環境・地域・都市・社会運動などの読書記録・その4
気づけば前回エントリからだいぶ時間が経過していた。勉強と趣味を兼ねて通読した書籍のみ、簡単にまとめたい。ツイッターで記録していたものを適宜参照する。
過去のエントリは次のとおり。
「環境・地域・都市・社会運動などの読書記録・その3」
https://note.com/umaumareport/n/n273298f85b5c
「環境・地域・都市・社会運動などの読書記録・その2」
https://note.com/umaumareport/n/n9794b3ecfd6a
「環境・地域・都市・社会運動などの読書記録」
https://note.com/umaumareport/n/n8dd74fd5b9ac
・蓮見音彦編,2007,『講座社会学3 村落と地域』東京大学出版会.
すべての章の紹介はできないので、記録に残したものだけ。
「地方自治体『構造分析』の系譜と課題――『構造』のすき間から多様化する地域」は勉強になり、地域構造分析や社会過程分析に関心を持った場合、最初からこれを読んでおけばよかったと感じた。
構造分析を断念する必要はなく(全体がわかるという期待はさておき)、分析のレパートリーとしてそれなりに言えることもあるだろう、と個人的にも思う。(その場合、「複数の日本」論が要請されるようだ。)
次に「現代日本の都市―農村関係の諸位相――都市―農村間の地域移動を手がかりにして」でおもしろかった点について。
柳田国男(「郷友会」)、有賀喜左衛門(「郷党」)、宮本常一(「郷土人会」)は同郷団体を取り上げ、日本の都市社会の特徴としてみなしている。そして神島二郎もまた、それを日本文化論の一貫として取り上げることになる。これらの研究を受けて、後続の研究群が遅まきながら発展していった、とされる。まとめられている研究群は、1985年以降のもの。
同論文の事例のひとつとして、加賀浴友会が取り上げられている。大阪の都市圏に移住し、周辺で浴場業に従事する。高度成長にかけて都市部での公衆浴場の需要が高まっていた。同郷の者を呼び寄せ、公衆浴場業を発展させ、また浴場業を斡旋するなかで、都市圏への移住が促進されていくプロセスが描かれている(p117)。
「開発と地域社会の変動」について。文献に下河辺淳,1994,『戦後国土計画への証言』が挙がっており、全総に興味があるので、どこかで読む必要があると思った。
・Crow, Graham and Graham Allan, 1994, Community Life: An Introduction to Local Social Relations, Routledge.
研究会で輪読。自分が担当した「エスニシティ、連帯と排除」の章だけ記録。
移民が家を買う時にその資金をどこから調達するのか。金融機関から融資を制限されるような場合、住宅に関するセグリゲーションが発生しそうだと感じた。さらに、実際に移民が持ち家を手に入れる場合、条件の悪い持ち家しか購入できず、「持ち家所有者」のなかでも二極化がありえそうだと感じた。イギリスにおいては、公営住宅の払い下げについて、戦間期に建設された条件の良い住宅は移民になかなか渡らない、という話を議論のなかで耳にし、住宅供給における行政の対応、あるいは民間の賃貸業者の対応で不利益を被っている人々がいる、という話だと理解した。
研究史上の文脈を今ひとつ追い切ることができなかったが、イギリスのコミュニティ研究におけるシカゴ学派の受容をどう考えるか、という文脈がありそうに感じた。
また研究会の議論で、イギリスにおける調査研究のアーカイブの話等も印象に残った。
・舩橋晴俊・長谷川公一・畠中宗一・梶田孝道,1988,『高速文明の地域問題――東北新幹線の建設・紛争と社会的影響』有斐閣.
