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#ユリと#チューリップが刈られる 妖精のMOAIは帽子をかぶることにした。 レター6

2020年4月25日土曜日13:30 曇があるが陽は注いでいる。二日酔いの僕は自宅のソファーに座りながら娘たちとMOAIのことを観察している。朝から胃がむかむかしている。肝臓のあたりに猫が乗っかったみたいな重みを感じる。牛乳を一口飲んでからは何も食べられそうになかった。

今日は朝からMOAIが騒いでうるさかった。いたい、いたい、とけがをしたわけでもないのに、騒ぎ続けていた。僕の奥さんはそんなMOAIを抱きしめて介抱していた。娘たちもMOAIを心配して、MOAIに声をかけていた。

僕はトイレで胃の中のものを吐しゃしては、洗面室でのどをうがいして、それからまだ布団に戻り横になった。それ以降もMOAIはいたい、いたい、とまるで壊れたラジオみたいに繰り返していた。

眠れない僕は、仕方なく30分前からソファーに座ってMOAIと娘たちを観察することにしたのだ。妖精のMOAIは真っ赤な口紅と頬がやけにピンク色になっている。化粧のことはよくわからないけど、吐き気がする出来栄えだ。MOAIが娘たちに化粧を施してくれ、とお願いしたようだ。MOAIはときどきいたみが襲ってくるのか、顔をしかめていた。

はい、できあがり。とってもかわいいよ。ねぇ~パパ見て、と娘が言う。化粧をほどこされたMOAIは、娘たちにお礼を言って、帽子をかぶると、それから外に出るため窓を開け、そのまま何も言わずに飛び立った。

やり場のなくなった娘たちがリカちゃん人形で遊び始めた。パパも一緒にやろうよ、と誘ってくるが、僕は忙しいから、と言って断る。二人はいつものことだと諦めたのか、コロナごっこをはじめる。

上の娘 リカちゃん役 「ああ、わたしコロナにかかったみたい。たいへんたいへん。病院にいかないと。」

下の娘 お医者さん役 「あなたコロナですか? わかりまちた。わたしがみてあげます。あら、コロナでつね。死んでしまうかもしれません。てをあらいましたか? すぐにあらってくすりをのんで、ここでねててください。心臓がいたいときはさすってください。」

上の娘 リカちゃん役 「はい。ここでねます。心臓がいたいときはさすればいいんですね。わかりました。せきもとまりますか? わたししんでしまうのですか。」 

 ここで二人の打ち合わせ。 たすかったことにしよ。でもこの子にうつってしまったことにしよう 云々。

僕はそれを動画に撮り、twitterにあげた。

ついった1

コロナ遊びは注意するな、精神的に消化しようとしているから、というような記事を読んでなければ僕は心配していたかもしれない。だから二人にコロナ遊びは任せて、僕は机に移動する。

noteにいくつかのコメントが届いているのをみてドクンっと心臓が鳴る。僕はおそるおそる返信を送ろうとする。でも、なんと返していいかわからずに戸惑う。

僕はノートパソコンをわきにどける。それから続きを読み始める。妖精のMOAIがくれた「本?」を。

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 MOAIがくれた「本」?について        

       タイトル 【才能と情熱を開花させる】   

≪優秀な個人が陥る「マネージメントの穴」≫
 多くの優秀な人材がマネージメントになった時点で壁にぶつかる。自分であればできていた。できないメンバーをみては「なぜできないのか」と繰り返す。メンバーの無能な姿ばかりが目に付き苛立たしさを覚える。あなたがせっかく貴重な時間を割いて指導しているのにのに、メンバーは成長しない。改善しようという意欲さえ感じられない。

優秀なあなたはメンバーを信頼することをあきらめる。人には向き不向きがあるのだ。メンバーにとってこの仕事があっていなかった。メンバーの人事評価にあなたは「×」を書き込む。そのとき、「マネージメントの穴」に陥る。一度落ちた穴から抜け出すことは、残念ながらとても難解だ。砂漠の中から落としたコンタクトレンズを見つけるようなものだ。

