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泡かぼちゃ

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2024年4月の記事一覧

泡かぼちゃ|第15話

人間関係というルーティンワーク。そうだ、このタイミングで相槌を打ち、このタイミングで「それな」と言い、このタイミングで怪訝そうな表情をして共感しているように見せる。

相槌が上手くなったんだ、って歌詞があったな。確か、Vaundyの曲。

相槌が上手くなってしまっていくうちに、勇次郎はコミュニケーションに存在するゲーム性に気づいてしまった。プラス100を狙わずに、プラス1くらい収めようとすると、ち

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泡かぼちゃ|第12話

いっそのこと、八坂を紹介してしまおうかと思ったが、それはやはりナンセンスだなと思い直した。ナンセンスな理由は、まずオフィスの場でするような会話を家でもしたいわけではないという点がひとつ。別に仕事の話をしたくないわけではないし、むしろ色々な話題があることは暇な時間を持て余さないで楽しむきっかけになるから重要だと思う。一緒に住み始めてからは、しばらく経った。

このしばらくという感覚は、とにかく「しば

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泡かぼちゃ|第11話

そうだ。平田から頼まれたことを思い出した。社内インタビューの、インタビュイーの選定だ。仕事というほどのものでは無かったから、勇次郎は少し自分にあった切迫感に呆れてみる。それにしてもどうして、平田は俺にそんな相談をしたのだろうか。確かに、顔見知り程度の知り合いはもちろん、会社に勤めているわけだからいるが、そんなに知り合いが多いわけではない。顔見知り程度の知り合いに、「平田がインタビューしてもいいひと

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泡かぼちゃ|第10話

というのも、八坂は勇次郎のガールフレンドだから、勇次郎はなおさら何故そんな噂話を敏腕司会者のようなファシリテーションで振っていくのかがよくわからない。

恋愛遍歴に別に自信はないし、実際過去に付き合った経験は片手の指で数えられる程度で、おそらく平均値だろう。勇次郎は平均値を押し上げている、別の敏腕司会者の存在も認識しているが、そいつらの話は一旦置いておこう。

八坂は、ヤサカと読む。まぁ、予想通り

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泡かぼちゃ|第9話

そういえば、平田が何かを頼んできていた気がする。なんだったか。勇次郎は、忘れっぽいくせに潔癖そうな見た目をしているから勘違いさせてしまいがちで、よく損をしている。

期待値が高いと、どんな結果を残しても「あぁ、悪くないな」と思われたり、結果を残さないと「え?あの島内さんが?」とか言われたりする。お茶汲みの仕事なんてないのに、自主的に(もしくは何者かによって操作されるラジコンのようにかもしれない)お

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泡かぼちゃ|第8話

同じ職場の平田というやつは、出身が大阪ということだけ覚えていてそれ以外覚えていない。だけど、メールの返信に関してはこいつは苦にしてなそうに見える。他にも電話対応とか。実際、電話対応なんて業務はあまりないモノだと思っていたが、そんなことはないらしい。牛丼には紅生姜が必要であるように、ビジネスシーンにはどんな効率化を進めても必要らしい。

生の声が、生のネギくらいにツンとして嫌だと時に思う勇次郎は、対

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泡かぼちゃ|第6話

コンビニから帰り、返さなければいけないメールボックスに溜まったいろいろを思い出す。ゲートで鳴る、ピッとなるのが新宿御苑のフリーパスでよく通ってた過去を思い出させる。うろ覚えだけど、何回も入場するならそれを買った方がいい。あそこに入り浸ってみると、それだけで文学的な世界観にふけられるような気がして、なんか好きだった。風は24度のままで、頬を撫でる。産毛まで剃ってしまったからか、風は勇次郎に寄り添って

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泡かぼちゃ|書くのだるい編

なんやねん、このタイトル。

とは思いつつ、第4話までは毎日投稿できたけど、いやいや書くのめんどくせぇなおい。

でもね、内省してはいましてね。そのことをせっかくだからシェアします。

まず、1点目。

オフィス入った描写を書いたのに、すぐコンビニに出ている点。

非常におかしい。流れが狂ってる。

そして、2点目。

思想が文章に見えすぎている。自らの生活や考えがもろに反映されていて、鬱陶しい。

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泡かぼちゃ|第5話

大学時代に入り浸っていた図書館はいつも冷房の効きが悪かった。夏はあつく、冬もあつく。暖房はむしろ効きすぎで鬱陶しかった。

都会的なキャンパスでテクノロジーの活用をひとつの強みとしているのにも関わらず、室温の調整さえできていない。我々から設備費として徴収しているわけはどこへいったのやら。

しかし、今の会社はその点よい。エアコンがついているかついてないかも分からない。

快適なことに気づかないから

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泡かぼちゃ|第4話

年中クールビズな企業で働いているから、結ぶネクタイがなくて、なんか本当に社会人なのだろうかと思ってしまう。が、そんなときはメールを敬語を使って定型文を書いたり、スプレッドシートで業務管理をしたりすることで自分を落ち着かせる。

大丈夫、俺は社会人だ。

社会人、という言葉の並びに違和感を覚えない訳じゃないけど。社会に出ている人って、誰もがそうじゃないか。どんな幼児でも、彼らなりの社会のなかで生きて

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泡かぼちゃ|第3話

泡かぼちゃ|第3話

勇次郎は、微妙に色の違うタイルを踏みながらビルに戻ってゆく。どこからともなく、仕事のカオリがする。

東海道の起点となる、この場ではパン屋やコーヒーショップが多くあるのにも関わらず、ゆるやかなビジネスの空気がまるで街という人格にネクタイを結ばせるように存在している。

「シンプルイズベスト」という言葉があるが、地下的な価値観はひとまず置いといて、きりっとした柔らかさが妙に勇次郎は心地よく感じている

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泡かぼちゃ|第2話

泡かぼちゃ|第2話

徒歩30秒のところにある、ローソンでアイスコーヒーとツナサンドを買って、勇次郎は物価の高騰を感じる。全体的に1.2〜5倍になった印象だ。幸いなことに、勇次郎は労働者階級の中では比較的高給取りなためにそこまで困ってはいないが。

何かの並木通りのもと、点字ブロックの山吹風な黄色と緑の対比に見惚れていると、正面からロングヘアの女が目を流しながら歩いてきた。

美しい女だ。

女じゃないかもしれない、と

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泡かぼちゃ

優先順位をつけて、選択してきたはずの人生。終わりにかけてさらに出てくる、気付いてくる綻びの数々。光陰矢の如し、すなはち、言い訳いう暇もなし。燦々と降り続けるサンシャインが、スーツの汚れをてかてかと目立たせている。勇次郎は、「調子はどー?」と聞かれないように吊り目をそのままにして会釈だけをして、入社ゲートにカードをタップした。

これだから、ハイテクもどきが。

と、勇次郎はいつも通り舌打ちを静かに

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