高速交通公害をめぐる受苦圏―受益圏の議論でおそらく有名な共同研究と思われる。
住民運動が条件付き容認というフェーズになったときに運動としてのまとまりがなくなっていく様相を見て切なくなった。
埼京線の成り立ち、ニューシャトル(伊奈線)の成り立ちも恥ずかしながら知らず、事実を知るうえでも勉強になった。
東北新幹線は東京一極集中に棹さしただけなのではないか(東京を頂点としたヒエラルキーが再編・強化されただけではないのか)(6章)という議論や、受苦―受益の議論はどうやらこの本においては「効率―公正のトレードオフ」関係、効率追求の見直しとセットにした道具立てとしてで考えた方が良いのではないかという個人的な気づき(3章)、また日本の新幹線とフランスのTGVを比較するなかで、日本の「地域」とヨーロッパのような「地域」(国家と県の中間)の異なりについても考えさせられた(7章)。
(3)地域問題の内的性格においても、日欧では微妙に異なる。日本の地域問題の主流は、大規模な地域変動と人口移動によって引き起こされた住環境の悪化であり、コミュニティ形成であり、したがって地域運動は、まずもって住民運動やコミュニティ運動というかたちをとった。これに対して西欧では、地域運動は、住民運動というよりは、むしろ文明論的な価値観の選択をともなったかたちでのエコロジー運動、あるいは地域主義というかたちで現象した。日本の住民運動が住環境の改善を旨としてきたのに対して、西欧の場合は、いずれにしても文化ないし価値観のレベルの問題という性格が強い。また都市再開発に起因する社会運動が多いのも西欧の一つの特質であろう。(p277)
なるほどと思う一方、日本の運動では「文明論的な価値観の選択」にかかわる意識が実際のところ希薄なのか、あるいは希薄であったとしてもその萌芽のようなものはなかったのか、気になった。また、これまで読んできた「歴史的環境」の研究(木原啓吉)が取り上げているような「アメニティ」概念は、「住環境」の問題を考えるにあたってやはり重要だと感じた。
最後に、「ある問題を解決しようと思ったら別の問題が起きる」(ざっくり)という「構造的緊張の連鎖的転移」という議論も、ある開発にまつわるコンフリクトを記述する道具立てとして参考になるように思う(5章)。
・長谷川公一,2003,『環境運動と新しい公共圏――環境社会学のパースペクティブ』有斐閣.
環境問題や環境運動を軸にした一種の現代社会論の可能性が示されていると感じた。有斐閣の教科書『社会学』にも、本書の記述や知見がおそらく活かされているように見受けられた。
個人的にも考えたいのは、やはり開発が「公共性」を建前にしているような(歴史的)状況をどう乗り越えるか、ということで、難しい課題はあれど、11章で示されている「政策的公準としての規範的公共性」は譲れない一線なのではないかと考えた。
9章、住民投票が活発になった複数の背景の一つとして住民運動における訴訟が戦略として行き詰まった(裁判所の差し止めに対する消極性、裁判の長期化に伴う弁護団主導のあり方等)という点が取り上げられており、その移り変わりは(「自己決定」や「地方分権」という文脈も踏まえ)理解できるが、「運動における裁判の意義」が活かされている場面もまだあるのでは(環境運動に限らず?)とも感じた。
運動論関連の文献はあまり読み慣れておらず、例えば自分の関心のある事例で、政治的機会構造や、資源動員構造や、文化的フレーミングをどう記述・説明できるか、もう少し勉強してやってみたいと思った。
・吉永明弘・福永真弓編著,2018,『未来の環境倫理学』勁草書房.
あまり読んだことのない領域で、かなり理論的に頭を使うと感じた。読みやすい体裁をとっているように見えたが、個人的には難しく感じてしまった。内容が難しい、というだけでなく、「自分ならどう選択するか」というのが突きつけられているからなのではないか、という気もする。
例えば、2章6「核廃棄物処理施設の立地をめぐる〈世代間正義〉と〈世代内正義〉の対立」におけるジレンマであったり、3章「放射性廃棄物と世代間倫理」であったり、うまく説明する言葉をまったく持っていないが、「後始末をどうするか」という話になって途端に思考が止まってしまう。
・小島庸平,2021,『サラ金の歴史――消費者金融と日本社会』中央公論新社.
手元に書籍がなく(実家に置いてきたのか)、とりあえず紹介文を引用。
個人への少額の融資を行ってきたサラ金や消費者金融は、多くのテレビCMや屋外看板で広く知られる。戦前の素人高利貸から質屋、団地金融などを経て変化した業界は、経済成長や金融技術の革新で躍進した。だが、バブル崩壊後、多重債務者や苛烈な取り立てによる社会問題化に追い詰められていく。本書は、この一世紀に及ぶ軌跡を追う。家計やジェンダーなど多様な視点から、知られざる日本経済史を描く意欲作。
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/02/102634.html
残っていた記録だけ。新生活運動→家計の合理化→素人高利貸し→団地金融→その後の団地金融の衰退という歴史が示されており、この歴史のなかで、団地金融でのノウハウがいわゆる大手の消費者金融の礎となっている。
また、「サラ金」の需要について、例えば主婦層でなくサラリーマン層への融資が、サラリーマンの人事制度(接待漬けで出世していく)と結びついているという話もおもしろかった。(このあたりの記述だったと思うが、今のようにどこでもお金をおろすことができるわけではないので、文字通りお金を「宅配」するシステムがあった、というのも素直におもしろかった。想像がつかない。)
大きな論点としては、金融史における家計とジェンダーへの着目、与信をめぐる技術革新の歴史、そして(グラミン銀行を引き合いに出しつつ)金融的包摂がありそう。
あとふつうに団信の導入と運用(保険金で払え)がエグすぎて絶句した。「人間的な顔をした金融システム」はどこに……。
・藤波匠,2017,『「北の国から」で読む日本社会』日本経済新聞出版.
