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空気は読むな 巻き込め

「空気は読むな。人に巻き込まれんな。巻き込め。」

『彼』に救われた佐々木から聞いたことだ。

「これは、ずっと言われましたね。当時のボクは周りの顔色伺ってばかりで、言いたいこと何も言えなかったんで。」

佐々木はさ、彼のとこになる前かなりしんどそうだったよね。

「はい。めちゃくちゃしんどかったです。でも、ボクが売らなかったから悪いんですけどね。」

どうやった、彼のとこになって。

「全然違いました。だからびっくりして、最初はわけわかんなかったです。」

なにが?

「これまではずっと空気読めない、そんなんじゃ売れない。空気を読め、気を使え、っていわれ続けてたので。それが…」

違った。

「はい。最初は空気読んで、気を使おうとして、ずっと目で追ってたんです。そしたら、佐々木は子供の頃なにになりたかったって。

いきなりで戸惑ってたんですけど。それからですかね、ボクが空気を読もうとしたら毎日なにかを聞かれました。」

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毎日? 

佐々木は、額の汗をハンカチで拭い答えた。

「はい。どんな部活してた、とか。なんでその部活した、とか。ボクは野球部のキャプテンだったんですけど、キャプテンで苦労したのはなに、とか。毎日です。」

なんでか聞いた? 

「はい。聞きました。そしたら言われたんです。空気読もうとしてるから、って。」

どういう意味なの、と尋ねる。佐々木はボクもわからなかったので聞きました、と言う。

「そしたら、佐々木エエかぁ、空気は読むもんちゃう。人に巻き込まれんな。人を巻き込め、って言ったんです。」

佐々木は水を飲んでいいですか、と僕に断りを入れペットボトルを口につける。

「失礼しました。事あるごとに言われましたね。ボクが空気を読もうとしてると。それから、ボクのことを聞いてくれました。

何日か繰り返したとき、気がついたんです。上司の顔色ばっかりみて、ボクはボクを忘れていたんだって。もっと自分を大切にすれば良いって。

カラダ中に巻きついていた鎖が取れたきがしました。」

そうなんだ。他に何か言ってなかった。

「言ってました。自分の感じたことを真っ直ぐ語れって。人に巻き込まれるぐらいやったら、佐々木が巻き込めって。そしたら、ほんとうになりたい自分に近づくって。」

そうなんだね、と僕は言う。

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「ほんとに楽しそうに話すんです。佐々木はそうなりたいんかって。

あの人と話してると、なんか出来そうな気がするんです。それに想像してしまうんです。

ボクが成長したらこの人、すっごい嬉しいんだろうなって。

エエ酒のつまみや、って言いながら、ボクの成長までの日々をボクに語らせるんだろうなって。」

僕は佐々木にお礼を言う。そして、彼のことを考える。僕は、そうだろうな、って思う。

彼はホントに酒のつまみにしてただろうな、って。そして僕に言うのだ。

「なっ、めっちゃエエやろ。」

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余談

なぜ彼の指導方法を誰も学ばないんだろうと思い、他の上司達に聞いたことがある。返ってきたのは、大抵の場合、甘い教えだ、とのことだった。

僕はその日、酒を煽って次の日、とんでもない遅刻をした。

彼がどないした、と声をかけてきたので、僕は言った。

すべてはあなたのせいです。




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