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声に出して読むなら『海潮音』でしょう

古語はかっこいい。ていうか、文語がかっこいい。五七調になるとさらにかっこいい。かっこいい文語の代表といえば、上田敏がふと浮かびました。ということで、今日は『海潮音』を読みます。

……ていうのは嘘で。いま、たんに耳鳴りがひどく、あたまのなかがワンワンうるさくてですね。なんかそういう系の本ないかしらと本棚を探したら、これが目に止まっただけです。耳鳴りは波の音ってなにかの連想が働いたのでしょうね。

でもまあ上田敏がすきなのは本当。どうやったって気持ちいい音のならびだもの。

山のあなた カアル・ブッセ

山のあなたの空遠く
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かえりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。

たまりませんね。完全なる7音5音の繰り返し。

「日本人ならこの五七調や七語調はすぐ口につく」と書いているのは、松岡正剛で。短歌や俳句だけでなく私たちの日常にも忍び込んでいる、といいながら「マッチ一本、火事のもと」「飛んで火にいる夏の虫」「三井住友ビザカード」「千と千尋の神隠し」まで具体例連打してて笑った。たしかに。米津玄師のFlamingoもそうだと書いてあり、指を折りながら何度も聞いた(あのニュータイプ和語みたいなのほんとにおもしろいですよね、何読んだらああいう言葉づかいできるようになるんだろう)
で、なんでこの調子を日本人が好むのかははっきりしないらしいのだけれど、長江文明と関係があるとかないとか。(『日本文化の核心』第7講 型・間・拍子より)


上田敏のは、あれが訳詩だからさらにぐっとくるのでしょうね。辞書引かなきゃわかんないような完全なる古語ではなくて、絶妙に古くて格式を感じる文語。明治の翻訳語ならではの、現実から隔絶された感じがいいなあと思うわけです。

巻頭におかれたのはこんな詩だった。

燕の歌 ガブリエレ・ダンヌンチオ

弥生つひたち、はつ燕、
海のあなたの静けき国の
便(たより)もてきぬ、うれしき文を。
春のはつ花、にほひを尋(と)むる
あゝ、よろこびのつばくらめ。
黒と白との染分縞(そめわけしま)は
春の心の舞姿。[…]

んまーーーーーうつくしい。
ガブリエレ・ダンヌンチオっていう表記も萌える。

つばめ描写がかっこいいのだ。そのあとも、

あゝ、よろこびの美鳥(うまどり)よ、
黒と白との水干(すいかん)に、
舞の足どり教へよと、
しばし招がむ、つばくらめ。
たぐひもあらぬ麗人の
イソルダ姫の物語、
飾り画(えが)けるこの殿に、
しばしはあれよ、つばくらめ。

訳ならではの、「イソルダ姫」も舶来感があっていい。やー。音読して楽しいね、いいな、いいな、翻訳詩いいな。

うめざわ



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