「北の国から'87初恋」の再放送を見てその流れで購入。2章と3章の目次だけ記す。
第2章 『北の国から』の農家はなぜ失敗するのか
「お前ら敗けて逃げるんじゃ」
1961年、農業が変わった
農業の機械化と離農のすすめ
廃屋の数だけ物語がある
農家にとって厳しい富良野、麓郷の大地
北海道では離農が農地集約を促した
8割以上の農家が離農
補助金による市場のゆがみ
赤い牛乳が意味するもの
集約と経営の合理化で利を得たのはごく一部
第3章 若い五郎はなぜ北の国を去ったのか
農業だけでは食えない厳しい自然
五郎の親兄弟はもういない
炭鉱で死んだ兄たち
国内石炭産業の盛衰
東京に出たのが自然だった時代背景
「金の卵」たちはどこに行ったのか
東京で職を転々とした五郎と純
1970年以降、若者は地方へ
https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/26360
北海道の農政における集約化・大規模化(・企業化?)の進行とパラレルするかのように離農・夜逃げ(連帯保証でにっちもさっちもいかなくなる)が頻発するというシビアな話があり胃が痛い(そもそもの話として、富良野・麓郷は農地の条件として厳しいものがある)。
「北の国から'87」でも、クリスマスイブに純がヒロインの夜逃げを見つけてしまい……というなんとも言えない場面がある。
さらに、夜逃げした後の借金の負債を組合が肩代わりするかわりに、農地や器具類を分配することもあり、結果として集約化が進行する側面もありそうだ。
他にも、集団就職(金の卵)をしても離職・転職が多く、特に都市出身と地方出身では就職先に偏りがあるとされる。小規模の事業所などに就職する地方からの集団就職組の離職率が高くなってしまう。このあたりの話は、「ひよっこ」や「ALWAYS 三丁目の夕日」を例として取り上げたりしている。なお、1970年代に入ると東京と地方の所得格差の縮小もあり、比較的景気の良い地方に移ることも増えるとされる。
純が上京して生活を送っていたバブル景気の頃は、東京の有効求人倍率は高く、しばらくは東京で生活することに困らなかったが、バブル崩壊後の求人の冷え込みの結果、地方に仕事を求めざるを得なくなる(純も富良野にUターンすることとなる)。
ざっくりと内容を紹介したが、日本の農業や就業etcをめぐる現代史を考える入り口として、「北の国から」はかなり良さそうだと感じた。
以下追記。読書の方向性が(乱読というほどできていないのはさておき)乱読気味というか、もう少し系統立てて消化する必要を感じる。
いくつかの方向性(和書のみ)。
・地域・都市・環境関連の教科書、講座本、リーディングスを総ざらいする。積み上げ式は無理なので気づいた限りで読む。
・博論本を読む。
・調査報告書を土台にした書籍について、部分的に読んだ箇所以外も通読する(例えば、序、結、関心ある章のみ読んでいる書籍をどう処理するか)。
(・新書→一般書→専門書のプロセスを踏む、とかも。これは今のところやらなくて良いかも?と思うが、だいたい自分がやらない、やっていないことに解決の糸口があったりするんだろう。)
方向性を決めたとして、いったい自分はどこに行くと言うのか……。それから、読むのが遅い(1回トレースするだけでも)にもかかわらず、「通読」への強迫観念が未だに抜けない。通読しても何も残らなかったら意味がないし、なんなら「部分的にしか読んでないけど〈本質〉を理解している」方が良いのでは……という気がする(そういうスキルが身につかない)。ただ、こうしてみると、「通読できている冊数少ない」というのが偽らざる実感であり、この間何していたんだろう本当に……。
あと、研究会やゼミの輪読がありがたかったなと今更ながら感じている。
記録の方向性について。全部をレジュメ切るのは無理で、それが自己目的化したら何の意味も無い。これはもうツイッター(鍵アカ)とか(最近見かけたツイッターの形状をしたテキストエディタ)を使って、現状のように気になった点を数ツイート分でメモしておいて、あとで集約するパターンが性にあっている気がする。エクセルマトリックス法とか、たぶん続かない。
「読まない」「書かない」という方策以外で、「読めない」「書けない」苦しさからいつ解放されるのか。自分に適した方法があったとして、それが他者から見て途方もなく非効率で、あまりほめられたものではない場合、どう折り合いをつけるのか。この歳になってもそんなことばかり考えて失敗し続けている(〈意識〉がダメな浪人生から進歩していない)。非効率でも速度をあげれば……、とかそういう破滅しか見えない道しかないのだろうか。
あと、もうちょっと、「視力が落ちている」「背筋・腹筋が弱い」「睡眠時間や生活リズムが安定しない」とか、そういうフィジカルの要因も考えた方が良さそうだ。
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