちが溢れるような学びが良い学びだと思います。その学びが深くなったり広がったり、これじゃだめだと思って、立ち止まったりぶつかったりするけど、そのわくわくこそが自分のモチベーションが継続していって、さらに深めていけるものだと。全ての学習において、それをし続けるのは難しいかもしれませんがそういう学びが生まれる、そういう必然がある学習がいいなと思います。」
「僕は社会構成主義の考え方が好きです。全ての事柄は、自分とそのものとの関係性でしかない。赤ちゃんが世の中とつながっていない、やっとママとつながって、『あ、この人は自分のお母さんなんだ』と、自分の中での意味を形成していきます。
誰かに『この人は君のお母さんだよ』と教えてもらうというよりも、それを自分から掴みとって形成していく。
この、自分から掴みとる学習に意味があると思うんです。
人によってきっと興味の差もある。概念として思っているものの差もある、概念形成の方法の差もある。その中でいかに、そのものと自分をつないで深くしていくのか。
いろんなものとつながっていくからこそ、自分の中に身につくものがあると思います。」
医学の観点から見る教育と教員養成システム開発
教員として学校現場に携わる傍ら、大阪大学大学院医学系研究科の博士課程にも通っているという堀さん。
「僕がそこで学んでいるのは、教育学ではなく医学系の保健学の分野です。学びというものの仕組みや学習を、人はどうやって継続していくかについて深めたいと思っています。
例えば学校で、授業の後に感想を書かせたりとか、『よくわかった』とかで評価をつけがちですけど、その学習評価は研究としてやるには弱いなと。医学の手法を教育に生かせないかなと思って、人という動物が学習するうえでの医学的な観点も学びにいれたいと考えています。」
これからの教育について深めるとともに、この知見を多くの先生と共有していきたいと語ります。
「今、カリキュラム自体を柔軟にして探求的に学んで…と工夫されている学校も増えてきました。でも、それってその学校でしかできないんじゃないか?とか、普通の小学校でできる?持続可能なのか?とか。いろんな疑問がわきますよね。
初等部でやろうとしていることは、僕はすごく意味があると思っているし、難解なように見えるけどどの学校でもできると思うんです。
でもそのためには、先生が、学びをつくっていく側がそういう意識と価値観をもたないといけない。ゆくゆくは僕も、そういう学びをつくれる先生たちを育てられたらいいなと思っています。」
先生たちを育てるため手段として、まずは研修を改革したいと考えているとのこと。
「教員免許更新制が廃止されたこともあって、これからどんどんオンラインの動画研修などが増えていくと思うんですね。今までも研修ビデオとかありましたが……、あれでは伝わらないかもなと思うところもあって…。
いろんなトピックに関して、先生達がいつでもアクセスできる
教員用のMOOCs(大規模公開オンライン講座)になるようなサイトを作りたいと考えています。
今、『明日使える○○術!』とか、『クラス経営で使える小技!』とかいろんな本が書かれて出版されています。でも、参考文献がついていなかったり、それってどういう学習理論に基づいてるの?と思ったりするものも多い。
たしかに即効性があって使いやすいものなのですが、そういうものだけ取り入れてうまくいっても、なんでうまく行ったかがわからない。ラッキーパンチになってしまうと思うんです。
その小手先の技術をコレクションのように引き出しにしまって使っていくのではなくて、学びそのものについて深めていかないと…。またやることが増えた!新しい技を!となってしまうなぁと。」
先生と子どもではなく、人として対等に対話する
「何を勉強させるとか、どんな教育プランが良いとか。世の中にはたくさんの学びのパッケージがありますが、やはり一番大事なのは自分の興味、好きな気持ちだと思います。そここそが、子供たちが学びへのあるべき姿。”学ぶ”のあるべき姿だと思います。
その時の心の状態や状況、環境いろいろあるけれど、本来人は学びたい生き物です。いかにそこを邪魔しないか。その一つ一つを対話して、あるがままに向き合えるといいなと。
きっとどうしても先生は先生でありたいところが強いんだと思います。でも、そうすると子供は言葉を選んでしまう。本音が言えないですよね。
全部自己開示しろという意味ではなくて。ごちゃごちゃ言わなくて、ストレートに自分も学んでるし、おもしろいことはおもしろいと素直に伝えて、素直に聞く。子どもから何かフィードバックがあっても、否定されているんじゃなくて本音が聞けるような場をつくっていきたいです。
僕は1年生だろうが6年生だろうが、向き合い方は変わりません。子ども扱いをしない。
大切にしているのはそこかなと思います。人として一人ひとりと向き合っている。そうありたい。全部できているとは言えないけど、人として素直にやりとりできたらと思います。」
小学校教員、大学院での研究、教員養成システム。教育という分野で幅広く活躍されている堀さん。これからも、より良い学びへの追究を続けていきたいとお話してくれました。
編集後記
昨年の秋にSTEAM化ごんぎつねの研修に参加し、衝撃を受けたのを覚えています。「教科横断的な学び」という言葉はたくさん聞いてきましたが、具体的な形になっていてなおかつ心がワクワクするこの教材にとても興味を惹かれました。学び方を学んだ子どもたちは、学校を出てからも、この世界のいろんなものに対して問いをみつけて、深めて、生きる事そのものを楽しんでいけると思います。今後の堀さんのさらなるご活躍をお祈りしております!
堀さん、貴重なお時間ありがとうございました。
(インタビュー・編集・イラスト By Umi)
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