なぜ、優秀な人材であったあなたは穴に落ちてしまったのだろうか。

理由はこうだ。あなたは、あなたのやり方があなた自身に合っていたため、あなたはあなたの努力をした。あなたがマネージメント層に抜擢されたのは、そのようなあなたの成し遂げた努力の結果だ。だから他の従業員達にもあなたのような成長が遂げられるよう指導してほしい、という期待をかけられる。あなたは、あなたのやり方を従業員たちに指導するが、一向に効果が出ない。効果が出たと思っても一時的であり、継続性がない。だからあなたは思いはじめる。所詮、あなたのような優秀な人材は稀有な存在なのだ。生まれ持ったものがあり、あなたのようになることは不可能なのだ。あなたは特別である。あなたは指導をあきらめ、探す。あなたと同じように優秀な人材を。あなたはある日、あなたと同じように優秀な成績をおさめている人材をみつける。あなたは指導をする。とても熱心に。そして、あなたのもとでその人材は離職する。あなたのやり方にはついていけない、と言って。もっと本質を言うなら「あなた」についていけないのだ。

この時点で「マネージメントの穴」に陥っている。ここで立ち止まれればまだいいほうだ。しかし、一度、穴に陥ったものたちは、「自分は優秀である」、という幻想から抜け出すことができなくなってしまう。そしてこう考える。離職したのは私の見る目がなかったのだと。次はもっと見る目を養わなければならない、と。ただ、残念ながら決してうまくいくことはない。あなたが見込んだメンバーも、あなたのもとでないほうが活き活きと、より効率よく成果をだすからだ。羊と狼の関係そのものだ。羊は狼へは恐怖・軽蔑しかもっていない。当然、仲間ではない。

あなたが役立たずだとレッテルを貼ったメンバーが、部署移動・転職などで華々しい活躍をすることがある。むしろその場合のほうが多い。そんなとき、「マネージメントの穴」に陥ったものたちは、自分を正当化する。「あの指導した部下は、あのときはわからなかったけれど、今ならわかります、と最後に感謝をしてくれるはずだ」と。

だが、残念な現実をつきつけよう。そのメンバーは、感謝しない。なぜなら、あなたはメンバーの「才能と能力に制限をかけ続けた」からだ。無能であるとレッテルを貼られて、苦しみ続けた日々をメンバーは忘れることはない。“人は与えた分しか受け取れない”だ。ギブアンドテイク。あなたの元でないことで自分の能力を活かすきっかけをつくれたのだ・・・・・・あなたは何をしたのだ?

これが優秀な従業員が「マネージメントの穴」に陥る経緯だ。おわかりだろうか。すべて、「あなた」は「あなた」を中心に物事を捉えていたことに気がついただろうか。人は選択的知覚というものがある。心理学では【カラーパープル効果】といわれるものだ。人は自分の意識している範囲内のことしか認識できない。洋服が好きな人は、電車内広告でも目が留まる。かたや映画の好きな人間は映画の情報がはいってくる。この世の中の膨大な情報を受け取り続けることはできない。そのため人は、選択し知覚しているのだ。これと同じことが言える。「あなた」は「あなた」を基準にしている。つまり「相手」を見ていないのだ。

もっともシンプルなことだが、あなたは彼ではないように、彼はあなたではない。

ほんとうに優秀なマネージャーたちは知っている。このようなマネージャーをマネージャーと呼んではいけないことを。ただの管理者だということを。このような「マネージャーの穴」に落ちた考えをもった人間はすぐにでも、マネージャーの任を解いたほうがいい。なぜならこの結果、従業員の生産性は低下し、会社への不満が募る。やがて無気力な従業員が増加することで業績が低迷するからだ。

