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株価チャートの背後には人々が下した選択がある

2024年1月に、新NISAが始まった。それもあって、投資に関する本や記事を読み始めた。色々と読んでいく過程で、投資の考え方は、他のことにも応用できるのではないかと考えるようになった。そのことについては、すでに別の記事で書いた。

投資関係の文章を読む中で起きた変化は他にもある。それは株価チャートを見た時の捉え方である。以前は、数字の変動を示すものという印象を抱いていた。しかし今では、投資家が下した選択の歴史という印象を抱いている。

過去のデータを見る限り、経済指標は上がり下がりを繰り返しつつ、右肩上がりで成長してきたと言ってよい。ここに、「長期的に見ると、経済は右肩上がりで成長する」と言われる所以がある。実際の所、チャートの右側がどうなるかは、誰にも分からない。それでも投資家は、未来における経済成長の可能性に期待して、投資を行っている。

そしてこの「未来における経済成長の可能性に期待して」という所から、喜劇が起ることもあれば、悲劇が起ることもある。そうした事情は、暴落前後の局面において、端的な形で現れる。

暴落が起る直前は、株価指数が最高値を記録している状況である。そこで暴落が起ると、株価は坂を転げ落ちるように下落していく。いわゆる損切をしようとする人々の選択が、株価の下落を加速させる。株価はこのままずっと下がり続けるのではないか、という不安が市場に広がる。

しかし株価指数は、ある程度のところまで下落すると、今度は上昇局面に転じる。この株価上昇の背後には、安値で買いに入る投資家たちがいる。余剰資金を蓄えていた投資家は、「待っていました」とばかりに、多くの株を買っていく。そうした投資家の行動が連鎖した結果、株価はどんどん上昇していき、遂には暴落前の最高値を更新するということになる。

暴落以外の局面について見ても、投資家たちの選択が株価の変動を生み出していることは同じである。利益を確定させるための売りが集中した時は、一時的に株価が下がる。すると今度は、そのタイミングを狙った買いが集中し、再び株価を押し上げる。それによって株価は小刻みな変動を繰り返す。

株価チャートの変動の背後に、人々が下した選択があると考えるようになった時、かつて読んだ本の中に出てきた、次の一節を思い出した。

「作品は目の前にあり、人は奥のほうにいる。一生懸命に熟読していけば、本が本に見えないで、それを書いた人間に見えてくる。いいかえれば、人間から出て、文学となったものを、もう一度人間にかえすことが、読書の技術なんだ。」

(高見沢潤子『兄小林秀雄との対話 人生について』講談社、1970年、83頁)

文学作品の背後に著者の試行錯誤があるように、株価チャートの背後には投資家たちの下した選択がある。文学と投資は異なる営みではあるが、案外、似ているところがあるのかもしれない。


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