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泡かぼちゃ|第2話

徒歩30秒のところにある、ローソンでアイスコーヒーとツナサンドを買って、勇次郎は物価の高騰を感じる。全体的に1.2〜5倍になった印象だ。幸いなことに、勇次郎は労働者階級の中では比較的高給取りなためにそこまで困ってはいないが。

何かの並木通りのもと、点字ブロックの山吹風な黄色と緑の対比に見惚れていると、正面からロングヘアの女が目を流しながら歩いてきた。

美しい女だ。

女じゃないかもしれない、と一瞬思ったが、そうでないと可笑しいと思うくらいにそいつのまつ毛は瞳に似合っていた。勇次郎は意外と、(意外とと思われるのだが)旧体制的な価値観は持っておらず、新しい常識を尊重するタイプである。そのため、別にこの女が女でなくとも美しいと思った自らを責め立てることはない。

しかし、同様に古典的な考え方も取り入れているため、女は美しいものだとも思っている。

はて、こちらはコンビニ袋を片手に死んだ魚の目をして歩くしがないサラリーマンである。

声をかけるわけなど、ミジンもなく、我々はすれちがう。

途端、勇次郎は思い出した。
「会話が上手くなってから、会話をしたくなくなってしまった」

ということを。

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