従業員たちは思うのだ。「このマネージャーの元から一刻も早く離れて、自らの才能と能力を活かそう、と。無能なマネージャーに無能だ、というレッテルを貼られる前に。

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14:55。妻がバルコニーでプランターを用意し始める。娘たちも一緒になってシャベルをもって作業している。外は少し風が吹いていて冷たいようだ。ときどき、娘が体を縮めて、両腕をこする。

僕はふと思い出す。ドイツ映画の「ES」のことを。そして胸が締め付けられるのを感じる。目を閉じて、しばらくやり過ごす。それから『ドイツ映画の「ES」』と、携帯で検索をする。WIKIPEDIAを開き、概要を僕は読み始める。

この映画は1971年にアメリカのスタンフォード大学で実際に行われたスタンフォード監獄実験を元にしたマリオ・ジョルダーノの小説『Black Box』を原作とし、ジョルダーノ本人が脚本作成に加わっている。
映画では、新聞広告によって募集された男たちが、ドイツの大学地下に設置された疑似刑務所で、囚人と看守の役を2週間演じ続ける実験が行われる。この実験の存在を知った

 ルーフバルコニー側の窓がコン、コン、とたたかれる。MOAIがカギを開けてくれというジェスチャーをする。僕は仕方ないな、という顔をして開けてあげる。ふと空をみると、雲がさっきよりも多く覆っていた。雨が降りそうな天気だ。

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「あ、あり…ウッ」

痛いのか?

「だ、だいじょうぶ」

MOAIの手には6本のユリと9本のチューリップが握られている。MOAIはバルコニーに行くと、僕の奥さんと僕の子供たちにそのユリとチューリップを渡す。僕の奥さんがその花をまとめて、水の入った花瓶にさす。それから、MOAIから何をうけとり――たぶん何かの種だと思う。プランターに撒いて、子供たちがゾウのジョウロで水をかける。

妖精のMOAIは帽子をとり、胸に持っていくと、まるで黙とうのような姿勢でしばらく目を閉じてじっとしている。他の3人もMOAIを真似て同じようにする。その後ろでは干しているタオルが風に揺られてはためていてた。

ドアをかけて、子供たちは言う。ねえ、ぱぱ。何を埋めたと思う?。

何を埋めたの?。

上の娘役 フフッ。秘密なんだ。いっちゃいけないんだ。でもわかるでしょ。

パパ役  なんだろう。教えてよ。わかんないなあ。

上の娘役 わからないの?。ぱぱ、もっと考えてよ。絶対わかるから。

下の娘役 うさぎのピンはわたしがさしたのです。

パパ役  なんだろ。絶対わかるもの?

下の娘役 ぱぱ、教えてあげるよ。種だよ。花の種を埋めたの。きれいに咲くかなあ~。

パパ役  花の種うめたんだ。きっときれいに咲くんじゃない。ところでなんの種?

下の娘役 ん~。わかんない。きれいな花の種だって。ママ~。お腹おかし食べていい?

バルコニーでMOAIと話している奥さん役の奥さんは、手を洗ってからね~と言う。

妖精のMOAIは帽子をかぶり直し、それからユリとチューリップの入った花瓶の前に座り込んだ。

僕はもう一度、WIKIPEDIAに書かれている『ES』の続きを読もうと思ったが、思い直して、『ユリ』についてtwitterで調べる。それからユリについて書いてあるコメントにハートをつけ続ける。『チューリップ』についても同じように僕はハートをつけ続ける。僕は自分のココロの痛みを消すにはこれしかないんだ、というように、心臓をさすりながらハートをつけ続けることに夢中になる。MOAIは花瓶の前で正座している。僕はハートをつける。MOAIは深く、深く帽子をかぶっている。ハートをつける。ハートを……ets。心臓をさすりながら。コロナになっても死なないように。15:45。

ね~ぱぱ。うめたのはきれいな花の種だよ。

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