泡かぼちゃ|第12話
いっそのこと、八坂を紹介してしまおうかと思ったが、それはやはりナンセンスだなと思い直した。ナンセンスな理由は、まずオフィスの場でするような会話を家でもしたいわけではないという点がひとつ。別に仕事の話をしたくないわけではないし、むしろ色々な話題があることは暇な時間を持て余さないで楽しむきっかけになるから重要だと思う。一緒に住み始めてからは、しばらく経った。
このしばらくという感覚は、とにかく「しばらく」であって、半年でも1年でもない。半年であり、1年でもある一方で。
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「勇次郎ってさ、石原いじりされなかったの?」
急に、こんなことを問われたことがある。
「なにそれ、どゆこと?石原って?」
「とぼけないでよ。石原ユウジロウよ。同じユウジロウじゃない。」
「そういうことだったら、ないね。時代が石原ユウジロウ全盛期じゃないだろ?」
「なにそれ、ジェネレーションギャップがあるみたいに言って。私と勇次郎の歳の差なんて、2個しかないじゃん。」
八坂は少しも怒ってないような眉毛の動きで、問い詰める。
「で、2個なんて、0個でしょ。」
八坂と勇次郎は、八坂が大学院に進学していたために同期ではあるが、2個の年の差がある。でも、ただの2個差とは違って同期の絆があり、その上で恋人をしている。
「2個なんて、0個っていうのはいささか論理破綻しているようだけど。まぁ、そうだね。」
「わたし、すぐにジェネレーションギャップのせいにするひとはなんだか好きになれない。」
勇次郎は共感を心のうちでしながら、八坂の鉄火巻き的な怒りが自分や誰かに向いてしまわぬように、言葉を足す。
「ジェネレーションギャップの前に、僕らには見えないギャップがあるから。」
「俺らの間にもね。」
とは言わずに置いて。
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勇次郎は目の前の仕事に一旦集中することにして、過去を一時的にポイ捨てした。八坂はいつも、俺の記憶や思考に蔓延ってときどき嫌いになる。
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