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松本人志が「一気に八回読んだ」、よしもとの会長・大﨑洋の著書『居場所。』を読んだ

先日、仕事の合間にふらふらと京都・丸善へ立ち寄った。村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』を買うためだった。が、店頭で実際手に取ってみると、わりと分厚い。値段も高い。ということで、本をもとに戻してしまった。以前は熱心に読んでいた村上作品も、最近はちょっと敬遠気味である。
 
書架を見わたすと、新刊書コーナーに吉本興業会長・大﨑洋さんの新著『居場所。』があるのに気がついた。そういえば、本を出したというのをネットで見た。近づいてよく見ると、帯に「松本人志『一気に八回読んだ』」と書いてあるのが目に飛び込んできた。

それで、「よし、村上春樹よりもこっちだ」と、さっそく購入。私も一気に読んでみた。今日はその感想文です。
 
表紙に書かれているのは、「ひとりぼっちの自分をすきになる 12の『しないこと』」。同氏が波乱と激動の人生のなかで身につけてきた、人生訓を書き綴ったものである。
 
以前、新潮文庫から、常松裕明著『よしもと血風録: 吉本興業社長・大﨑洋物語』(2017)という本が出ており、こちらも読んでいたので、大﨑さんの人となりについてはそれなりに知っているつもりであった。
 
『居場所。』は、この本よりも、大﨑さん自身の生身の思考がたくさんあふれている、という印象。「孤独を見つめすぎない」「競争しようとしない」「限界までがんばろうとしない」など、12の「~しない」が綴られている。
 
これらの「~しない」は、おそらく一般の会社経営者であれば、「~すべし」と断言するだろう。たとえば、「競争しようとしない」ではなく「競争して勝利をつかめ」、「限界までがんばろうとしない」ではなく「限界を突破せよ」、「ルールを決めすぎない」ではなく「ルールを決めてきっちり守れ」、などなど。
 
つまり、大﨑さんの主張は、すべてネガティブなのだ。それで会社が経営できるのか、という疑問も浮かぶだろう。私は吉本興業とは何の縁もない人間なので、同氏の経営術なるものはよくわからない。しかし、おそらく、これらの徹底したネガティブな思考法が積み重なることによって、強烈なポジティブへと一挙に変換されるモーメントがやってくるのだろう。つまり、「マイナス×マイナス=プラス」の発想方法なのだ。
 
それは当然、ひたすらに世間を拒否する、人を寄せ付けないということではない。ある時ふっと人の集まる場から離れ、一人になってあれこれ思考をめぐらし、思いついたアイデアをそっと周囲の人間に啓示していく。そんな、人との「離脱」と「密着」を繰り返すような人間なのではないだろうか。
 
おそらくその性格を要約すれば、「人付き合いは非常に下手であるが、このうえなく人間が好き」なんだろうと思う。かなりひねったような、非常に難しい性格のなので、他人からは理解されないかもしれない。だから、同氏も「みんなにわかってもらおうとしない」と説く。
 
でも、世の中の人々に対しては並々ならぬ思い入れがあって、本人が「孤独を見つめすぎない」と語るように、孤独でも希望にあふれて、社会を変えたいという「あこがれ」を捨てることはない。
 
ただし、このような希望や変革は、自分一人では成し遂げられない。だから、「限界までがんばろうとしない」で、誰かに夢を託していくことになる。そしてそこには人とのつながりが自然と生まれてくる。
 
その実例が、いうまでもなくダウンタウンである。大﨑さん本人は、彼らの後押しをするわけで、その意味では、大地に根を張るような確固とした「居場所」が彼自身にあるわけではない。ただ、ふんわりと柔らかく誰かの背中を押すのだ。そうした優しさがいかに培われたのかは、本書を読んで知っていただくほかない。
 
先に挙げた12の「~しない」がそのまま章立てになっているが、抽象的ではなく、大﨑さんの人生の歩みに沿ってつづられているのも非常に読みやすく、好感がもてる。
 
松本人志さんが「一気に八回読んだ」というのもうなずける(たぶん2~3回しか読んでないだろう)。機会があれば、ぜひ手に取ってほしい。
 
では、また次回。(梅)

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